3Dスキャンデータで、アナログとデジタルをつなぐ造形作家「澤 奈緒」と表現としてのVR

造形作家、澤奈緒氏によってVR化された「Quantum Composition」

本作品は3Dスキャンデータを元に構成され、空間内では空中を歩けたり、作品を浮かせたりとVR特有の使い方で新しい表現を体感できる。

VRを活用する事で、アナログとデジタルの垣根を越え、新たな表現方法を確立した作品ではないだろうか。

本インタビューでは、「Quantum Composition」の制作過程から垣間見える人間性や表現をお伺いしてきました。

プロフィール

澤 奈緒 氏

澤 奈緒。東京生まれ。思春期をブラジルで過ごす。造形作家。

粘土を用いた造形作品を中心に活動していたが、壊れやすく割れやすいなどの点から、ウレタンフォームや布を使った造形作品の制作も行う。

自身の過去のトラウマから死生観や死をどう捉えるかなどを作品に落とし込み、メインテーマとして活動。2017年よりVirtual Realityを用いた創作活動も開始。

 

粒子からなる「Quantum Composition」

作品名「Quantum Composition」に込められた意味は何でしょうか?

澤氏:人間や世界は全て粒子からできている、という意味を込めています。

最低限の素材だけで、禅的な空間を表現しています。正直、作品内容は誰かが勝手に見立ててくれればいいと思っています。

個人的に日本の見立て文化に興味があって、作品の中で全てが理解できるVRではなく、見る側にも勝手に考えて欲しいんです。つまらないと思ってたらつまらないでいいし、ゆっくり休めると感じてくれる人がいてもいいかなと思います。

 

—作品名「Quantum Composition」に込められた意味をどう表現されたのですか

澤氏:”VR”でできることを表現しています。人間が一番幸せを感じているときは、何からも解放されているとき=癒し、だと思っていて、VRだと重力関係なく、上下に気楽にいけるし、まるで宇宙空間を試しているような気になります。リアルで作品を作ってもその中に入った臨場感がないのですが、VRは感動しました。

私がアートでやりたいことは、癒しや解放の表現なんです。びっくりさせる作品は他の作家さんに任せて、私はアナログなアプローチでやりたいんです。技術はなくても仕掛けやとんちがあれば私でもできるかなって。

 

どのような手順で制作されましたか?

作品で使われる素材

澤氏:作品の3Dスキャンデータをコピーして配置しています。

スキャンした作品の材料はもともと自分が着ていたセーターなどの布切れです。

粘土での制作も行なっていたのですが、どうしてもひびが入るし、とにかく重いんです。作品の中には、1mを超えるものもあるため、海外に行くときは持ち運びが大変です。そんな時に布だったらどうかな?と思つき、やってみたら意外とできそうな気がしました。

制作手順としては、最初に布に白いペンキを塗り、そのあと切り貼りしながら、グルーガンで貼りながら形を整えています。

でも、リアルなものをリアルで再現しても意味ないと思っています。だから色んな角度からみて表情が異なるよう、影で立体感や形を見せるようにしています。

 

—スキャンした材料で最もこだわったポイントはどこでしょうか?

「Quantum Composition」で使用された作品

澤氏:白色ですね。白はパーフェクトな色だと思っています。色としての白は純粋であったり、無垢だったり本当にゼロでもあるし無限でもあると思っています。だから白にはこだわっているんです。

白を塗ることで皮を被ることを表現したかったんです。人間って色んな感情を抑えたり、理性をいい意味でも悪い意味でも抑えたりしていると思うんです。心の平安はそれらの上に成り立っているんだなって意味で白を使ったりしています。

リアルな作品を制作する作家さんはたくさんいるからこそ、私は何もびっくりしない空間を作りたかったんです。だから空間内には1つのオブジェクトをサイズを変えて配置しています。

 

本作品の制作にはどのぐらいの時間がかかりましたか?

「Quantum Composition」Editor画面

澤氏:1週間くらいですね。この作品で初めてVRを触ったのですが、印象としてはSTYLYはレイヤー概念だからわかりやすいと思いました。

当初、VRどう関わっていいか分からなかったのですが、勇気を持って3Dスキャンすることをお願いしてからVRとの関わりが始まりました。

 

表現手段としてのVR

—VRと聞くととっつきにくい印象があると思いますが、いかがでしょうか?

澤氏:確かに最初はアナログ人間の私がVR?と思いましたが、実際にVRを体験した時、映像を見ているだけでも幸せな気分になりました。それからはあまり抵抗なく、VRでの創作活動に向き合うことができました。

私はデジタルで作り込むことができない人間なので、Psychicさんにクリエイターの架け橋となってほしいと言われた時に正直びっくりしました。それでアナログ人間が最先端にどう関われるかがポイントだなと思ったんです。

 

—もともとVRにご興味があったのでしょうか?

VR原体験のVIEW Masterと澤氏

40年ほど前からあるアメリカ製のVIEW Masterにまつわる私のVR原体験をご紹介します。

VIEW Master横のシャッターをカシャカシャと押すとストーリーが進む仕様になっています。当時の技術をもってでもすごい臨場感と立体感が感じられました。また、2D×リアルの概念が既に存在していて、コンセプトは今のVRと同じことに技術力の高さに関心していました。

小さい頃から、すごく現実から逃げたかったんです。まるで運べる神殿のように、VIEW Masterや本を読むことでその中に自分が入って囲まれたらいいなと思ってました。

 

今後、VRを活用していく予定はありますか?

澤氏:超アナログ人間に何ができるか考えたときに、最近”VR散歩日記“を始めてみました。ThetaやGoPro FUSIONで撮影した街中を歩くだけの動画だけど、幽体離脱したような感覚になったり、人の生活や人生を追体験をしているような感覚になりました。他には大学施設やラボなどを撮影したりしています。撮影するだけのアナログな内容はデジタルに強い方は逆に思いつかないかなって思います。

おしゃれなものはおしゃれなことに精通している方が作れるので、VR初心者の方と距離の近いコンテンツを作るには、私のようなVR初心者の方がテクニカルな人よりも作れないものを作るような気がしています。

また、Oculas Goが発売されたおかげで、さらにVRと関わりやすくなりました。私の役割は、周りにいる友達や、VRを「やりたい!」と言ってくれる人に説明したりきっかけになることだと思っています。

澤氏

過去のトラウマと共存するべく制作を続けている澤氏。その新たな表現としてVRで制作された、「Quantum Composition」。

この作品によってVRとアナログクリエイターの架け橋となってくれた澤氏の、表現の展開性に期待したい。