「紙を捨てたら、何を持って漫画と呼ぶのか?」
毎年驚くようなアプローチの作品が数多く集まるNEWVIEW AWARS。
そんな中、昨年同アワードにて、”漫画の世界”をVRで表現し 見事SilverPrizeを受賞した注目作品がある。それがバーチャルYouTuber兼VR漫画家の小江華あき氏による、「VR MANGA WORLD for STYLY」だ。
誰もが手にしたことのある漫画を体験に落とし込んだ本作は、どのような発想から生まれたのか?その制作方法についても、作者にお伺いしてきた。
プロフィール
小江華あき(@OEKA_AKI)
バーチャルYouTuber・VR漫画家|日本
作品名:VR MANGA WORLD for STYLY
Youtube:https://www.youtube.com/c/oeka_aki
「紙に書くのをやめた時、何を以て漫画といえるのか」
— NEWVIEWAWARDS 2019、Silver賞受賞おめでとうございます!今回、NEWVIEWを知ったキッカケを教えていただけますか?
小江華あき:NEWVIEWは、2018年にGoldを受賞したEmocoさんの「Emoco’s First Private Exhibition」の紹介動画をYouTubeで見て知りました。
それをきっかけにSTYLYを知って、今までやったことのないVR空間の制作に挑戦し始め、やっていく中で「今まで自分がやってきた事とVRを組み合わせたら、もっと新しい事ができるのでは?」と感じて作品を作ってきました。
せっかくつくったので沢山の人に見てもらいたいな!という思いと、他人からみたらどう感じてもらえるのかな?というのを確認したくて、AWARDに応募しました。
小江華あき:初めての時はTiltBrushで描いた作品をSTYLYに持ってきたんですが、特に難しい手順もなく公開ができたのですごいなと思いました! 今はもう少し複雑なことをしたいのでUnityも使っていますが、簡単にVR作品は作れる!という感覚をもらえたのはとてもいい体験だったなと思います。
— ありがとうございます。続いて、本作「VR MANGA WORLD for STYLY」にこめられた思いについて教えていただけますか?
小江華あき:VR MANGA WORLD for STYLYは、「VRに漫画表現を持ち込むとしたらどんな形がいいかな?」と考えた時に思いついた方法をたくさん詰め込んだ作品です。
みんながxRデバイスを身につける時代になった時、漫画表現はどう広がっていくのかな…という未来への期待とか妄想とか、色んな思いをこめて作りました!
— 漫画を「体験」にする試みはこれまでにない挑戦だと思いますが、制作時に気を付けた点はありましたか?
小江華あき:これは守ろうと思っていたことはいくつかありますが、特に考えていたのは「漫画が成立するギリギリのラインを攻める」という事ですね。
VR上で漫画を読むと考えた時、極端に言えば普通の漫画原稿の画像データをそのまま配置してもいいわけです。 でもせっかくのVR空間なのにそれじゃ面白くないので、空間を目一杯使える表現にしたいと思いました。
そう思った時に「紙に書くのをやめた時、何を以て漫画といえるのか!?」という事についてかなりの時間を使って考えましたね。
具体的手法の話になると長くなるので割愛しますが、このあたりの話についてまとめたものをバーチャル学会という場で発表させて頂いたりもしました。
小江華あきさん @OEKA_AKI のVR漫画のポスターセッション、めちゃくちゃ良かった!
私がVR漫画で「ページをめくる感覚と次のコマへ歩みを進める感覚が似てる!」と、感じた話ができて、また考えが深化した。
この新しい表現はもっともっと発展する!
みんなもVR漫画を読もう!
#バーチャル学会 pic.twitter.com/AqJGBI8vHs— DJ⑨ @ リアルアバター (@laughingman2046) December 15, 2019
漫画という表現の進化
— 本作の制作手順を教えていただけますか?
小江華あき:制作は大きく分けると3段階に分けて行いました。 第1段階はUnityの機能の確認、第2段階は素材集め、第3段階は素材の配置です。
VR漫画は結構単純なつくりで、①「コマの中を覗いた時だけ別なものが見える」のと②「近づいた時にコマが現れる」という仕組み以外は、ほぼ全て3Dオブジェクトを配置しているだけでできています。
— 制作の際に工夫した点や、苦労した点はありましたか?
小江華あき:今回、漫画とは言っても自分で絵を描くって事はほぼやってないんですよ。私は元々普通の漫画を描く知識しかなかったので、まずは上記の2つの機能が実装できるかを確認するのに中々苦労しました!
Unityをちゃんと使うの自体去年の4月からとかなので、ちゃんとSTYLYに持っていけるかな〜と作業中は不安でしたね。 でも第1段階さえ越えればあとは素材集めて漫画っぽく直して配置するだけなので、そこはそんなに苦労しなかったです。漫画を作ってるはずなのにマウスをずっとカチカチしなきゃいけないのは少し不満でした笑 ペンが持ちたい!!と叫びながら作業してたような気がします。
ちなみにVR漫画はキャラクターが3Dモデルですが、私はモデリングもあまり経験がないので「VRoid」というモデル作成ソフトのデフォルトのキャラをそのまま、テクスチャだけ白黒の漫画風に変えて使っています。
何しろ新しく触れる技術ばかりなので、少しでも覚える事を減らして完成を目指しました。
— 最後に今後の展開をお教えください。
小江華あき:VRの漫画表現は、まだまだ色んな事ができる可能性を秘めていると感じています。 可能性を掘り起こすには、もっと沢山の人の挑戦が必要だなと思っていて、そういう表現もあるのか!面白そう!と思う人が増えて欲しいと思います。
アワードに応募した事や学会発表に挑戦しているのも、VR空間の漫画という概念をもっと知って欲しいという想いがあったからです。 できればVRが元々好きな人だけでなく、もともと漫画を書いている人達に興味を持って欲しいので、そういう人に届くような発信をこれからもしていきたいです。
とはいえVR表現は、普通に漫画を作られている方には技術的なハードルがたくさんあると思います。
STYLYは一般の人でも気軽にVRが作れるので、もっと広まってVR制作が身近なものになれば、きっとVR漫画の未来にもいい影響があると感じています。 ぜひ一緒にxRを盛り上げて行けたらいいですね!
小江華あき氏が言うようにまだまだ多くの可能性を秘めているであろうVRやARでの表現。
これからもSTYLYは誰でもそれらを生み出すことのできる場であり続けたいと思っている。本記事はもちろん、STYLYmagazineでは他にも制作に役立つ多くのTIPSも公開しているので、興味のある方は是非覗いてみてほしい。
本年も開催予定のNEWVIEW AWARD。どのような作品が集まるか今から楽しみだ。