グラフィックデザインの別の方法論『creature typeface』八木幣二郎インタビュー

本記事ではグラフィックデザイナーの八木幣二郎さんに、NEW VIEW CYPHERでの作品『creature typeface』を起点としインタビューを行いました。
その独特なグラフィックデザイン/タイポグラフィの基盤となる理念に着目していきます。

編集協力 = 布施琳太郎

creature typeface

creature typeface vol.00

八木幣二郎

八木幣二郎さん

八木幣二郎さん

1999年生まれ。都立総合芸術高校卒業後、東京藝術大学入学。
グラフィックデザインを軸にデザインが本来持っていたはずのグラフィカルな要素を未来から発掘している。
若手現代美術家の展示のポスターやビジュアルなどのグラフィックデザインをはじめ、映画ポスターやブックデザインなども手がけている。

企画展『沈黙のカテゴリー』(2021)のフライヤー photo by Naoki Takehisa

企画展『沈黙のカテゴリー』(2021年、クリエイティブセンター大阪)のフライヤー  Photo: Naoki Takehisa

『creature typeface』

シーンを起動すると、八木幣二郎さんが制作した3DCGのタイポグラフィがARで出現します。透過により環境情報を取り込んだ彫刻的な文字と、鑑賞者はさまざまな角度から戯れることができます。


又、作品中に登場するものと同じタイポグラフィがプリントされたTシャツも製作されており、背面にプリントされたQRコードから作品にアクセスできます。

デザイン史を踏まえて-タイポグラフィの在り方の検討-

-八木さんは一定のスタイルを持って3DCGのオブジェクトを用いたグラフィックを制作している点が特に印象的ですね。
そこで今回記事で取り挙げさせていただく作品にて、ARの形式をとった目論見はありますか?

八木幣二郎さん(以下八木):僕はグラフィックデザインを考える上でデザイナーがいなくなった世界に興味があります。そういった世界でグラフィックやタイポグラフィがどのように機能するのか。まず前提としてタイポグラフィの潮流の問題系があると思ってます。タイポグラフィの変遷をざっくりと辿ってみると、印刷技術の変化とともに発展していったと言えます。例えばDTP(Desktop Publishing)は、約500年以上にもわたる印刷の歴史をたった20年で塗り変えてしまった。それ以前の話で言うと、金属活字の後に写真植字が出てきて、その影響下で活動した戸田ツトムや杉浦康平などは、金属活字ではできなかった文字そのものを変形させるといった技法を雑誌の見出しなどのグラフィック的要素として好んで使っていました。しかしDTPの登場でできることが増えて、それ以降のデザイナーの仕事は完全にパソコンに移行しました。自由自在に操れるIllustratorが主体になることで、文字から物理的な縛りがなくなって、完全に滑らかな線や図形的なグラフィックを作れるようになりました。

-なるほど。

八木:こうした動向を踏まえた上で、最近は、20代後半から30代半ばのデザイナーはIllustratorで作った文字や図形をあえて手で書き直したり、Illustratorで書き文字作ったりすることが増えてきています。でも、それもまたDTPやAdobeが主流になったからこそ今では手に入れられない質感を求めているなかで起きてる潮流だと思っていて。

(参考文献 : 作字百景 http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=38729


それはAdobeのソフトウェアが支配的なまで普及している状況に対する、反発としての運動ということですか?

八木:そうですね。
やっぱりInDesignやIllustratorでは平面から抜け出せないという実感が僕にはあって、
そういうなかで3DCGソフトのZ軸の存在を考えています。

-平面のソフトのXY軸が支配的であるから、3DCGソフトのXYZ軸でグラフィックデザインをすると

八木:スマートフォンが普及してから「サンセリフ体」を使用するデザインが
増えたのも、ディスプレイに対応して視認性を高める為です。だからこそARやiGlassがメチャメチャ普及したら、タイポグラフィの形も変化すると思っています。つまり「ブレードランナー」で出てくるような、立体として複雑化した文字が出てくるだろうと思います。そういったことを考えたいと思っていて、今回自分のタイポグラフィをARにしてもらいました。

印刷をして獣から文字へ

-一方で、八木さんは3DCGのオブジェクトを作ったのちに、イメージを印刷する工程を重んじていますよね。是非印刷に関するお話を伺いたいです。

八木:印刷に関してはもう少し別尺度で考えています。
元はコンセプトアーティストと呼ばれるクリーチャーを作る人になりたいと思っていて、IllustratorなどのAdobe系のソフトウェアを使う前から3DCG用のソフトウェアを触っていました。
そうしたなかで3DCG用ソフトウェアのなかの身体性やクリーチャーに関心があり、そこからデザインの道に行ったので僕の場合は文字の成り立ちもクリーチャーに似てる、みたいな。

