イラストレーター/アーティスト/ゲームクリエイター たかくらかずき氏によって制作された「バーチャル大学・人間と私たち」。モデリングはBlocksで、マテリアルはUnityのライトから取り込むという手法で、あたかも元々マテリアルが貼ってあるかのような自然さと新鮮さを感じる。
本インタビューでは、VR作品「バーチャル大学・人間と私たち」の制作過程とたかくら氏の考えるゲーム体系をお伺いした。
プロフィール
イラストレーター/ゲームクリエイター。1987年生まれ。ドット絵やデジタル表現をベースとしたイラスト/アニメーション/ゲームやVR作品を制作。劇団「範宙遊泳」ではアートディレクションを担当。2016年、pixiv zingaroにてグループ展「ピクセルアウト」を企画。2017年に個展「有無ヴェルト」を開催。2016年より「スタジオ常世」の名でゲーム開発を開始、2018年に「摩尼遊戯TOKOYO」をリリースした。
参考元:http://www.takakurakazuki.com/profile.html
Virtual University、人類史専攻
—NEWVIEWのお話が来た時、どうして受けようと思われたのですか?
一番は率直に面白そうと思ったことと、VRを買う理由にもなると思ったので。実際、すぐにVRHMD買いに行きましたし(笑)
あとVRをやるからには、モデリングをやりたいと思っていたので、それに耐えうるPCも一気に購入しました。
私は元々、2Dを主な仕事としているので3DはBlenderを少し触ったことがある程度だったのですが、この機会に3Dモデリングツール「Blocks」を使って一からモデルを作ろうと考え、制作に入りました。
—コンセプトはどのように作られたのですか?
「Blocks」でローポリのモデルをたくさん作る、と決めていたので、この3Dモデルを活かした博物館や美術館のような場所を作りたいと思いました。NEWVIEWのプロジェクトも、大学や講義のような所があるなと思い、「人類滅亡後に情報空間に残っている人類史を勉強する大学」をモチーフに作りました。
STYLYという新しいツールを、クリエイターが学ぶ。私の中でNEWVIEWというプロジェクトにそういうイメージを持っていたのもあり、今回は”バーチャル大学”という名前にしました。
Blocksでモデリング
—制作手順はどのように作られましたか?
まず3DモデルはBlocksで制作してから、Unity側の照明でモデルに色の配色をしています。なのでオブジェクト自体、実は真っ白です。
というのも、マテリアルの設定がよく分からなかったので、照明を組み合わせれば色はでるだろうと思い、いろいろ試しながら自分の求める色を見つけていきました。結果的にライト30個以上使うことになりましたが、イメージ通りの配色を実現することができました。
3Dモデルは古代神話の宇宙創造に関する説話のように、VR空間を引いてみると下に亀がいて、その上に机があって、その上に空間があるというような入れ子構造になっており、空間の淵にコライダーで当たり判定をつけて出られないようにしてあります。
この作品はUnity側で一通り検証してから、STYLYにインポート後、動画の差し込みなど微調整を行うという流れで作ったのですが当初、STYLYの仕様上、水平な場所にしか移動できず、入れ子構造で作っていた3Dオブジェクトが斜めになっていたため、全く動けない空間になっていました。
そこで、足場になるキューブを引くことで対応したりと微調整には結構時間がとられました。モデリングの制作から最終調整まで結果的に約1ヵ月ほどかかりました。
ゲームの派生にあるVR
—STYLYに対する要望はありますか?
一番は移動方法のバリエーションを増やしてほしいですね。
今だとコントローラーを使ったワープ移動のみですが、例えばアナログスティックによるシームレスな移動を可能にすることで、ゲーム的なアプローチもSTYLYで可能になりますし、それに伴いゲーム性も担保できると思うんですよね。
個人的にはワープ移動だと、移動のたびに画面が暗転して切れるので、没入度と現実感が減少してしまいます。
ただ、もちろんワープ移動の利点(酔いにくいなど)もあるので、都度切り替えられるといいなと感じています。
また今のSTYLYが先ほども言った通り、当たり判定が厳しく、水平な場所のみしか移動できないのですが、例えば曲線のオブジェクトに乗れるようにするだけで体験のバリエーションが増えると思うので、ぜひ対応して貰えると嬉しいです。
他にも、たとえば2Dの仮想モニターと3Dの一人称をシームレスに切り替えることができたりだとか、視点の切り替えを行うことで没入度を調整できると良いのではないでしょうか。要するにVRHMDを外さない休憩ができるともう少し長い時間体験できるのでいいかなと思っています。
—今後、VRで重要になってくるのは、どのようなポイントでしょうか?
現段階ではVRというキーワードは浸透してきているけど、購入となるとまだまだ憧れの一品というイメージが強いのではないでしょうか。もちろん、OculusGoなどの一体型VRが低価格で売り出されたことにより敷居が下がったとは思いますが、本格的に浸透していくのはこれからだと思います。
VRが本格的に浸透していくには、空間を歩き回れるなどの大規模なトラッキングは重要ではなく、360度見渡せるということと、上半身のわずかな移動などの小規模なトラッキングが重要になるのではないでしょうか。
「コントローラーの入力によって映像が変化する」という根本的な仕組みはゲームと同じなので、最も重要なのは、操作体系とUI・UXの確立です。
WiiやWiiUのように、最初は体を動かして大々的に操作できる、とプロモーションを打っていたのがだんだん体を動かすソフトが出なくなったし、Nintendo Switchも最近では体全体を使ったゲームから今まで通りの操作体系を踏襲したゲームソフトが増えてきていますよね。
指の動きなどの最小の動作で身体全体を拡張できることが、ゲームの面白いところであり、注目すべき点です。VRも「拡張身体」のツールとして考えてみるともっと広がるのではないでしょうか。
多くのデバイスに精通しているたかくら氏だからこそ客観的で”操作体系”に焦点を当てたお話を伺うことができた。コントローラー周りではiPhoneのタッチパネルや、PCではキーボードなど多くの領域で海外勢に押されてきた日本だが、任天堂が見せたゲームコントローラーのようにVRに最適化されたUI / UXを一早く見つけ、世の中に提示することが重要なのだと感じた。操作性が確立されていない分野だからこそ、今後どこが台頭してくるのか、非常に楽しみだ。
VR作品:バーチャル大学・人間と私たち