アイデアの奥にあるブレーンに捧げる ReVolution & Laval Awards 2023

フランスで毎年行われる、VR/AR/XRをテーマとした大規模フェスティバル「Laval Virtual」。今回、4月12日~16日にかけて開催されたLaval Virtual2023」 を体験したので、複数回にわたってレポートします。今回はレポートの第四弾として、コンペティションを勝ち抜いて受賞された作品ついて取り上げています。

Laval Virtualのアワードとは?

Laval Virtualでは、さまざまな賞が用意されており、コンペティションは3つのカテゴリーに分かれています。

まずはLaval Virtual期間中に開催される30時間のハッカソン。10チームの中から1チームの優勝グループが選ばれます。

Laval Virtual ReVolutionは、VR/ARの分野で革新的な取り組みに焦点を当てた毎年恒例のコンペティションです。その中ではさらに#Experience、#Research、#StartUp、#Studentの4つの部門が用意されており、スタートアップ、プロダクション スタジオ、開発者、研究者、学生が、革新的なプロジェクトを展示し、賞を競います。

さらに公募から選ばれるLV Awardは、世界中のXRソリューションのイノベーターを紹介することが目的。公募では2022年1月から2023年4月までの間に開発されたすべてのプロジェクトを対象としており、賞は注目すべきXRプロジェクトとその裏にいる人々のブレーンにスポットライトを当てます。ハードウェア、エンタープライズ & 生産性ソリューション、開発者およびオーサリング ツール、XR for a Cause、仮想世界とメタバース、教育とトレーニング、マーケティングまたは広告キャンペーン、消費者体験とエンターテイメントの8つの部門それぞれの公募から受賞者が選ばれます。

ReVolution #Research部門:MEcholocation -岐阜大学

ReVolution #Research は、VRとARに焦点を当てた「研究」の観点からのコンペティション。受賞されたのは岐阜大学の「MEcholocation」です。

「MEcholocation」は、音の反響に注目して制作されたVR作品です。

VRヘッドセットをかぶり、準備ができると視界が真っ暗になります。その状態で手を叩いたり舌で音を鳴らすと、音に反応した沢山の球が現れ、真っ暗な闇の中を火花を散らしたように飛び交います。その球は、ただ飛び交っているのではなく、実際の壁や机など、現実にそこにあるものに跳ね返ります。その跳ね返りをよく観察すると、暗闇の中でどこに何があるのか、実際の空間とシンクロしながらものの位置や空間の構造を把握することができます。それを頼りにうまく暗い闇を歩き、ゴールを目指します。

受賞された阪井啓紀さんと小木曽直輝さん

コウモリやイルカなどの動物が音や超音波を発し、その反響によって物体の距離・方向・大きさなどを知る「エコーロケーション」。視覚障がいを持つ方の中にも、舌打ちの音で空間を把握することができる方がいます。視覚情報なしでどのように世界が見えるのか。そのコンセプトのもと 「MEcholocation」プロジェクトでは舌打ちの音を視覚化し、誰でもエコーロケーションをVRでシミュレートできるようにしています。

ReVolution #Experiences部門:Ink & Fire -Studio KwO XR & VRXP

Laval Virtual の ReVolution #Experiences は、VRとARのクロステックコンテンツに焦点を当てた毎年恒例のコンペティション。受賞されたのはブラジルのStudio KwO XR & VRXPの作品「Ink & Fire」です。

ブラジルのグループによって制作された「Ink & Fire」は、ブラジルで最も重要な壁画をテーマに制作されたVR作品です。ブラジルのセラ・ダ・カピバラ国立公園は、世界屈指の考古学遺産を保護するために創設されたもので、時には100メートル以上の高さにもなる絶壁に刻まれた、古いものでは6万年前にも遡る3万点もの線刻岩絵群や洞窟壁画も残っています。そこに注目したこの作品は、3Dのテクスチャはもちろんのこと、影を利用した詩的なアニメーションや物語の展開が美しく、多くの人々を魅了しました。

物語はある博物館から始まります。そこに展示されている洞窟壁画の前に立つと、そこから遠い遠い過去へとタイムスリップしていきます。タイトルのInkにもあるように、インクはこの物語で重要な役割を持ちます。鑑賞者は、洞窟で赤いインクを両手にとり、実際に壁画を描くこともできます。このようなインタラクティブ性が物語に介入することで、遠い昔の物語でも臨場感あふれる経験を得ることができます。

