【NEWVIEW SCHOOL2022 講義レポート】無意識の観察から生まれる、新しい体験のデザイン(講師:菅 俊一)

NEWVIEW SCHOOL 2022 2回目の授業は、コグニティブデザイナー、多摩美術大学美術学部統合デザイン学科准教授として活躍されている、菅 俊一さんに講義していただきました。

 

講師紹介

菅 俊一

コグニティブデザイナー/多摩美術大学統合デザイン学科准教授

1980年東京都生まれ。人間の知覚能力を基盤としたコグニティブデザインの考え方による行動や意志の領域のデザインを専門としており、近年は、線や点といったわずかな手がかりだけで動きや質感を感じさせるための表現技術や、人間の創造性を引き出すための制約のデザインについての探求を行なっている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「単位展」コンセプトリサーチ、同「アスリート展」「ルール?展」展示ディレクター。著書に「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」(共著・マガジンハウス)、「観察の練習」(NUMABOOKS)。主な展覧会に「あいちトリエンナーレ2019」(愛知県美術館、2019)、「指向性の原理」(SOBO、東京、2017)、「正しくは、想像するしかない。」(デザインギャラリー1953、東京、2019)。

http://syunichisuge.com

 

今回は「知覚と認知によるデザイン」についての講義です。コグニティブデザイン的な視点や、菅さんがライフワークとして行われている、「人間の無意識のデザイン」のXRへの応用の可能性について探ります。

 

私たちは世界をそのまま「見て」いない。

私たちが普段の生活のなかで、目に入ってくる情報と、頭の中で理解している情報の間には、理解するプロセスの中で何かしらの「認知のクセ」が働いているそうです。だからこそ、私たちはその理解される情報の姿を見越して、作品制作に取り組む必要があるそうです。

菅さんがご紹介くださったのは、その中でも私たちの認知に大きく影響している、「群化(grouping)」・「差分(変化を認知する能力)」、そしてそれらを応用した、「無意識の行動のデザイン」についてです。

講義の中でゲシュタルト心理学における、プレグナンツの法則(low of Prägnanz)と呼ばれる法則をご紹介くださいました。

参考:ゲシュタルト心理学を例と共にわかりやすく学ぶ:主要人物や仮現運動、図と地とは?

参考:プレグナンツの法則 | UX TIMES

差分=変化を検知する能力

講義は中盤より、「差分」という2009年に菅さんが共同出版された、表現研究の本の一部をご紹介いただきながら進んで行きます。この「差分」とは、「あるものとあるものが違う、ということを感じる能力」のことを指しており、2コマの絵の差を取って動いていない画像の差を取ることで、新しい感じ方を追及する実験とのことです。

それでは、この3枚のイラストを見比べてみてください。

 

それぞれ直線・ギザギザ・括弧を触れたときの、質感のイメージに誘導されませんか?特に括弧においては、人類史上、恐らく誰も触れたことのないもののはずなのに、私たちは「見る」行為から「感じる」ことを連想できるのです。

 

VRの世界でも、身体的な接触はHMDとコントローラーのみですが、今回ご紹介いただいたこの「差分」のように、視覚情報から身体感覚を誘発するような表現を用いることで、今まで触ったことない触感のような「新しい感覚」を生み出すことができるかもしれません。

 

参考:差分 | 佐藤 雅彦, 菅 俊一, 石川 将也 |本 | 通販 | Amazon

このように、菅さんの過去の様々な活動の紹介を通し、人間の無意識的な行いを、XRに応用できる可能性をご提示いただきました。講義はXR作品を制作する上で、インタラクションをいかにデザインすれば良いかという話に移ってゆきます。

突然ですが、こちらは菅さんの研究室に、皆で食べようとスタッフが差し入れとして持ってきたマスカットです。ただ、どうもお互い遠慮し合ってしまい、誰も食べだすことができず、冷蔵庫でどんどん劣化してしまうという悲しい事が起きてしまったそうです。

翌年、スタッフが紙コップ1分割した状態で1人1カップに分割して冷蔵庫に入れると、面白いことに皆遠慮せずに食べだすことができるようになりました。

菅さんの分析によると、マスカット自体、1粒1粒つまんで食べられる「ユーザビリティが高い」(!)食べ物なはずなのに、人間関係や文脈が絡むことで、「食べる」という行動に起こしづらい状態になっていました。それに対し、カップに移すことで、「食べやすい食べ物」を食べやすいままにせず、「食べようとしやすい状態」への再設定に成功したそうです。

このマスカットの例のように、選択に対する判断の存在を消すことで、我々は人に能動的な行動を促すことができるそうです。

例えばVRの作品を制作しても、VRを被ることに抵抗を感じてなかなか体験してもらえないという問題が発生しがちです。その解決の方法の一つとして、ここで体験者に「体験する・しない」の判断をさせるのではなく、制作の段階で「いかに自然に体験したくなるか」アイデアを巡らせることが重要になってきそうです。

課題発表&講評

体験者を『ふりむかせる』デザインのために

 

今回の事前提出課題のテーマは「体験者が『ふりむく』ことによって生まれる新しい体験をデザインしてください」で、講義の後半、菅さんによるピックアップ作品とコメント・講評をいただきました。

初回講義と比べ、受講生が使えるようになった技術も向上し、それぞれの個性の色がより濃く出ていました。毎週開催されている、STYLYやUnityのテクニカル講義もスタートしたこともあってか、提出課題の技術力もより向上しているように感じます。今回の「ふりむく」という行為を通して体験者に何を伝えられるかが共通する課題のようでした。

課題制作作品

以下の作品を体験する方法はこちらです。

I am very interested in you! / MWIW

 

 

SORA AKAIWA / 数

 

綱渡り/llka

 

鳴き声はどこから?/ suzukikeigo_

Just before dying / 加藤瑞樹

 

Waving / 6emon(岡本 享大)

※こちらはAR作品のため、スマートフォンでご体験ください。体験はこちら

uncomfortable / みふく

 

PLUG / mosqh

 

狐に化かされたのか?/ 生井 勇飛

 

 

クリアリングはやめてもろて / radicalOta

 

EasyCoolDiscus / 41h0(シホ)

 

今回の授業では、自分達がXRに対して抱いていた固定観念をほぐし、よりデザイン的な視点で制作していくヒントを身に付けることができました。

私たちが無意識のうちに抱いてしまっていた認知バイアスや先入観に気づくことで、それらを活用した新しい体験を提供できるような作品が作れるようになると面白いですね。今回の講義を通して日々を過ごす目線が変わったり、より意識して観察できる機会が増えたら、作る作品もレベルアップしていくこと間違いなしです!

 

Text:齋藤 凪沙 (NEWVIEW SCHOOL学生インターンシップ)・井上祐希 (NEWVIEW SCHOOL事務局

Edit:NEWVIEW SCHOOL事務局