Ars Electronicaとは?
ArsElectronicaはオーストリア・リンツで行われるヨーロッパ最大級のメディアアートフェスティバルです。世界各国から数多くのメディアアート作品が集まり、リンツ市の至る所で展示やイベントが行われます。また、教育的な側面からSTEAM教育の研究や、子どもに向けたワークショップにも取り組んでいます。
毎年9月の上旬に開催され、子どもから大人まで誰もが楽しめるアルスエレクトロニカ。年に一度の5日間、オーストリア第三の都市リンツ市は色んな国からやってくる観客やアーティスト、地元の人たちでごった返しています。
Ars Electronicaで展示されたXR作品紹介
今年のアルスエレクトロニカのテーマである「Welcome to Planet B -A different life is possible! But how?」(訳:惑星B-あなたが辿れる別の人生へようこそ! でも、どうやって?)は、現代の矛盾に対する答えを探すチャレンジです。
仮想世界への素朴な現実逃避も、宇宙植民地化の技術的な超ユートピアも、大きくて不快な問題に直面することから私たちを救うことはできません。この地球上の私たちの生活は、生態学的な超災害を防ぐためにどのように見える必要がありますか?どのような行動をとらなければならず、どのような結果を受け入れなければならないのでしょうか?
… (中略)…
私たちは気候変動の結果を恐れていますが、それ以上に、必要な変化の多くの計り知れない未知のものを恐れています。では、私たちが住んでいる世界だけでなく、自分自身も変えることができるのでしょうか?
… (中略)…
排出量を削減し、大気中から排出物を除去するのに役立つ、あらゆる技術、あらゆる組織的、ロジスティクスの最適化が必要になります。しかし、今回の人類史上最大の革新プロジェクトは、私たち自身でなければなりません。それは、グローバルコミュニティとしての挑戦に立ち向かう私たちの能力、つまり人類の再発明です!
アルスエレクトロニカでは様々な作品が展示されています。毎年行われるコンペティションの受賞作品コレクションPrex ArsElectronica、世界中国や機関ごとに展示されるGarden、アニメーション部門、キュレーター選定の作品、地域とのコラボレーションプロジェクトなど、その内容もリサーチベースのものや実験的なもの、マテリアルからソフトウェア、ネットアート、XR、AIまで様々なメディアやテーマの異なる作品が街の至るところで展示されています。
さて、メディア芸術祭においてXRはどのように語られるのでしょうか。数多くある作品の中でXR作品に焦点を当てていくつかご紹介します。
ヒューマンテクノロジーのロマンをXRで「maihime」
文化庁メディア芸術祭が主催するGarden Tokyoでは、アーティストの山内祥太さんによるXRパフォーマンスが行われました。
公園の中心に置かれた大きなスクリーンに映るのは肌色のゴリラ。ダンサーはピンク色に光るケーブルに繋がれたゴム製の服をまとい、VRヘッドセットとモーショントラッカーを装着しパフォーマンスを開始します。
ゆっくりと服を脱いでいくダンサー。その動きに合わせて肌色のゴリラも肌色の服を脱いでいきます。生身の人間の動きをテクノロジーによってコピーするゴリラですが、その関係性はパフォーマンスによって詩的に語られていきます。
ヒューマンテクノロジーのロマンをパフォーマンスインスタレーションで表現。 人間とテクノロジーは、肌という衣服を通して一つになろうとします。 テクノロジーは人間の生命の有限の黄昏を切望し、人間はテクノロジーが保持する無限の銀河を切望します。 人間はテクノロジーにはまっています。 テクノロジーは人にも依存しています。 テクノロジーを愛し、同時に人々を愛するにはどうすればよいでしょうか。 私は喜びと絶望のバランスを見つけ、それを今日の世界に生きる人々のセクシュアリティに投影したいと思っています。
XRによる新しいスニーカーの形「BT2XXX」
この作品「BT2XXX」(ブティック2XXX)では、HoloLensを通して仮想の靴モデルを自分の好みに合わせて改造することができます。
ベルリン芸術大学のJonny-Bix Bongers、Jonathan Möller、Florian Poradaによる研究チームの「ミクスド・メディア体験」は、Design & Computationの修士プログラム内で進行中の研究プロジェクト。新しい技術が社会的な問題を、より直感的な方法で議論するのにどのように役立つかのを探っています。
架空の未来組織「ORTFRIED」がスニーカーを作るためのガイドをしてくれます。まず、ORTFRIEDの従業員が自身の履いているスニーカーをスキャンして、低評価をつけます。これは製品の背後にある素材や製造プロセスについて考える機会をもたらすためです。