ReVolution #Students部門:The Unclaimed Masterpiece -Arts et Métiersd

ReVolution #Students は、コースまたはシラバスの一部としてVR/XRを探求する学生と学校を対象とした国際的なコンテスト。受賞されたのは、フランスのArts et Métiersd大学Lavalキャンパスの学生チームの作品「The Unclaimed Masterpiece」です。

フェスティバル開催地でもあるラヴァルの大学院生チームによるVR作品「The Unclaimed Masterpiece」は、AIを活用したインタラクティブなゲームです。このゲームでは、建物の中に架けられている何枚ものAIによって生成された絵の中から一つの絵を見つけ出さなければなりません。そのために、挑戦者は執事のロボットに質問をします。「くじらの絵ですか?」や「植物のモチーフが描かれています?か」など、具体的な質問を投げかけるとロボットが返答します。少し癖のある回答でゲームの挑戦者を翻弄しますが、質問を繰り返すことで確実に答えに近づくことができます。このロボットはChatGPTの仕組みを利用して会話をしているので、いかにうまく質問をするかが鍵となります。

この作品は、AIを活用したゲームを作るというコンセプトから始まったそうです。私たちを取り巻く社会はAIが浸透し始め、無視できない存在となっています。そういう技術に真っ向から向き合い、どのように使っていくかを考えながら作り上げたとのことです。

また、彼らは来年日本で開催されるIVRC(学生コンペ)への招待賞を受賞しました。来年、彼女たちの作品が日本にやってくるので、作品を体験したい方はぜひ遊びに行ってみてください。

SIGGRAPH AWARD:Inclusive Quiet Room -東京大学/名古屋工業大学

SIGGRAPH AWARDはSIGGRAPH 2023へ招待される賞です。受賞されたのは、東京大学と名古屋工業大学の共同作品「Inclusive Quiet Room」です。この賞の受賞者は、2023年8月にアメリカ・ロサンゼルスで開催されるSIGGRAPH 2023へ招待されます。

 

「Inclusive Quiet Room」は、自閉症や発達障害を抱える方々などなど、目に見えない障害を抱える方々などのために作られた立体作品です。カームダウン室(Quiet room)など障がいを持つ方が落ち着ける環境の普及と社会実装を研究されている木村さんは、健常も障害もどのようなバックグラウンドがあったとしても関係なく「人」としてごく当たり前に扱われ社会的に過ごせるソーシャル・インクルージョン(共生社会)」「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」の実現の実現を目指し日々活動されています。

左から 藤井綺香さん、木村正子さん、児島響さん

テントにてコンパクト化となったカームダウン室には加重のあるチェーンブランケットが置かれており、それを膝にかけて映像と音楽を鑑賞していると、自然と心が落ち着いてきます。五感を落ち着かせることに焦点を当てたこの空間では、静かに自分の心を見つめることができます。カームダウンブースに使用されているインスタントハウスは名古屋工業大学の北川啓介教授によって考案されたもので、2011年の東日本大震災時に、通常は3-4ヶ月掛かる仮設住宅を、わずか数時間で建設できるのが特徴で、被災した人たちに安心な家を素早く提供したい思いから発明されました。

インスタントハウスが大震災の被災地に素早く建設されることで、避難先の体育館や大部屋での生活にストレスを感じる方にとって、避難所でプライベートな空間を早く得ることができるのです。ベクトルは違えど「人を守りたい」という共通の思いが、この共同開発を実現させたのかもしれません。

LV Awards ハードウェア部門:HTC Vive XR Elite

ハードウェア部門には多くの候補がありましたが、その中から選ばれたのはHTCのVive XR Eliteです。

受賞したVIVE XR Eliteを体験してみたところ、現実世界の映像の解像度の高さや操作性の軽さに驚きました。VIVE XR Eliteを装着し、VRソフトでVRお絵描きを体験してみると、本当に現実世界に絵を描いているような臨場感と没入感がすごく、今までのVR世界では感じることのできなかった、まさに現実とバーチャルが交錯する感覚を体験することができました。その景色は、小さい頃によく読んだ、はろるどがクレヨンで書いた絵の中に入っていくというお話の絵本「はろるどのふしぎなぼうけん」を思い出しました。