-以前おっしゃっていた例から挙げるなら、「『件』と言う漢字が元は『件(くだん)』という妖怪の様な架空の生物に由来している」と言った話ですね。

八木:例えばコンセプトアーティストは、3DCGで架空の生き物を作るときに「トカゲのウロコを借りよう」「ワニの骨格を使おう」みたいな考え方をします。そういうさまざまな生物のツギハギでクリーチャーが作られていること自体、漢字の偏と旁(つくり)、つまり漢字の形を作る手付きに似ていると思います。
ゴジラはまさにそういった過程を踏んでますし『シン・ゴジラ』に関しては最後に冷凍されることで文字になると思っていて。

-冷凍して定着することで、ツギハギで作られたクリーチャー(ゴジラ)が文字になると。

八木:なので印刷は、3DCGのソフトウェアで制作したオブジェクトが、紙に定着されることで文字にできないかって試みでもあるんです。


-八木さんが制作されているタイポグラフィは正に抽象度の高いクリーチャーめいたものですが、それを紙に定着するプロセスこそ文字として3DCGのイメージを文字として機能させる為の大事な行程なんですね。

そうですね(笑)

-しかしながら印刷という形式とARとの間には少し飛躍があるようにも思えます。
むしろディスプレイ上での3DCGやARで視認される3DCGのオブジェクトの物質性に関心はありますか?

八木:文字に触れることができるかもしれないのが、ARだと思います。
まず僕には「自分の作ったグラフィックに触ってみたい」という願望があります。でもそれは印刷物への触ってみたさではなくて「物体や立体として触ってみたい」という願望です。
そうした願望を叶えるための仕事の方法として、グラフィックデザイナーは本を作るのでしょうし、やはり本については自分もよく考えます。でももうちょっとグラフィック単体の側面で、わがままなパーソナルワークとして、「文字に触れること」や「デザインに触ること」をAR作品では考えてみました。

-ARの、より空間的に彫刻のような質量を詐称できる性質を用いてグラフィックやタイポグラフィに質量を与える狙いがあると。

八木:3DCGのソフトウェアでグラフィックを制作していると、マウスでくるくる回せる、立体としてのデータそのものがヤバイって思っていて。

-データが質量を保存してしまっているような?不思議さはありますね笑

八木:そうです。
本当にグラフィックに触れていられるような感覚があるように思います。

一番初めに3DCGで作ったタイポグラフィは『The Walking Eye』(2019年、横浜赤レンガ倉庫)という展覧会のためのものでした。
そのタイトルの文字のグラフィックを3DCGで作ることになったんです。
タイトルが日本語で『歩行する眼』ということで、歩行して文字が読めることから3DCGでのタイポグラフィの制作が始まりました。
やっぱりARなりVRが発達したら文字は歩いて見て回れるし、文字を3DCGのデータとして保有できることになります。
だからここでも、実際の出力のスケールにかかわらず、いつか文字を歩き回って見れるようになるだろうというコンセプトから3DCGでのグラフィックデザインを始めたんですよね。

『The walking eye』ポスター

『The walking eye』ポスター

 


-なるほど。
元はクリーチャーが作りたかった経験や興味と、デザインの知見が交差しているところが魅力的ですね。

すごい実際的な話として、『The Walking Eye』のタイポグラフィは比較的従来の文字に近い形式ですが、fox4G, YUNG HIROPONさんのEP『shape』(https://linkco.re/s5B5CzhG)のジャケットや、NEW VIEW CYPHERのAR作品は抽象度が高く、既存の文字として機能されることを意識しないよりクリーチャー的なイメージですよね。

八木:でも基本的な制作過程の流れとしては似ています。文字として見せるときはIllustratorで書体を打って、SVGで書き出したものに奥行とテクスチャを与えて制作していきます。

一方で抽象度の高い制作物は最初から3DCGのソフトウェアを使います。
自分で撮った写真から大体5個くらいのテクスチャを作って選んだり、スライダーで変化させたりしながら徐々にテクスチャを調整していきます。それによって文字のトメハネをどんどん拡張していく感じですね。