次に、鑑賞者はHoloLens越しの拡張現実の世界で、スニーカーの様々な素材を見ることができます。
最後には、素材がジェネレーターに送られ仮想の靴に加工され、ARデバイスを通して見えるようになります。
この未来的な靴について、自宅でも作れるように製造方法の手引きを電子メールでもらいます。
この作品は、来場者が好みに合わせて改造できる仮想の靴モデルです。ファッションスニーカーの対象は、高級品やハイプセクターでの消費のメタファーとして使用されますが、同時に幅広い視聴者に関連するほど一般的です。スニーカーの選択はあまり真剣に考えず、別の未来をデザインするためのアクセスしやすい入り口を提供しますが、インスタレーション全体を通して、スニーカーが表すトピックは些細なことであることが明らかです。このように、インスタレーションは皮肉と誠実さの間で揺れ動き、その意味を遊び心のある方法で伝えます。最終的にこの作品は、MRを活用した遊び心のあるデザインプロセスを通じて、豊かな生活の別の物語をどこまで実現できるかを調査しています。
(作者コメントより)
輪廻のループを体験するVR「Samsara」
セガやソニーのアーティスティック・ディレクターを歴任したこともある台湾出身のアーティストでディレクターのHsin-Chien HuanによるVR作品「Samsara」。ヘッドセットを装着すると、輪廻転生の旅が始まります。魂となって様々な身体を体験することに生まれる、他者への理解と共感性がテーマです。
ディストピアのような世界から始まり空間や時間をワープしながら展開される物語は、強烈なビジュアルイメージに誘われてその独特な世界へ、どっぷりと頭の先まで浸かることになるでしょう。
鑑賞後にヘッドセットを外した時、この現実世界が輪廻のループの延長上に感じるかもしれません。
Samsara VR は、何百万年にもわたる旅に観客をテレポートさせます。仏教の六道と同様に、視聴者はさまざまな人や生き物に溶け込み、新しい身体で宇宙を体験して、究極の精神的超越を見つけます。輪廻物語の舞台は近未来。地球上の資源は、人々の貪欲さによって枯渇しています。資源をめぐる争いにおける壊滅的な戦争は、世界的な破壊につながります。残りの人類は地球を離れ、新しい家を見つけることを余儀なくされました。しかし、この新しい家を探す長い旅は、空間と時間のループにすぎませんか?精神的な進歩なしに絶え間ない進化と進歩は、どこにも行かないかもしれないメビウスの帯にすぎません…輪廻転生は、具現化された認知の概念に基づく実験です。インタラクティブ性と VR を通じて、観客はさまざまな人や生き物の体に住むことができます。この世界をさまざまな体で感じて初めて、他人の考えを真に理解し、共感し、自分の存在を完全かつ調和して把握することができます。
仮想構造と現実世界(Dom_Ino)
部屋の中心に無造作に並べられた棚。一見どこにでもある棚に見えますが、VRを通して眺めると仮想世界と現実世界をつなぐ重要なオブジェクトだということに気付くでしょう。
「Dom_Ino」はShahab NedaeiとRafael LudescherによるXRインスタレーションです。
ヘッドセットを装着すると現実とそっくりな部屋が広がっています。そこにある棚を触ると、現実の棚の感触がするでしょう。バーチャル空間と現実空間が全く同じサイズでリンクしています。
棚に映し出されるのは都市の日常風景。その風景はだんだんと細かく裁断され、部屋自体も崩壊し、どこか遠くへと吸い込まれていきます、。
現実世界の物理法則が反映されないバーチャル空間では、解体された部屋のかわりに巨大なビル群が並び始めます。連続性を持つこれらの構造物は、複製を繰り返しながら現実とは全く異なる環境を構築していきますが、徐々に収縮して現実へと戻っていきます。
現実世界よりも仮想世界の方が平和になれるというのは皮肉なことです。概念、思考、時間、空間がフィクションの個人的な認識にのみ曲がる方法。ブッダは明らかに、私たちが自分自身の現実を文字どおりに確立し、意志と野心だけに屈する世界を形作るという彼の教えを受け入れたとは考えていませんでした。しかし、実際に起こったことであり、当然のことながら、この経験と感情の仮想構造が、現実の表現に対する私たちの認識にどの程度影響するかという疑問が生じます。非物質化され、形のない架空の環境において、自然界の確立された概念で測定することは理にかなっていますか?
終わりに
ヨーロッパ最大のメディア芸術祭で語られるXRは、人間とテクノロジーやそれへの向き合い方、体験することや仮想世界の捉え方など、それぞれの作品が全く異なる視点から、この時代における答えを探すためにチャレンジしていたように感じました。
今を読み解く鍵としてのXR。そのポテンシャルはこれからも私たちを常に新しい挑戦へと駆り出させていくのではないでしょうか。
Edited by SASAnishiki