本記事では、NEWVIEW AWARDS2020にてSILVER PRIZEとSUPER DOMMUNE PRIZEを受賞したVR作品『Displays XR』を紹介します。
本作品は、デザイナー/映像作家である半澤智朗さんによって制作されました。
VRヘッドマウントディスプレイの装置としての側面に着目し、制作された作品です。
半澤智朗さんについて
東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科卒業。
普段はグラフィックデザイナーとして活動しており、音楽ジャケットやロゴデザイン、美術展のフライヤーの他、自身のバンド活動に関係したデザインなども手がける。
近年では実写映像と3DCGを併用した映像制作や、VR美術展の制作、エクストリームインプロヴィゼーションという団体、“跡地”(バンド)と幅広く活動している。
〈Twitter〉https://twitter.com/self395?s=20
〈Instagram〉http://instagram.com/tomoro_hanzawa/
バーチャル美術展 大破壊元年
https://cluster.mu/w/eaeba523-2c42-46a6-b791-64c61b4b8fea
PICNICYOU/ REAL GOLDSPIRITAS
https://youtu.be/s8Ex0sV0AFo
今回ご紹介する作品は、VRヘッドマウントディスプレイ(以下VR HMDと記述する)に関する作者の見解自体を軸として成立してると言えるでしょう。
本記事ではコンセプトを踏まえて作品を設計する作者の手付きにに着目し、作品を読み解きます。
Displays XRについて
STYLYで作品を起動すると、WindowsXPを思わせる壁紙が設定されたデスクトップPCが置かれた部屋に出ます。
モニターの大きな枠を通して近似した部屋が一方向に連なり、本作の主な空間が構成されます。
モニターやスマートフォン、窓を中心に順を追って部屋を移動する映像、WindowsXPを思わせる丘のイメージが映され各所に配置されています。
認識上の空間/映像の混濁
部屋を進む度にモニターや窓が複雑化して交錯し、時に融解するように部屋が変化していきます。
その為、鑑賞を進めるごとに、デスクトップPCやスマートフォン、窓といった固有名詞の認識は不安定になり、鑑賞者が見ているイメージに対して入れるか/入れないかという差異のみでしか、テクスチャに映る映像か形のデータを持ったオブジェクトかを判別し難くなっていきます。
この体験は、「各オブジェクトとテクスチャに映された本作品空間の映像は、VR HMDに出力されれば等位なものである」ことを明らかにします。
直線に連なる近似した部屋が徐々に変化する体験は、審査長の宇川直宏氏のコメントに挙げられていたように伊藤高志の作品『SPACY』を思わせるリズムに伴った変化が見受けられます。
そこで鑑賞者に起こる混乱は、VR HMDの問題系へ鑑賞者を誘うでしょう。
メディアそのものを立ち上げる
最後の部屋の先には、これまでもディスプレイに映されていた丘のイメージがVR空間として現れます。
そして丘を直進した先には、「VR HMDに表示する形式の2つの球状の映像」が投影された空間に入ります。
これら全体を通して、ディスプレイ上のオブジェクトとテクスチャに映された本作品の映像が同一であり、「VR空間」として体験するものは、ディスプレイに映る平面の映像を鑑賞することであると理解できるでしょう。
この様に本作品は、VR HMDというある種、魔法の装置のように捉えられがちなメディアを「あくまでも各種センサーや音を併用しつつ映像を出力するディスプレイ」であることを示すメディアアート(媒体について言及する作品)として成立しています。
COVID-19を通して、実空間で行われていた行為がVR空間上で行われる機会が増えた一方で、本作品で扱われていたVRで体験させる3DCGが獲得してしまう要素は半ばスルーされる傾向にあり、それ故のコンテンツの発展途上は現状として多々見られるでしょう。
本作が提示するVR HMDの問題系は、我々のVRでの体験の原理を明かすと同時に、「如何にして豊かな体験を構築するか」を考える契機となり、それを押し進める視点を与えてくれるはずです。
体験をデザインする
本作は複雑なインタラクションはプログラムされておらず、「コントローラーによる移動」とVR HMDのセンサーによるディスプレイの移動のみがインタラクティブな要素として実装され、作者によって設計された空間を移動する体験が作品である、インスタレーションと呼ばれる作品形式だと言えます。
しかしながら、「体験そのものが作品である」事に雲を掴むような分かり辛さがあるかも知れません。
そこでまず、インスタレーションという観念を念頭に置き、本作品に着目してみましょう。
『Displays XR』から見るインスタレーション
『Display XR』の空間を大まかに分けると
- 普遍的なVRコンテンツと同じ様に認識可能な最初の部屋、それに近い空間
- 貫通する連なったモニターを通過していき、映像とオブジェクトを区別し難くなった空間
- 部屋を超えた丘
- 「VR HMDに表示する形式の2つの球状の映像」が投影された空間
という区分に分けられ、それらが最初の貫通するモニターから一方向に連なっています。
ここで、もし本作に登場するデスクトップPCやスマートフォンなど、各々のオブジェクトが独立して提示されていたら。
あるいは全てのイメージが同一の空間で一度に提示されていたとしたら。
という想定をした時、本作品のコンセプトを鑑賞者は読み取り難いでしょう。
つまり本作では、「鑑賞者が空間を歩き、モチーフや現象を関係させ思考する」事で意味を立ち上げており、それを意図した空間を作者が設計する事で作品が成立しているのではないでしょうか。
直線に連なり貫通するモニターが動線(鑑賞者が移動するであろう線)となり、その動線に倣って部屋は変化する。
それによりオブジェクト/テクスチャに映る映像を区別している体験と混同する体験を時間/空間的に相対化し、各体験を比較可能に提示する。
映像とは異なる要素として、3DCGを移動するコンテンツを鑑賞/制作する要素として、(架空の)鑑賞者の肉体を想定する必要があるでしょう。
そしてその鑑賞者の肉体が介入する事によって、本作のようなある種の3DCGのインスタレーション体験が成立しているとも言え、それはVR HMDが持つ魅力の1つでもあるでしょう。
シーンを体験する
本作品は、テクスチャに写る映像とオブジェクトによって構築された空間を、鑑賞する際に混同してしまう事が作品の重要な要素と言え、何より体験する事で作品は発動すると言えます。
是非、実際に『Displays XR』を体験してみましょう。
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