2022年11月半ば、3日間にわたりインターネット上で『CYBER ATTACK』というデジタルアートと現代社会の関係性についてのカンファレンスが開催されました。
本記事では、XRをはじめとしたテクノロジーを通し、追求される自己表現をテーマに数多く行われたカンファレンスの中から一部を紹介します。
アクティビズムなど社会的運動とデジタルアートの関わりに興味を持つ方必見の内容です。
『CYBER ATTACK: DIGITAL ART AND ACTIVISM CONFERENCE』とは?
この10年間、デジタル技術は、世界中のコミュニティでハイブリッドな芸術的実践、メディア形態、言説の急増をもたらしています。
これらのテクノロジーは、観客が公共空間でアートを体験する方法を変えただけでなく、アーティストが観客と直接つながり、バーチャルにコラボレーションし、リモートで交流することを可能にしました。
現在の世界的なパンデミックとロシアとウクライナの危険な戦火の拡大は、こうした変化を理解することをより重要なものにしています。
芸術的生産の機会は、公共の集まりに対する制限によって絶えず脅かされ、独裁政権によって新しい形の監視と検閲がより一層展開され、紛争と暴力による強制移住は芸術的コミュニティ全体を荒廃させ、情報戦争は21世紀の始まりよりも、私たちすべてを分断してしまったからです。
このカンファレンスは、アーティストがどのような状況下でどのようにテクノロジーやオンライン空間を活用し、加速する政治・経済・環境危機に対応するインパクトのある物語や行動を構築し、新しいコミュニティや同盟を形成しているかを調査するものである。(公式サイトより翻訳)
ディスカッション、プレゼンテーション、パフォーマンスなどを通して、“現代社会ではメディアアートがどのように活用されているのか?どのように関わっていくべきか?”といった認識を深める機会となりました。
XRテクノロジーと身体能力・メディアの新たな方向性
『デジタルノマドとバーチャルプロダクション』や『ブロックチェーンテクノロジーとNFT 〜新しいアート市場、その歴史、誤解、そして可能性〜』といったプレゼンテーションなども行われましたが、本記事で取り上げるのは『XRテクノロジーと身体能力・メディアの新たな方向性』についてのディスカッションです。
アーティストであるパネリスト達が、彼らの作品の美学的・政治的側面についてと、テクノロジーの関わりについて語っています。
パネリスト
モデレーター
レフ・エフゾビッチ氏/エフゲニー・スビャートスキー氏(AES+F)
TURANDOT(2070)
(〜03:00)
まず初めにパネラーのレフ・エフゾビッチ氏、エフゲニー・スビャートスキー氏は、『TURANDOT(2070)』のトレーラーを紹介します。
このビデオ作品は彼らの所属するコレクティブ・AES+Fによって2019年に作成されました。
この作品では、ジャコモ・プッチーニが作曲し1926年にミラノで初上演されたオペラ演目「トゥーランドット」で姫が結婚を強要されることへの復讐が行われたり、今日におけるグロテスクな全体主義的社会によって想定されるユートピアが表現されています。
トゥーランドットの物語や映像のパステル調の色合い、近未来的な街並みなどを通し、我々が生きる現代における様々な社会問題への意識を考察しています。
元々のタイトルであったオペラ演目が彼らの手によって新しいストーリーの3D・VR作品へと変化し、さらに舞台作品として発表されるなど様々な発展を遂げました。
上映された各地では大きなインパクトを与えました。
Psychosis
次に、彼らは2018年に作成されたMR+インスタレーション作品『Psychosis』を紹介しました。
イギリスのカルト的な劇作家サラ・ケインが1999年初頭、自殺する直前に精神科クリニックで書いたテキスト「4:48 Psychosis」をもとにした作品です。
この作品は身体性、サイケデリック、社会的抗議といった90年代のテーマへの回帰に関心を持って制作されました。
映像は女性の身体、血、黒い雪、サイケデリックな色彩、ゴキブリなどのイメージで満たされ、おとぎ話的なものと恐ろしいものの間で揺れ動きます。