EP『shape』のジャケット

EP『shape』のジャケット


-書やドローイングの運動自体を拡張するような。

八木:ソフトウェアとしてはZBrushを使っています。そこでは粘土のようにオブジェクトを操作できるので、手首の筆致だけで作っていく感じがあって。
書も、筆致の操作でイメージを作ると思います。例えば書家の石川九楊は、モンタージュ的に筆致を使っているので、そういうところからストロークの扱い方を学んだりもします。自分が
3DCGで作るときは、書でいう紙の空間を3D空間に置き換えて、その空間の従って描いていく。テクスチャの流れを見ながらハネやトメを作って、みたいな。だから特定のこういう文字が書きたかった、とかではないですね。

ディテールで伝達する文字

-つまり、3D空間上の筆致感によって作られたオブジェクトを、人が普段利用している文字と同じような、伝達するメディウムとして制作しているんですね。

八木:文字というものが完全に無くなったり、文明が滅んだ
後のことについて考えてもいます。
そうした未来においては、文字の形態だけを見た文明人が「馬が走ってる」「風が吹いてる」などを想起すると思っていて、それを超圧縮するような感覚でタイポグラフィを作ってます。形だけで想像させる、伝達する事を考えてるんです。


-グラフィックのディテールによってイメージを喚起させることで、私達が普段扱っている文字と同じように機能する事を目指したグラフィクということですね。

八木:大事にしてることとして「バイオハザードマーク」の成り立ちがあります。そのデザインは「感染性廃棄物の表示」を、25箇所の都市の市民への綿密なリサーチを経て制作されていて、未来の文明や異なる文化圏への伝達までを考えたものなんです。
まさに文字が読める人がいなくなっても機能することを目指して設計されているんです。それはディテールで伝達するものだから、自分のデザインを考える上で指標になっていると思いますね。

-かなり抽象度の高い八木くんが制作しているタイポやグラフィックにおいて、特に共通する設計意識として納得のいく実例ですね。

デザインの潮流/デザインの消費構造

-ここまでのインタビューでも感じられることですが、八木さんのデザインの仕事には、特に最終的なアウトプットまで強く作家性が反映されているように思います。
デザインとある種の作家性という関係性は特に近年また見直されるタイミングといえるのでしょうか?

かつてJAAC(日本宣伝美術会)という横尾忠則やその周辺の人達が作った団体があって、それは今でいうJAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)みたいなものです。
そしてJAAC以降、デザイナーという職業が変化したと思うんですよね。
本来のデザイナーは絵描いて、文字も作って、ひとりのアーティストとしてビジュアルを作っていく職業だったはずが、だんだん透明なだけの存在になったというか。
ビジュアルを作ってるデザイナーの名前が出ない流れが主流化されていって、我を出すのが悪とされる空気もあったと感じます。
でも逆に最近は作家性を押し出したデザイナーもあらためて増えてきて、転換期なのかもしれないなと思ったりしますね。

-八木さんのデザインを見てアシッドグラフィクスの潮流を想起する人もいると思うのですが、

「近年は作家性を持ったデザイナーがグラフィックをインターネットにインストール(配置)し、デザイナーを求めてる人がそこにアクセスする傾向にある」

(参考文献:アイデア No.388 特集:オンライン・ポートフォリオの現在 SNSから浮かび上がる集合意識、アシッド・グラフィックス) 序文 http://www.idea-mag.com/idea_magazine/388/ 

といった話題を思い出しますね。

アシッドグラフィクスはあまりいいと思ってないんです。90年代のコンピューターグラフィクスの雰囲気を利用している気がして、イマジネーションの根源が懐かしさなんですよね。
懐かしさといった側面においては、vaporwaveのシーンと関係して出てきてるタイポグラフィやグラフィックもあると思うので。

-特徴としてやはりPhotoshopや3DCGソフトを使うといったグラフィックや質感の傾向はあるものの、やはり最近ではY2Kみたいな言葉が扱われるように、グラフィックに留まらないリバイバルカルチャーの中の動きとしても考えられますね。

八木:そうですね。
グラフィックに関しても、アシッドグラフィクスにおけるクオリティの判断でいえば、結局タギングの上手さになってしまうというか。結局平面的なところから抜け出せないような気がしてしまいますね。

-やはり話を聞いていて、デザインの現状を踏まえた問題系があるからこそ、3DCGソフトを使うことに重点があるんですね。
八木くんの作品はもちろん現代だからこそ使えるコンピューターグラフィクスを使いつつも、その技術をデザインの歴史を踏まえて導入する動機があることが、八木くんが考えている「デザインの消費構造の問題」を考えることでもあると感じました。


