私たちは眠るとき、意識と無意識の間をすり抜ける。
現実空間においても音やビジュアルなど、あらゆる情報がうずまきながらこの世界はひとつの空間として繋がって、私たちはその中で生きている。これらにおいての境界線とは一体何なのか?
そんな疑問を抱き、その非常に曖昧なテーマに着目し考察したVR作品が「ne.mui」だ。
NEWVIEW AWARS 2019にて「SILVER PRIZE」「PARCO PRIZE」異例のダブル受賞を果たした本作品の制作者であるオノ夏キ氏に、制作秘話をお伺いしてきた。
プロフィール
オノ夏キ(@NNN_usb)
USB人間|日本
作品名:ne.mui
VRで問う、「無意識」の世界とその境界線
— まずは、SILVER PRIZE、PARCO PRIZEのW受賞おめでとうございます!今回、NEWVIEWを知ったキッカケを教えてくれますか?
オノ夏キ:ありがとうございます。NEWVIEWはSTYLY Particle MeetUpへ参加した際に知りました。
私にとってSTYLYでの創作は3D、アニメーション、音楽、空間構成など、幅広く知識をつけられたので、どハマりしてしまいました。
— なぜ、応募しようと思ったのですか?
オノ夏キ:Unityを使ってみたかったのと、元々空間をデザインする事に興味があったので、良い機会だと思いNEWVIEWへの参加を決めました。
— では今回が3DやUnityを扱った作品への初挑戦だったのでしょうか?
オノ夏キ:3DはCinema4Dなど一時独学をしてて、UnityはSTYLYのTipsブログで初めて勉強しました。
— 続いて、今回応募いただいた作品「ne.mui」についてお伺いしていきたいのですが、この作品はどのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?
オノ夏キ:ne.muiは、「無意識の中の境界線」というのがテーマです。
物事の線引きや、自分自身がどう周りと関わっているか、無意識に何をどう感じるか、作品を通して問いかけたいと思いました。制作期間は2ヶ月くらいです。
— 作中に登場する、USB端子が頭から生えた女の子の正体が気になります。オノさんの肩書き「USB人間」との関連性もあるのでしょうか?
オノ夏キ:この女の子は私自身です。VRの世界と現実の世界、それぞれに存在する私を分け隔てたくないと思い、VRoidで制作しました。
実は、USB人間になる前は、ストラップカチューシャを頭に生やした「ストラップ人間」でした。当時は人生をどう生きればいいのか分からなすぎて誰かに依存したい、という気持ちだったので。今は、空間ごと自分の身体に保存したいです。遠い未来に出来そうですが私にはその技術がないので、USBポート=空間で、私がUSBになればいいのでは、と。これも頭から生えてしまいました。
頭の中の壮大な空間をバーチャルに移植
— 「ne.mui」を制作する際に工夫した点、苦労した点はありましたか?
オノ夏キ:苦労した点は、VRゴーグルが無い環境から制作し、距離感が分からないまま床面積が広くなってしまった点です。
VRゴーグルで確認できる環境になってからは、壮大な空間になってしまっていることが分かったので「これは見てる人が疲れてしまう!改善しなければ!」と思いPlayMakerで模索していた際、床に常に移動できる(=常に移動のマーカーが出現する) 範囲さえ作れば見えてない床面積は存在しないため、データ容量も削減できるのではないかと考えました。
そこから、ユーザーの足元に球体を追従させるよう調整し、まるで乗って移動しているかのように見せることが出来ました。
ですが、元々広い空間を作ってしまった上に締め切りも迫っていたため、空間自体を縮小することはできなかったので結局少しずつ進むことに変わりはありませんでしたが。笑 PlayMakerで工夫できることは沢山あり、とても良い経験になりました。
— 逆によかった点はありますか?
オノ夏キ:良かった点は、STYLYがGIFを読み込めた点です。
普段イラストも描いたりすることが好きだったので、3Dモデリングが苦手な私にとって、すぐに空間に表現したい形がアニメーションの情報を含んで配置できるのは魅力的でした。
GIFとして読み込んだ後もSTYLY上で立方体などの形状にできますし、「ne.mui」ではほとんどの素材はGIFで構成されています。難点は、PNG形式だと透過情報により、とても重いデータになってしまうので、シーンが重くなりすぎないよう今後も気を付けたいなと思います。
— 最後に今後の展開をお教えください。
オノ夏キ:今後はVR作品に加えて、インスタレーション作品としてコラボし発表できればと考えています。
ARもそうですが、空間を拡張できたり情報を視覚や聴覚でよりダイレクトに提供できる時代だからこそ、現実世界に存在する作品(写真、立体造形や音楽など)の価値も重要になるかと思うので、それぞれで良い作用が起こるような経験を作れたら楽しそうです。
その過程で、STYLYの機能としてプログラミングを必要とせず空間を創造することが出来るのは、
今まで頭の中にあった空想の世界が一気に視覚化され、他人と共有できる点で今後の制作において、とても有効なツールであると考えています。
見る者を圧倒するビジュアルで、抽象的な「境界線」をテーマに挑戦し今回VRで見事に表現したオノ夏キ氏。
VR空間の制作は今回が初挑戦だったという彼女の発想とエネルギーはどのような展開を見せていくのか。彼女が得意とするイラストレーションや映像技術との融合の可能性にも注目したい。
彼女が手掛ける予定の2020年渋谷PARCOとのコラボ空間にも期待が高まる。
今後の発表が楽しみだ。