今回は、DIG INTO NEWVIEW 2021 by STYLYのツアーレポートをお届けします。
「DIG INTO NEWVIEW 2021 by STYLY」は、NEWVIEWプロジェクトで制作されたアーティストによる作品を、ゲストと共に楽しみを分かち合いながら体験できるツアー形式のイベントです。
このイベントでは、メディアアーティストであり、VRやゲームを含む様々なアートを作られてきた谷口暁彦氏をトークゲストとしてお招きし、NEWVIEWプロジェクトで制作された選りすぐりのVR作品を5つ体験することができました。
▼NEWVIEWとは?
NEWVIEWプロジェクトは、ファッション、音楽、映像、グラフィックなど、現代のカルチャーを体現する人々が集まり、3次元空間でのクリエイティブ表現と体験のデザインを開拓・拡張していく、世界同時多発の実験的プロジェクト/コミュニティです。
早速、ツアーで巡ったVRシーンを谷口さんのお話しを交えながら紹介していきます。
1.Strange Swamp Beat by VIDEOTAPE MUSIC
STYLYにとって特に初期である2018年の作品からこのツアーは始まりました。
VIDEOTAPEMUSICさんとのコラボによって生まれたこの作品は、Music Videoのノスタルジックな空間に包まれるような経験を生み出しています。
「20世紀の驚異 居ながらにして世界旅行を」「日本最初の特殊装置 立体音響」と書かれたオブジェクトが、1970-80年代のSFのイメージをまといながら目に飛び込んできます。
強調されたテクノロジーへの期待の言葉は、ハリボテの部屋のような空間にいるペラペラの女性とコントラストを産んで、この空間の虚構性を強調しています。
少しくぐもったピンクの背景や、ランダムに置かれた室外機やテレビ、車などのオブジェクトが、典型的なヴェイパーウェイブのイメージよりも少し古い日本の風景と重なり楽曲の印象を表出させています。
最初に広がる空間の奥には木が生い茂るエリアが広がり、ワニやピアノの映像があります。
突然ふと襲いかかる水中からの恐怖が、無意識の中に居座り続ける痛みを思い出させます。
空間の奥にあるピアノは、空間全体の色調をともにしながら夢の中のリズムを整えるように動きづつけます。
STYLY初期の作品のため2021年の現在にとって特に目新しい技術などが使われているわけではありませんが、音楽とオブジェクトや画像の組み合わせによって、体験者を十分に楽曲の世界観に誘い込めることがわかります。
ゲストの谷口暁彦さんは、この作品について2点お話をされていました。
1つ目は、VRはその世界の全てのものを作家が構築できるということです。
展示などは、それが開かれるギャラリーや、その街が培ってきた文化や歴史と連続しながらそこに存在します。
しかしVRは、もともとこの空間はこういった場所だったといった前提を全く持たず、作家がそこに出現させたものだけが純粋にある空間になります。
絵画や音楽などに感じる息遣いとはまた違った作家の空間認識を味わう空間を、VRでは楽しめます。
この作品も不規則なオブジェクトの配置や「あの色」とは言い表しにくいような色で作られた空間は、音楽をどう解釈してVRを制作したのか読み解くような面白さがあるように思えます。
2つ目は、コラージュについてです。この作品のランダムなオブジェクトの配置に谷口さんはスクラップブックを思い浮かべたそうです。
美術でよく出る課題の一つにスクラップブックを作るというものがあるそうですが、好きな雑誌や新聞を切り抜き本にまとめるような仕方で、オブジェクトを集めて空間に配置するようなことをこの作品では行われているとお話がありました。
ブックマークにWebページを保存するように音楽とイメージや、映像、物体を、ひとつの空間に保存し見返せるような空間にすることは、フェチズムを媒体に圧縮されずに自分の中でアーカイブを作ることにつながるかもしれません。
STYLYは現在19,000のシーンがあるそうです。
この2つの観点からでも、さまざまなシーンを探索する面白さを増幅させることができるお話だと感じました。
2.Merging Memories by Kenichiro Hirai