この作品は、フィジカルな病院のセットと共にMRで体験できる形式で発表されました。
さらに2016年、この3DアニメーションはAES+Fと演出家のアレクサンダー・ゼルドヴィッチの共同プロジェクトとして、劇場形式でも発表されています。
初めに3Dアニメーションが作成され、ドミトリー・クルリアンスキー氏の音楽が加わり、さらに舞台やインスタレーションとして形を変えていきました。
彼らが紹介した2つの作品は、様々なテクノロジーによって表現方法を変えていくひとつのサンプルだとレフ・エフゾビッチ氏は語ります。
テオ・トリアンタフィリディス氏
続いて登壇したのはテオ・トリアンタフィリディス氏です。
彼がまず紹介したのは、同じギリシャ人アーティスト・コスティス・スタフィラキス氏との共同プロジェクト「Readiness」です。
Readinessを作成した彼らはコロナ禍、人々が大災害へどのような準備をしているか、そしてそれに付随する政治的なイデオロギーなどにも着目しました。
パンデミックにより日々の生活や身体的にどのような変化が起こったのかについてもテーマは続き、最終的にはライブストリームで発表されました。
閲覧者はZOOMを通して即席のコスチュームに身を包んだ彼らが何をしているのかを見ることができ、さらに様々な他の都市とのコラボや、Youtube上でのコメント返信など、インタラクティブなパフォーマンスが行われました。
その他には日々エスカレートしていくアメリカの過激主義運動・ブーガルーをモチーフとしたものや、ライブアクションRPGゲームをテーマに3日間10人でキャラクターアイデアを即興的に発展させていくパフォーマンスなど様様々です。
これらのアイデアも全てライブストリームが行われ、閲覧者が参加するなどインタラクティブならではの盛り上がりを見せました。
そして最新チャプターはこのカンファレンスのスピーカーであるジョシュア・シタレッラ氏も加わり、MUTANTS OF READINESSというタイトルで発表しました。
テオ・トリアンタフィリディス氏はパンデミック時ギリシャに居たそうです。
当時の出来事を続けて語ります。
「アメリカで起こる政治的暴動やトランプを支持する人々、インターネットや街角で湧き起こるなんらかのイデオロギーなどを目の当たりにし、衝撃的な出来事でした。
また、人々がどのような服装でどのように自分を表現し、どのような理由で自分のアイデンティティを守るのか、どのようにライブストリーミングを行うのかなど、これら全てを理解しようとしました。
その後取り掛かったのが『Radicalization Pipeline』という作品です。
FacebookのフィードやYouTubeのレコメンデーションは、私たちが探しているものについていくつかのヒントを持っていると、より過激なコンテンツを与えるために最適化されています。
そしてこれらは、極端なイデオロギーにつながる恐れがあるということも研究で証明されているのです」
この作品は、ゲーム内の武器のアイデアや形を参考にセラミックで制作された武器が展示されると同時に、3Dアニメーションが流れています。
アニメーションは大きなクラウドライブシミュレーションで作成されたもので、様々なリアルタイムキャラクターやファンタジーキャラクターがお互い戦う様子が写されています。
パネリストによるディスカッション
2組のアーティストの作品を通し、どのようにテクノロジーがライブパフォーマンスに変化したかを見てきました。
モデレーターであるジャバオ・リ氏は、彼らの作品がどのようにXRへ変化していったか、どのような影響を受けているかについても詳しく問います。
Photoshopで作り出された“真実”
AES+Fは、96年の『Islamic Project』でPhotoshopを使用した実験的な作品としてコラージュ作品を作成したことがきっかけだと語ります。
レフ・エフゾビッチ氏「このPhotoshopで作成された作品は当時、ある種の真実を作り出していました。
