Laval Virtualの魅力は人とのつながり:ネットワーキング Laval Virtual 2023

 

フランスで毎年行われる、VR/AR/XRをテーマとした大規模フェスティバル「Laval Virtual」。今回、4月12日~16日にかけて開催されたLaval Virtual2023」 を体験したので、複数回にわたってレポートします。今回はレポートの第6弾として、Laval Virtualの中でとても大切にされている「ネットワーキング」について取り上げています。

ネットワーキングとは

ネットワーキングを一言でいうと「異業種交流会」です。Laval Virtualには人と人がつながるための仕掛けが色々と用意されています。フェスティバルの始まる前日に用意されているネットワーキングディナーというイベントや、オープン初日に開催されるLaval Virtual Party、そしてアワード授賞式の後に開催されるアワードセレモニーを通して、展示者や学者、リサーチャー、学生、フリーランスの方など、様々な領域を超えて多くの人と交流することができます。

Laval Virutal ディレクターのChristian Travierさん(手前)と、Laval Mayenne TechnopoleのValerie Moreauさん(奥)

Laval Virtualが始まる前日に開催されるこのネットワーキングディナーは、Laval Virtual が始まった1999年から続く伝統行事です。フランス料理のコースを楽しみながら参加者と交流することができます。前菜、メイン、そしてデザートの3品が運ばれてくるのですが、それぞれ食事が運ばれるタイミングで席替えが行われます。最初は知り合い同士で座っているテーブルも、会の終わりには自由な輪が生まれ、新しいつながりを見つけることができ、これから始まる5日間のフェスティバルを快適な気持ちで迎えることができます。

平べったいパイナップルに、柑橘系のシャーベットが乗ったデザート。上に添えられている薄いクッキーのようなものは、屋根と呼ばれるそうです。

後から振り返ると食事の写真しか残っていないほど、おしゃべりや情報交換であっという間に時間は過ぎていきました。私も含め、1人で来ている人も何人かいました。1人で行ってもそこで知り合いができるので、楽しいですよ。

Laval Virtualの初日が終わると、Laval Virtual CenterにてLaval Virtual Partyが始まります。

展示者やビジター、カンファレンスでプレゼンテーションする企業や学者の方など、みなさんここで一緒にパーティーを楽しんでいます。

美味しい料理もたくさん用意されています。スイーツやピザ、ハンバーガーなど種類が豊富。飲み物も、シャンパン、ワイン、ビールと、なんでも揃っていて初日の緊張と疲れが吹っ飛びます。お腹を空かしてパーティーに行くことをおすすめします。

日本との繋がり

また、Laval Virtualは日本と深い関わりがあります。毎年日本で開催される国際学生対抗バーチャルリアリティチャレンジ「IVRC」(Interverse Virtual Reality Challenge)では学生を中心としたチームでインタラクティブ作品を企画・制作するチャレンジが行われ、作品が選ばれるとこのLaval Festivalに招待されます。

東京大学学際情報学府稲見研究室の高下修聡さん、田中尚輝さん、鈴木大河さん

今回IVRC2022でLaval Virtual Prizeを受賞し、Laval Festivalに招待されたのは東京大学大学院のチーム。

体験者はVRヘッドセットをかぶり、手足に電気マッサージに似たパッチを装着します。VR世界では手足の殆どが動かない壊れかけのロボットとなり、バーチャル上で自らの脳を開いて脳内回路を修理するというもの。

この体験では、インタラクティブに反応する電気刺激の感覚を体に感じながら身体システムをリアルタイムに修復・改変することができます。ロボット脳内にある「意識モジュール」から、手足に伸びる回路を繋ぎ直すことによって壊れた四肢の操作を修復するのですが、回路を繋ぎ間違えたときには、実際の体の動きとは異なった形で四肢が動いてしまいます。このように自らの脳・身体システムを改変する操作を通し、体験者は「編集可能な身体感」に触れることができます。

 

IVRC実行委員長で東京大学の稲見教授、審査委員でREALITY株式会社、GREE VR Studio Directorの白井博士からフランスのArts et Métiersd大学Lavalキャンパスの学生チームへ日本への招待賞が贈られました。