2つ目の作品はさらに空間の記憶について、空間を生成し直し多層的にするような作品です。
こちらは、2019年のNEWVIEW AWARDのHIDEKI MASTUTAKE PRIZEに輝いた作品です。
葛飾区立石の「呑んべ横丁」が再開発に伴い景色を変える中で、その記憶をフォトグラメトリで記録し再構成するVR作品です。
呑んべい横丁の狭く雑多な感じ、東京の裏路地の戦後史を背負った汚らしい様子、居酒屋やパブの賑わいがフォトグラメトリによって空間にぎゅっと閉じ込められられています。
フォトグラメトリによって壁や天井が粗くなっていたり、継ぎ剥ぎのようになっているのが、薄れゆく思い出を必死に残そうとするも手から零れ落ちていくような時間を思い起こさせます。
よっぱらった時の身体感覚に近い空間にもなっていると谷口さんは言っていました。
また、この作品は実際に呑んべ横丁で撮られた写真を空間内に配置し、フォトグラメトリのデータと、写真に写し込まれた記憶を重ねながら体験できるような構成になっています。
この空間に人が集まり生活をしていたリアリティが身体感覚として感じられます。
いわゆるMR(ミックスドリアリティ)は、現実空間にバーチャル空間を重ね合わせて体験を拡張するものですが、ヴァーチャル空間に写真のイメージを重ねる点ではMRの逆のような発想かもしれません。
トイレだけ不思議とフォトグラメトリの精度が高く、なんでここだけ綺麗なんだろうと、谷口さんや参加者で集まって眺め合ったりしました。
トイレの形状を見るに、男女共用のトイレのようでここにも酔っ払いたちの物語が何かあったのかもしれないというような話も出ました。
横丁をシャンゼリゼ通りのイルミネーションと間違えた酔っ払いの歌が聞こえてくるような体験ができます。
「君を連れて 遊びに行こう みんなが集まるあのクラブ ギターを弾いて朝まで歌う 楽しく騒いで恋をする オー・シャンゼリゼ 」作品のモデルを下から見た様子です。
もちろん、ポジティブな歴史だけではなくいわゆる赤線と呼ばれたエリアが近くにあり、少なからずそこと連続した生活があったとも言われています。
本来は隠れた裏路地にある喧騒が、幻想的に取り出されているようにも見えます。
3.Pale Ball’s Landing Life by Takuro Tamayama
3つ目の作品は、多くのインスタレーションを発表してきた現代アーティストの玉山拓郎さんの作品です。
こちらの作品を見て谷口さんは、昔の高速道路のトンネルによくあった、オレンジ色のナトリウムランプが短波長の光によって何を入れても白黒に見えてしまうような、そうした脱色的な効果を感じるとおっしゃっていました。
空間は写真的なコンポジションにより構成され、一般的な家具や岩のようなオブジェクトが、色彩によって焼き付けられています。
光を空間の素材にしている作品と言ってもいいかもしれません。
色を持つ光により、硬さや重さ、存在感などが転換され、日常とは違うあり方をオブジェクトに求めます。
あるいは、鑑賞者にあり方をどう捉えるかが求められるとも言える空間になっています。
VRの特徴である、スケールや重力を無視したオブジェクトの配置などと組み合わさり、空間の不可思議さを高めています。
立方体で構成される空間の1/6面は、徐々に色を変えていき映像になっていきます。
映像の中にはこちらと違う空間が存在していて、向こう側にも何かしらの法則や物語があるような気がします。
こちらも物体の物性や存在感を組み替えながら、この世界のオブジェクトを揺るがすようにイメージを送りつけてくる映像により、映像とオブジェクトとVR空間が反響し合うように、それぞれの意味をねじり合っています。
玉山拓郎さんは、展示空間の中にキューブを配置し空間を入れ子構造にする作品を作られたりもしています。
このVR空間でも部屋や画板、モニターに当たるようなオブジェクトを自然な動線から感じる空間のリズムとは少しずれた位置に配置しなおすことでオブジェクトのあり方を変えるような状況を作り出しています。
絵画的な空間でありながら、絵の要素よりも空間そのものや色や光が前景化する構成がVRの空間にマッチした作品になっています。
こちらの作品もツアー1作目のStrange Swamp Beat同様、ハイパーウェーブや加速主義といった資本主義リアリズムを感じさせる世界観がありますが、音楽よりも視覚的な表現の優先順位の高い作品であり、かつ色や光といった物質性の存在感の高い作品に見えます。