人々は実際に記録された写真やドキュメンタリーを信じるのではなく、逆にPhotoshopが使われたものを本物だと信じてしまいます。当時のプロジェクトでは、Photoshopを使って西洋とイスラムの戦争のリアリティを紐づける作品を作りました。人々はその作られた写真たちを本物かもしれないと思い、衝撃を受けていました。
それから私たちは映像、パフォーマンスドキュメンタリー、マルチメディアなどの作品を作るようになりました」
エフゲニー・スビャートスキー氏「3Dを使用した作品を初めて作った時は、まだ特別なパソコンでしか3Dを作ることができませんでした。ガラス製のベルリンの壁をモデリングし、ネオンの光る有刺鉄線、金色の星などを作りました。これが私たちの心に残る3D体験です。
まずPhotoshopを使用した作品から始まり、3D作品、そしてXR作品と段階的に来ています」
このようにテクノロジーが発達してもなお、絵画や彫刻などアナログ作品も続けて制作しているそうです。
レフ・エフゾビッチ氏「VRとして制作したものをリアリティに持ってくることもあります」
エフゲニー・スビャートスキー氏「パソコンで作成した3Dモデルを現実のオブジェクト(彫刻)としても作ります。複雑ですね(笑)」
リアルタイムで変化するもの
テオ・トリアンタフィリディス氏は大学を卒業後数年間は建築家として働いていましたがインターネットアートやポストインターネットアートのオンラインコミュニティへ招待され、メディアアートを学ぶためロサンゼルスへ渡ったそうです。
テオ・トリアンタフィリディス氏「大学で制作ツールとしてのゲームエンジンに出会いました。それは私にとってとても大切な瞬間でした。ゲームエンジンは私がやりたかった様々なタイプのものを全て取り入れることができます。例えばパフォーマンスライブやその場で変化するものなど、創造的な世界を私たちの暮らしにもたらします。
また、このハイブリッド性にもとても興味があります。デジタルメディアで表現された芸術的なアイデアと、物理的なアイデアの両方を持ち、この2つの間でそれらを行き来させ、どのようなものが生まれるのかを見てみたいと思っています」
出身国と作品のグローバルな関係性について
話は進み、ディスカッションは終盤へ。
最後にジャバオ・リ氏は、それぞれアーティストの出身地と作品の関係について質問します。
レフ・エフゾビッチ氏「80年代の終わりから90年代始め頃、私たちは世界で何が起こっているのかを反映させるアート作品を作りました。その頃は帝国が崩壊し、国が開かれます。この90年代初めは私たちにとって重要で、ある意味ドラマチックでした。その頃世界では自由主義、資本主義、国際化、新しいテクノロジーなど様々な出来事が起こっていました。それらがロシアに来ると世界規模の”グロテスクなこと”を始め、私たちは何が本当に興味深いのかを理解します。
私たちはロシアで生まれましたが、90年代のこのグロテスクな経験が私たちのコンセプトや美意識のベースであり、私たちが広告やビデオゲームの言語などを使い始めたところだと思います」
エフゲニー・スビャートスキー氏「私たちの場合、ロシアは多国籍国家ですから、もう少し複雑です。(中略)私たちはただ、私たちが最も興味を持ち、世界にとって共通の、あらゆる国のあらゆるオーディエンスに理解されることを考慮したテーマで制作しています。それはロシアだけでなく、他のどの国にも関係することで、私たちにとってより興味深く、重要なことです」
テオ・トリアンタフィリディス氏「私も似た意見です。私はギリシャ的なものをアイデアとして、あるいは作品の中で明確に表現しなければならないものとして、あまり考えたくありません。好きかどうかにかかわらずそう思います。
私は国際的なオーディエンスのことを考え、より一般的なテーマについて話すことが好きです。
ギリシャには長い歴史があるので、過去から切り離された現代的な文化を定義するのはとても難しいのです」
そして観客からの質問で、このプログラムは幕を閉じました。
イベントアーカイブ
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(英語/要約のみドイツ語・ウクライナ語・ロシア語)
Edited by SASAnishiki