また、Laval Virtualでは日本のIVRCへ招待される賞が用意されています。今回受賞したのはフランスのArts et Métiersd大学Lavalキャンパスの学生チーム。次回のIVRCでは彼らの作品を見ることができます。

なぜこのようなつながりがあるのでしょうか。IVRC実行委員長で東京大学の稲見昌彦教授にお話をお伺いしました。

実は、この交流のルーツは岐阜にあったそうです。
1990年代、岐阜県はVR技術によって県の活性化を図ろうと着想し、当時の梶原拓県知事により、地方創生計画の一環としてVRテクノセンターや県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS:現情報科学芸術大学院大学)などが次々と創設されていきました。そういった中で、1995年に岐阜県知事の支援により世界初のVR国際会議であるVSMM(International Society on Virtual Systems and MultiMedia)が設立され、マルチメディアおよびVRシステムにおける学際的な学術研究と交流の主要な場となっていきました。

このVR国際会議に参加していたのが現在のLaval Virtualの関係者の方たちでした。彼らはVR国際会議をきっかけにLaval Virtualを立ち上げ、それ以降日本との交流が続いているそうです。その後に立ち上げられた学生VRコンテストでは、お互いのイベントの交流を目的として、選ばれた作品をそれぞれ招待し合うという伝統が続いていきました。

参加者同士のつながり

25年の歴史を持つLaval Virtual。その長い時間の中では参加者同士のつながりも広がっていきました。

(右から)多摩大学の出原至道教授と研究室秘書官の出原由美さん、ESIEA大学の学生さん

多摩大学は、2004年に学生作品がLaval Virtualに招待されたのをきっかけに、以後毎年このフェスティバルでプロジェクトを発表されているそうです。また、現地のESIEA大学とは14年前の提携協定締結以来、Laval Virtualでの共同展示やインターンシップの受け入れをされています。また、今年から岡山県井原市でのインターンシップも始まり、写真左端の学生さんは2023年の6月から来日される予定です。

 

ブースでは、岡山県井原市役所と共同研究されたプロジェクトを展示されていました。

 

その他にも、日本から参加したグループをいくつか紹介します。

立命館大学の大島 登志一教授と研究室の松井才奈さん、室井克仁さん

立命館大学映像学部の大島ゼミの皆さん。

このプロジェクトでは、物理的な触感を持つ地図と力感知デバイスを使って、MRによる視覚×触覚体験を通じて「地理学的思考」の学習を目指し制作されました。ペンをにぎり、地図をなぞると、地形に沿って感触が変わり、地形の凹凸形状を触覚で知ることができます。

視覚的な情報だけではなく、物理的な触感を通じて、地理と様々な情報を関連づけ横断的な学習を促すことができます。技術要素自体は既存のものでも、それらを組み合わせ、どのように社会に役立てるかというコンセプトもプロジェクトの魅力となっています。

 

東京都立大学の小島優希也さん、米田悠人さん、島田匠悟さん

東京都立大学のみなさん。

こちらの作品は、コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する世界的な学術会議SIGGRAPH 2022で「Laval Virtual Award at Siggraph 2022」を受賞し、このLaval Virtualに招待されました。

体験者は、2つの自律移動ロボットを操作することができます。1つは犬型のロボット、もう一つはセグウェイ型のロボットです。VRヘッドセットを装着すると、それぞれのロボットに取り付けられたカメラの映像を通して現実世界を見ることができ、その視覚的情報を頼りにVR上でロボットを操作することができます。2体のロボットのバーチャル操作を通して、マルチスペース体験を可能にします。

世代から世代への繋がり

Laval Virtualではいろんな国から学生がやってきて、それぞれのプロジェクトを発表する機会を提供しています。そういった中で、かつて学生として展示していた人が教授になり、自分の生徒を連れてこのLaval Virutalに戻ってくることもあります。Laval Virtualは、世代から世代への繋がりも深いのです。