八木:グラフィックデザインにおいては「文字」と「テキスト」で分けて考えています。さっきの「件(くだん)」の話にも繋がるんですが、「人偏」と「牛」に分けたらテキストではなく生物が想起される。例えばフライヤーの裏面にテキストがあるとしたら、表面の文字はもっと自由でもいいんじゃないだろうかって。

-テキストは文章として読まれるものであって、文字はより空間的であってもいいんじゃないかということですよね。
3DCGのソフトは特に時間的な作品の要素として再現性を追求する機会が多いですが、モデリングの制作過程はかなり彫刻的でよすね。


八木:僕が作る3DCGのモデルは基本的にUV展開しませんし、ポリゴンもぐちゃぐちゃで法線も裏返ったりしています。だから基本的にマテリアルで質感を付けている。そのせいでモデルを回転させる程度のアニメーションしかできないので、映像的な運用はできませんが。
でも逆に動かせない、アニメーションもできないということが、『シン・ゴジラ』が冷凍されたようにCGのモデルが文字になるんじゃないかなとも思っています。

デジタルアブストラクトと呼ばれたような動向がある程度落ち着いて反省された現在、それを検討し直すタームで作るグラフィック/作品/デザインをあるべくして制作していますね。

八木:グラフィックデザインの手法に関しては、共通する意識としては海外だとチョクチョク見られますね。アシッドグラフィクスと呼ばれる潮流の周辺ではCinema 4DやHoudiniといった3Dソフトウェアで流体モチーフだったりのビジュアルを作る流れはあるし、これからはデザイン業界に関しても3DCGを使うデザイナーが多くなってくるとは思います。それは、3Dソフトウェアがここ数年で普及していったからなんですよね。でも僕にはテクノロジー万歳っていう感覚はありません。時代の中で冷静に取捨選択するのが重要だと思ってて、今使えるテクノロジーで「懐かしさ」を書き直しただけにしか過ぎないので、どう保存していくか。
Adobeが無くなったらデザイナーは全員生き絶えてしまうので、その状況はヤバイと思います(笑)

デザインを別の角度から照射する

-その手法の潮流は、制作環境自体の危険性を考え直すことでもありますね。

デザイナーがいなくなっても「デザインが存在する」状況や状態が重要だと思っています。
自分の過去のパーソナルワークとして『easy open ends』(2021, Production: Sen Takahashi)というブックデザインがあります。それは四角い缶詰の中に本と有機溶剤が封入されていて約10年かけて本が腐り続けるというものです。

『easy open ends』photo:Naoki Takehisa

『easy open ends』 Photo: Naoki Takehisa


3DCGのモデルはデータだから未来にも残る可能性があると思う一方、紙媒体の場合は、印刷されたときの印刷色とかに微妙な差がめちゃくちゃある。それに紙は劣化しますし。

でも3DCGのモデルがある限り、支持体の劣化やデザイナーの立ち位置が変化しても、グラフィックはアップデートできるというか。モデルをちょっと回転させるだけで別のイメージにできたりもします。
そういうことがやっぱり大事だと思うんですよね。
それこそ「バイオハザードマーク」の話にも通じると思うのですが、デザインしたものを何年後、何万年後の未来にどう託すか。

-本来的に現代ではデザイナーの制作物や行為は消費されるスピードが圧倒的に速いので、その時間感覚をずらす上でも3DCGを使っているんですね。

八木:そうですね。よく「アーティストみたいな役割でデザインやってるよね」と言われますが、あくまでデザイナーとしてデザインをしていることは曲げたくないと思ってます。
現状デザイナーが選べるアウトプットは限られているので、別の尺度からアウトプットの形を出すこともあっていいと考えています。

-STYLY MAGAZINEは、ある種STYLYをはじめとしたXR/3DCGを用いたコンピューターグラフィクスに関心がある人に向けたメディアとも言えます。
そんな中、八木さんの制作や理念は、コンピューターグラフィクスを扱う人が考えなければならない問題系を示唆しており、意義のあるインタビューになったと思います。本日はありがとうございました。

シーン

是非実際にシーンを起動し、作品を鑑賞してみましょう。

  • スマートフォンから体験する

    STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。

【まとめ】STYLYのシーンを体験する方法 VR・AR(Mobile) / Webブラウザ / Looking Glass 手順別紹介
【まとめ】STYLYのシーンを体験する方法 VR・AR(Mobile) / Webブラウザ / Looking Glass 手順別紹介
 
 

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