VIVE XR Eliteは2つのOLEDパネルで構成されていて、鮮明な映像を実現。また、ヘッドセットのデザインにより外部の光をシャットアウトすることができ、より没入感のある体験に。このヘッドセットは6DoFのトラッキングをサポートしており、付属のコントローラーと共に手の動きを正確に再現することができます。また、付属のベースステーションにより、広範囲にわたるトラッキングが可能です。

VIVE XR Eliteは、プロフェッショナル向けの機能も備えています。たとえば、ワイヤレスアダプターを使用することで、ケーブルを気にせずに自由に移動することができるほか、企業向けにはアプリケーションやコンテンツを配信するためのプラットフォームも提供されています。

LV Awards XR for a cause部門:Meta Table β -神奈川工科大学/ORI研究所

XR for a cause部門は、神奈川工科大学とオリィ研究所が共同で開発した「Meta Table β」が受賞されました。

「Meta Table β」は、遠隔地の人々がアバターロボットカフェで雰囲気を共有するテーブルです。分身ロボットカフェは、外出が困難な障がい者の方が分身ロボット「OriHime(おりひめ)」を使ってテレワークできるカフェです。OriHimeは、世界中の「孤独」を消すため分身ロボットとして誕生しました。

分身ロボットカフェでは、現在50名以上の外出困難な方が働いています。中には接客業がはじめてで、リモートで接客をしながら分身ロボットを操作するのが大変な作業であると感じる方もいます。障がいを持つ方の中には、リモートで接客をしながらアバターを操作するのが大変な作業であると感じる方もいます。不慣れな環境のうえ、カフェにいるお客さんの雰囲気や表情を感じ取ることはさらに困難である場合もあります。そのようなコミュニケーションのギャップを埋めるために開発されたのがこの「Meta Table β」です。分身ロボットを操作するパイロットは、(1)AIのサポートにより雰囲気を認識し、(2)透明ディスプレイとプロジェクションマッピングを組み合わせたCGアバターを使用して、カフェの顧客と雰囲気を共有します。

手を振ってくれる分身ロボット。パイロットの「ちふゆさん」はリアルタイムに日本からリモートでこの分身ロボットを操作をされています。うなずく、手を振る、ツッコむなどロボットの動作は、iPadのタッチやマウスのクリックなどでシンプルにコントロールできます。

メタテーブルβは、外出が困難な方がリモートでお客様と雰囲気を共有できるようにすることで、社会参加の機会を広げます。

山崎洋一教授、酒井優成さん、石渡将聖さん、白井耀さん

授業の一環から始まったこのプロジェクト。「Meta Table β 」は、今回のLaval Virtualで初めて一般向けに公開されたそうです。

LV Awards DEVELOPER & AUTHORING TOOLS部門:NOISEMAKER

DEVELOPER & AUTHORING TOOLS部門を受賞されたのはフランスに本社を置く音響ソフトウェアメーカーのNoisemakersの開発した「virtual acoustic mixer」です。

「Noisemakers」が提供するVirtual Acoustic Mixerは、略してVAMとも呼ばれる、3Dオーディオのためのツールです。ソフトウェア「Binauralizer Studio」に実装されており、直感的なツールを通して、ヘッドフォンやスピーカーを使った再生環境でリアルな3Dオーディオ空間を作り出すことができます。

Binauralizer Studio は、サラウンドミックスをバイノーラル3Dオーディオに変換するための空間オーディオプラグイン (VST、AU、AAX) です。 元のマルチチャンネルトラックに含まれるすべての空間情報を保存し、ヘッドフォンで聞くためにバイノーラルに変換します。

VAMは、音楽制作やサウンドデザインの分野で高い評価を得ており、映画やゲームのサウンド制作にも利用されています。VAMを利用することで、よりリアルな3Dオーディオ空間を作り出すことができ、より感動的な音楽やサウンドデザインを作り出すことができます。

まとめ

受賞された作品だけでなく、ノミネートされた作品にも受賞作品と同じくらい魅力的な作品がたくさんあり、見逃せないものばかりです。今回取り上げたのは受賞作品のみですが、興味が湧いた方はぜひノミネートされた作品にも注目して、多くの作品を楽しんでみてください。

次の記事はLaval Virtualで開催されるデジタルアート展示を紹介します。お楽しみに!

Edited by SASAnishiki