【NEWVIEW SCHOOL2022 講義レポート】メタバースのルーツを探る!?バーチャル世界の捉え方(講師:宇川 直宏)

 

NEWVIEW SCHOOL2022の本格的な講義がいよいよ始まりました。初回となる今回は、現”在”美術家/DOMMUNE主宰の宇川直宏さんをゲスト講師に迎えて、「3次元空間表現とは」と題してヴァーチャル空間と私達との関係について、歴史的に紐解いていく講義をしていただきました。

「メタバース」というバズワードを筆頭に、XR表現への注目が集まる昨今ですが、歴史を知れば、ぐっと見え方が変わってきそうです。

 

講師紹介

 

宇川直宏 

現”在”美術家|DOMMUNE主宰

 

1968年香川県生まれ。現”在”美術家。映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、大学教授など、80年代末より、さまざまな領域で多岐にわたる活動を行う。2001年「Buzz Club: News from Japan」(MoMA PS1・ニューヨーク)、「JAM: Tokyo-London」(Barbican Art Gallery・ロンドン)に参加して以来、国内外の多くの展覧会で作品を発表。2010 年には、日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」を個人で開局。記録的なビューワー数で国内外にて話題を呼び、2011年文化庁メディア芸術祭推薦作品に選出される。宇川はDOMMUNEスタジオで日々産み出される番組の、撮影行為、配信行為、記録行為を、自らの”現在美術作品”と位置づける。2016年アルスエレクトロニカ(オーストリア/リンツ)のトレインホールにステージ幅500Mのサテライトスタジオ「DOMMUNE LINZ!」を開設、2019年、瀬戸内国際芸術祭にてサテライトスタジオ「DOMMUNE SETOUCHI」を開設。どちらも大きな話題となった他、これまでDOMMUNEは数々の現代美術の国際展に参加し、ロンドン、ドルトムント、ストックホルム、パリ、ムンバイ、リンツ、福島、山口、大阪、香川、金沢、秋田、札幌…と、全世界にサテライトスタジオをつくり、偏在(いま、ここ)と、遍在(いつでも、どこでも)の意味を同時に探求し続けている。10年間に渡って配信した番組は約5000番組/約7000時間/150テラを越え、トータル視聴者数1億人を超える。2019年、リニューアルした渋谷PARCO 9Fにスタジオを移転。「SUPER DOMMUNE」に進化し、5G以降の最前衛テクノロジーと共に未来を見据えたUPDATEを図る。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

 

メタバースの起源

計算機によって構築された世界の中で人間が生活を営むというビジョンは、SFの世界では古くから描かれてきた題材で、サイバーパンクの世界観の人気を確立した『Neuromancer』では脳が直接コンピュータと接続する世界が、100年近く前の作品である『Pygmalion’s Spectacles』では現代のVRゴーグルのような器具が描かれます。

(出典) atomicdigital.design

https://atomicdigital.design/blog/1935-the-pygmalion-spectacles-a-story-about-a-pair-of-glasses-and-a-virtual-world より

このような、バーチャル世界を表現した古典とも言える作品群の中でも、国家が衰退した世界の電脳空間を描いた『Snow Crash』は「メタバース」という語が登場するということでも有名で、作中の人々はゴーグルとイヤフォンでこの世界にアクセスすることになります。

Snowcrash.jpg
Far http://en.wikipedia.org/wiki/File:Snowcrash.jpg, Ligilo

そして宇川さんによれば、ここに描かれているアナーキーなバーチャル世界の姿は、過去に現実世界で起きた、ある出来事との間に強いつながりが見出せると言います。

サイケデリックカルチャーとの関係

ヒッピーイズムは1960年代にアメリカで勃興した、旧来の価値観や生活様式に対するカウンターカルチャーで、現実に対するオルタナティブとしての理想郷を築くことを夢想した運動でした。

そして、そうしたオルタナティブな世界への夢想を人々が共有して連帯するために、LSDというドラッグや自給自足の集団生活が大きな役割を果たしたということも大きな特徴です。

Lágrima Seca en Festival de Piedra Roja.jpgPaul Lowry, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ドラッグで知覚をハックしながら、人々が共同してコミュニケーションを図ることで、オルタナティブな世界のビジョンを共有する、という点が、HMDを通してバーチャル世界と接続し、そこで社会を築くというメタバースのイメージに通じる、というわけです。

ヒッピームーブメント自体はコミュニティのカルト化などによって勢いを失いますが、そのカルチャーは1980年代のイギリスで勃興したレイヴカルチャーに引き継がれ、そこではEDMに合わせて踊ることとMDMAというドラッグをを一つの求心力としてコミュニティが形成されました。

OZORA Festival.jpg

aljaz perc from slovenia, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

また、並行して起こったインターネットの発達は、サイケデリックカルチャーを育んだようなコアなコミュニティとマスコミュニケーションとの間の境界を徐々に溶かし、相対的にその影響力を強めていきます。

宇川さんの整理によれば、言葉に頼らずにイメージを共有しようとするコミュニケーションにおいては、セット(=心の状態)とセッティング(=環境)がメディアとして機能していて、時代ごとのテクノロジーの進展に呼応して、形を変えてその達成が試みられてきたというわけです。

バーチャルの可能性

講義の終盤は、いよいよ現代のバーチャル表現の可能性に迫ります。

フォートナイトでバーチャルライブが行われた事実から、デジタルとフィジカルを往復するファッションショーに至るまで、多様な実例を参照しながら、バーチャル空間に接続することで空間を超えて現在を共有する体験が実現しつつある現状と、バーチャル世界と実世界の境界が溶け合った新たなリアリティが確立する未来を展望しました。

課題発表&講評

そして、記念すべき第1回目の課題は、「音楽世界を空間で表現すること」。バーチャル空間表現の可能性を追求する、シンプルかつ奥が深いお題です。今回は宇川さんが受講生のほぼ全員(!) の作品に対して熱心な講評をくださり、受講生とのディスカッションが白熱しました。

今回の課題では、楽曲の音やタイトルを作品に組み込むことが禁止となっているため、音楽の言語で表現されたものを視覚表現に翻訳する必要があります。

受講生の作品は、歌詞に注目したものから楽曲の纏っている質感を表現したもの、楽曲の生まれた歴史的背景を踏まえたものまで様々なアプローチで作られていて、受講生の多様な個性が爆発していました。

講義から作品講評にかけて宇川さんが一貫しておっしゃっていたのは、バーチャル空間を考える上でも、それを知覚する身体は現実の物理世界に存在して、その影響を確実に受けているということ。体験設計を、身体と情報の両面から考えていく必要があると実感した講義でした。

Text:奥田 葉月 (NEWVIEW SCHOOL学生インターンシップ)

Edit:NEWVIEW SCHOOL事務局