AI技術や法律、環境問題も! カンファレンスで議論された現在と未来:Laval Virtual 2023

フランスで毎年行われる、VR/AR/XRをテーマとした大規模フェスティバル「Laval Virtual」。今回、4月12日~16日にかけて開催された「Laval Virtual2023」を体験したので、複数回にわたってレポートします。今回はレポートの第三弾として、Laval Virtualで3日間にわたって行われたカンファレンスについて取り上げています。

カンファレンスの6つのテーマ

XRの直面する新しいシーンにスポットライトを当て、毎年熱い議論が交わされるこのカンファレンス。今年は、「XRの未来」「没入型デジタル学習」「メタバースのジレンマ」「VR/ARのビジネスにおけるメリット」「360° 産業」「XR for good」これら6つのテーマが掲げられ、多くの教授や企業、スペシャリストが登壇し、それぞれの分野でプレゼンテーションやグループディスカッションが行われました。

その中でも特に興味深かったものについてご紹介します。

デジタルヒューマンと共に向き合う未来

こちらの映像の左側にいる人物が今回登壇したMike Seymour博士。この映像は、AI技術を使ったニューラルレンダリングによって生成された映像です。左側にいるMike博士、オリジナル映像では何も喋っていません。しかし、そこに別の人物の喋る映像を被せると、あたかもMike博士が喋っているように映像を生成できるのです。それだけではありません。この別の人物の声もまた、Mike博士の声に変換することができるのです。この映像にもあるとおり、フランス語を全く喋らないMike博士が、フランス語話者の映像を引用することで、流暢なフランス語を喋ります。

 

この技術を使って実現したのが映画の吹き替え。オリジナルの映画そのままに、別の言語話者の吹き替えができます。映画「アウシュヴィッツのチャンピオン」では、オリジナルとは別に英語で映画の会話を撮影し、得られた音声と、古い映像と新しい映像の組み合わせをトレーニング資料として使用して、キャラクターの顔の動きを推測して新たな吹き替え版の映画を制作することができました。

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Mike Seymour博士は、コンピュータ生成画像(CGI)やビジュアルエフェクト(VFX)に特化したコンピュータグラフィックスの研究者、教育者、コンサルタントです。また、彼はfxguideの共同創設者でもあり、メディアテックスペシャリストとしてのライターの側面もあります。これまでさまざまな映画やテレビ番組の制作に携わっており、エンターテインメント業界での仕事に加えて、シドニー大学でデジタル・ヒューマンの研究を行っています。

この分野の技術が進歩するにつれ、私たちは注意深い倫理的な考慮が必要になってきます。たとえば、レンダリング技術を使用して人工的に作成された映像や画像が現実のものと区別できなくなる場合、社会的混乱や不正行為のリスクが高まります。また、この技術が人間の外見や行動を再現することができる場合、プライバシーや個人情報の保護がますます重要になります。

このように様々な倫理的な問題や義務などの障壁を考慮しながらも、Mike博士はレンダリング技術を通して、デジタルヒューマンと共によりリアルな、そして新しいリアルの世界を切り開いていくというポジティブな未来を見据えていました。

「メタバースとアバターの法律」とは?

弁護士のAlain Bensoussan氏による「メタバースとアバターの法律とは?」では、メタバース上でのアバターにまつわる人権やいじめ、セクシャル・ハラスメントの法整備についてのプレゼンテーションが行われました。

Alain Bensoussan弁護士は、フランスのパリを拠点にする先進技術法のパイオニアです。10 年以上前、デジタルおよび新興法に関する最初の国際弁護士ネットワークである Lexing を設立した後に、自分の法律事務所にロボット技術法を専門とする部門を立ち上げました。 彼は現在、人工知能の法的および倫理的枠組みの範囲を定義することに積極的に取り組んでおり、またメタバースの課題と規制上の問題にも取り組んでいます。バーチャルホーム、デジタル人格の権利、残余プライバシーなどの新しい概念の開発を積極的に行っており、彼のトレードマークの一つです。

プレゼンテーションでは、メタバースが普及する中でメタバースのダークサイドとも言われるハラスメントや暴行が数多く報告されていることに焦点を当てていました。デジタルツインやアバターの所有権は誰に帰属するのか、アバターを使用して行われた行為の責任は誰が負うのか、デジタルツインやアバターのアイデンティティはどのように管理されるのか、といった問題が考えられます。Alain弁護士によると、現在の法整備は不十分であり、これから新たな法律の枠組みが必要になってくるそうです。

これらの法的枠組みは、グローバルな規制との整合性を保つために、国際的な協力が必要になるでしょう。

最後の質疑応答では、それぞれの国がそれぞれ別の規制をしても、オンラインには国境がないため、今後ワールドスタンダードを制定した方がいいのではないかという質問がありました。それに対してAlain弁護士は、道のりは遠いがとにかくまずは法の枠組みを作るべきだとおっしゃっていました。

世界中にネットワークを持つAlain Bensoussan弁護士。国際協力が必要とされるメタバース法整備には、先進技術と法律の両方に関する知見と経験を持つAlain弁護士のの貢献が不可欠となるでしょう。

メタバース、技術的進歩か、進行する汚染か?

挑戦的なテーマを掲げたこの議題では、環境問題に敏感なヨーロッパならではのグループディスカッションが行われました。

このグループディスカッションでは、メタバースにまつわるCO2や電気使用量について様々な議論が交わされました。

パリ協定」をご存知でしょうか?パリ協定(Paris Agreement)は、2015年に国連気候変動枠組条約の下で採択された、地球温暖化対策のための国際的な枠組みです。この協定は、地球温暖化による影響を最小限に抑え、温暖化を2℃以下に抑えることを目標としています。

これから普及するとされるメタバースの世界では、ヘッドセットなどのデバイスを装着することで、PCでのリモート会議よりもよりリアルな交流が可能となります。さらに今後ヘッドセットは軽く省エネに改良されると予想されます。そうすると、PCに代わりヘッドセットにかかる電気消費量はより節約されCO2の排出を抑えることができます。メタバースは地球に優しいメディアとなり得るのです。

理想的な話かもしれませんが、今後のヘッドセットに関する技術の進歩次第では可能性はあるかもしれません。しかし、今回3年ぶりに現地開催だったLaval Virtual(2021年、2022年はコロナによりオンライン開催)では、多くの人が現実の場所でイベントが再開できたことを心から喜んでいたのも事実です。実際に会えるようなリアルな感覚をメタバースの世界で再現できるかが今後の鍵となるかもしれません。

様々な方向からのアプローチ

今回ご紹介した内容以外にも、デジタルツインの可能性やEUにおけるメタバース産業の戦略、ブランドへのメタバース活用、没入型教育の可能性など、様々な分野の興味深いプレゼンテーションやディスカッションがたくさんありました。全部で30以上あり全て紹介しきれませんでしたが、実際にLaval Virtualカンファレンスに参加すると、直接質問ができたり、会場の外で登壇者の方とお話しすることもできます。そういったところもLaval Virtualの魅力だと感じました。

次の記事はLaval Virtualで行われる2つのアワードとその受賞作品を紹介します。お楽しみに!

Edited by SASAnishiki