作品を比較しながらVRを楽しむのもこのツアーの醍醐味でした。
3.STEREO TENNIS NEON TOWN by Stereo Tennis
これまで、音楽、フォトグラメトリと写真、映像、インスタレーションとさまざまな分野の作家が製作したVR作品を見てきましたが、この作品はグラフィックアーティスト・イラストレーターであるステレオテニスさんの世界観をVRに広げた作品です。
「平面的なものを創るのが得意な人の作品だが、平面を空間に配置することでこんなふうにできるのか、かなり計算された空間になっている」と、谷口さんはお話されていました。
こちらも、80年代風のノスタルジックを感じる作品です。
レトロアニメやレトロフューチャーといった、過去に想定された未来を映し出すような世界観が、実際に過去に期待を高めら、さまざまな構想を引き受けてきたメディアであるVR自体と重なって、ノスタルジーを増幅させているように感じます。
5.UPDATE RINNE ver2.5 -digital data hometown- by Takakura Kazuki
こちらは、現実空間とバーチャル空間とを行き来し作品をアップデートしながら展示を行う一連のプロジェクトの中であった作品です。
もともと顔文字やドットなどを多く使用されて作品を作られていた作家です。
一作品内における手数が多く、VR空間でイラストを描けるTiltBrushを使用したり、Gif画像を画面に展開していたり、ドットで作られたキャラがいたりと、多層的なイメージを重ね合わせた世界になってます。
お墓や不思議な霊的な生き物、宗教に関するモチーフなど高い密度で面白いオブジェクトやイメージが扱われていることは、谷口さんにも好評でした。
額縁が多用されているのも、窓による「ある地点からのある眼差し=正面性」が多層化されており、その上で額縁が外れていたり解体されていたりして、ある視点の誘導とそれをズラす効果を生んでいるという指摘もありました。
上空にはファイルのアイコンが浮いていたり、3DCGエディターのギズモがそのまま貼られていたりと、体験者自体が特定のファイルの中にいるような設計にもなっています。
作品の外側に貼られているイメージも作品内にあるオブジェクトが展開されていて、この世界の複層的な構造が強調されます。
NEWVIEWのこれまでの活動をまとめてきたツアーになっていました。
VRでツアーで作品を観て回る体験を谷口さんも楽しめたとおっしゃっていました。美術館の学芸員がするツアーのようでもあり、VRならではの自由に動き回って空間を楽しめるツアーでもある点が新しく、コロナ禍の試みの一つとしてもいい体験になったとお話しされていました。
HTC VIVE でSTYLY アプリの配信開始
このツアーの最後にはSTYLYのHTC VIVEで使える新機能の発表がありました。
今回のツアーのように、複数のVRシーンを体験するツアーを一部屋からアクセスできる形で管理できます。
これまでのNEWVIEW AWARD受賞作が見れる会場もあります。
パルコで展示した会場と、オーバーラップするような空間の構成になっています。
NEWVIEW 2020 VIRTUAL EXHIBITION :
https://newview.design/news/virtualexhibition_2020
VRミュージック系のシーンを集めたポータルもあり、AWARDを受賞された作品や、STYLYとアーティストコラボの作品がいくつか見れます。
詳細:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000033579.html
HTC VIVE PORT用のURL:
https://www.viveport.com/5b0ed048-4243-4c9c-b603-729377e3373d
以上が今回のツアーの内容になります。
VR作品を谷口さんや参加者と語り合いながら見廻るのは不思議な一体感も生まれてとても楽しい時間でした。
STYLYはこれからもさまざまなツアーやイベントを開催して行きますので、ぜひご参加ください!