台湾の清華大学のチーム。左から2番目が柯宜均助教授。

台湾の国立清華大学でラボを持つ柯宜均教授は、かつてLaval Virtualで学生として参加していた一人です。パリ第8大学に留学しているときにこのLaval Virtualで作品を発表されました。

その後は、台湾でも最大級の高雄映画祭において XRプログラムを宣伝支援するコンサルティングアドバイザーとして働き、また、台北映画祭においてはVR プログラムの主任研究員も務めました。
そういった活動の中でフランスのVR作品を台湾の方達に紹介するなど、フランスと台湾の架け橋となり精力的に活動されています。

清華大学のブースでは、VRコントローラーとヘッドセットを使い、あめを舐めながら舌を動かして操作するゲームのデモンストレーションが行われていました。

顎の下に取り付けるセンサーデバイス

 
 
同じ台湾からやってきたもう一つのチーム、国立台北科技大学。ここで助教授を務める韓秉軒助教授もかつて学生としてLaval Virtualに参加していた一人で、生徒と一緒にこのLavalに来ています。

国立台北科技大学の学生さんと韓秉軒助教授(左から3 番目)

韓先生は、学生時代にLaval Virtual Award at Siggraph 2017を受賞し、このLavalに招待されました。それからは助教授の道に進み、今度は自分の学生さんたちをLavalに連れてきています。
 
ブースで行われていたデモンストレーションでは、VRヘッドセットをかぶり、ボクシングのトレーニングを行うことができました。ボクシングトレーナーはVRの中に、サンドバッグはシステムで制御されています。VRを装着した状態でサンドバッグをパンチするのにはコツが必要ですが、慣れてくるとパンチが決まり、ストレス発散になります。
 

ボクシングは、激しい動きと2人のボクサー間の密接な体の接触を伴う戦闘スポーツです。このプロジェクトは、多くのボクサーを連続でトレーニングセッションするコーチの負傷や疲労を、VRやロボットで代替することに取り組んでいます。

地域との繋がり

Laval Virutalでは、多くの子どもや家族連れを見かけます。25年続くこのイベントは、地域の方からのたくさんの注目と興味によって今日まで続いている側面があります。

Céline Tranさん(左)

ラヴァルが地元のCéline Tranさんは、小さい頃から何度もこのLaval Virtualを訪れていました。見に来る側だったCélineさんは、その後地元のESIEA大学に進学し、今回は展示する側となってLaval Virtualに参加しています。小さい頃に何度も訪れていたせいか、長年このLaval Virtualnoの展示に参加している方たちと顔見知りで「あの時の君か」と驚かれたそうです。

Alizee Caletさん(右)

Alizee CaletさんもまたLaval Virtualに影響を受けた一人です。このLavalで生まれ育った彼女は小さい頃から何度もこのイベントを訪れていたそうで、現在はArts et Métiersd大学Lavalキャンパスの学生さんです。3Dアーティストとしての側面も持つ彼女たちのチームは、今回ReVolution #Student AwardとIVRC賞を受賞しました。2年前は、ケータリングスタッフとしてこのフェスティバルに参加していたそうで、今回は展示者として参加でき、さらには賞も獲得できてとても嬉しいと話していました。また、IVRCの招待で日本に行くことを楽しみにしているそうです。

Laval Virtualのその長い歴史は、確実に地域に根付きながら、グローバルにバーチャルの輪を広げています。

おわりに

Laval Virtualが25年も続く背景には、国際的な交流の継続、参加者同士のつながり、そして何より地域の方達とのつながりがあることが感じられました。実際このイベントに参加すると、本当に多くの新しい出会いに巡り会うことができます。これから先もこのつながりが広がっていき、さらに新しい景色が生まれるでしょう。

以上、6回にわたってLaval Virtual2023をレポートしていきました。アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどいろんな国から集まった作品を体験する知的興奮はもちろん、日本人の受賞が多かったり1990年代からつづく交流があったりと、フランスの地方都市に世界中からトレンドが集まるこの5日間の体験は、ヨーロッパ最大級のAR/VRフェスティバルと言われていることに納得の内容でした。世界がつながっている感覚がして楽しいフェスティバルでした。

Edited by SASAnishiki