ファッション/カルチャー/アート分野のVRコンテンツを募るグローバルアワード「NEWVIEW AWARDS 2018」には、7ヶ国から219作品ものVRコンテンツが集まり、各アーティストの肩書も映像作家から写真家、絵本作家、ミュージシャンなど多彩だ。
どのアーティストも独特な世界観を表現していたが、特に異質だったのはニューヨーク出身で日本在住の3DCGアーティスト マッジオ デイブ氏が手掛けたVRコンテンツ「サラリーランド」。酔っ払い、缶ビール、スナックなどThe サラリーマンと感じる様々な3DCGが空間を彩っている。
海外の方からすると、やはり日本のサラリーマン文化は不思議に感じるのだろうか?
本インタビューでは、「サラリーランド」制作者であるマッジオ デイブ氏に本作品に関して伺ってきた。
プロフィール
マッジオ デイブ( Instagram @davemaggio )
3DCGアーティスト|日本
ホームページ:https://davemaggio.com/
作品名:サラリーランド
ニューヨーク出身、東京在住の3DCGアーティスト。ゲーム業界の経験を活かして、3DCGの次のフロンティアへ向かっています。2018年4月グループ展「Nightwork」を開催しました。
— NEWVIEWを知ったキッカケを教えてください。
マッジオ デイブ: インスタグラムで知りました!今年2月頃私がフォローしているアーティスト(でんすけ28号さんと伊波英里さん)がNEWVIEWのトークイベントついて投稿していて、面白そうだなと思い、見に行きました。
あの時は知らなかったけど、それがNEWVIEW初のミートアップでした。本当に偶然でした!
— そうだったんですね!たまたま参加したミートアップからなぜ、今回NEWVIEW AWARDS 2018へ応募しようと思ったのでしょうか?
マッジオ デイブ: 私は新しい事に挑戦するのが好きです!
3Dアーティストとしてゲーム系や映像系のプロジェクトを手掛けた事はありましたが、VRの機材は高いし、触る機会が今まであまりありませんでした。また、プログラムができなかったのでVR空間を作りたくても一人で作ることができなかったのですが、STYLYは無料且つプログラムも不要なので、もうやるしかない!と思いました。
初VR作品だからノウハウはあまりないけど、とりあえず面白いチャレンジができそうだと思いました!
SALARYLAND from STYLY on Vimeo.
— STYLYはどのようなキッカケで知りましたか?
マッジオ デイブ: NEWVIEWのイベントで初めて知りました。VRについて全然詳しくないし、そのイベントでOculus RiftとHTC Vive以外にもヘッドマウントディスプレイはたくさん種類があるのだと知りました。
Web用に作った3DモデルをVRに最適化
— 今回、制作された「サラリーランド」はどのようなコンセプトで作られましたか?
マッジオ デイブ: 元々は今年4月、個人的な展示会のためにサラリーマンがテーマの作品を制作しました。
NEWVIEW AWARDSの事を知った時、「やっぱりサラリーマンのVRを作ったら面白いな」と思い、異世界っぽい背景とシュールなキャラクターを配置し、これぞサラリーマン!と思えるような世界を表現しました。
VRと言えばやはりファンタジーかSF系が多いと思うので、日常的な世界観で且つVRというメディアでしかできない表現をしようと考えていたため、その辺は常に意識しながら制作していました。
また、一応他人のベッドルームに侵入しているというコンセプトなので、ちょっとした違和感や勝手に見ちゃダメ感を出せるよう工夫しました。始めて体験した方は「なにこれ?!」と感じるかもしれませんが、その第一印象を狙っています。
— 本作品の制作手順と制作期間をお教えください。
マッジオ デイブ: サラリーマンを使いたいという事しかあまり方向性が決まってなかったので、まずはキャラクターを制作しました。
4月の展示会で制作した3Dモデルが既にありましたが、VRに合わせて諸々調整をしたかったのでまずは、スケッチブックでラフ案を描きました。その段階は多分一日ぐらい掛かりました。既存のモデルから始めたので、キャラクターの3D作業は2~3日間程度で完成しました。
サラリーマンの調整が終わってからSTYLYを開いてみてキャラクターモデルとその他のアセットを配置していきました。色々なアイデアをためしたかったので、この段階でだいたい2週間ぐらい作業しました。
実は最初、大きい街を作るつもりだったのですが、あっという間に締め切りが近づいてきて、私の夢は徐々に小さいものまとまっていきました。
ただ、逆にその時間制限があったからこそ、やれる範囲でよりクリエイティブな作品を作ろうと思い、結果的には一つの部屋になってしまいましたが、むしろ部屋の狭さを感じることが面白い、そう思える作品に仕上がりました。
— キャラクター以外の3Dモデルもご自身で制作されたのでしょうか?
マッジオ デイブ: はい、モデルは全部自分で作りました。無料素材のライブラリーはリソースとして凄くいいと思いますが、特別な雰囲気を醸し出したかったので、モデルとモデルの統一感は必要だなと思い、全て自分で制作しました。
今回、3D制作では一番得意なMayaを使いました。( 今後は、完全無料のBlenderを勉強したいと思っています!)
テクスチャーはPhotoshopで描き、アニメーションはMixamoというモーションキャプチャーライブラリーからダウンロードしました。
「サラリーランド」は、主にWEB上で展示する作品だったので、データをできるだけ軽くするため、部屋で使ったモデルをまとめて1枚のテクスチャーで描きました。
サラリーマンのキャラクターだけは、本作の主人公という位置付けですので、テクスチャーを別にして、家具や部屋より高解像度で描きました。
もちろん、他のモデルの解像度も気を付けました。ローポリで作った訳ではないですが、重くならないように強調したかった所はポリゴン数を増やして、見る人があまり気づかないところはポリゴン数を減らす、というような形でポリゴン数を意識しながら作りました。
サイズ・レイアウト・ライティングで異空間感を
— ありがとうございます。本作品を制作する際に最もこだわったポイントを教えてください。
マッジオ デイブ: VRの長所は没入感だと思っているので、その「異空間にいる」感を強調したかったです。VRではスケール感をよく感じられるのでモデルのサイズとレイアウトの調整に、かなり時間を使いました。
全体的な色合いも悩みました。「サラリーランド」を制作した時、私のパソコンが古くてSTYLYのUnityプラグインが上手く動かなかったので、作業はほとんどSTYLY上で行ったのですが、あまりライトの調整が出来なかったため、結局ライティングをテクスチャーで書き込みました。あのサラリーマンは酔っぱらっているので、ちょっと気持ち悪い色にしたかったこともあり、部屋を紫っぽくし、合わせて彼の肌や目も合わせて不自然な色にしました。
— 最後に今後の展開をお教えください。
マッジオ デイブ: 最近新しいパソコンを購入したので、これからは今まで使えなかったソフトや技術を調べながら、どんどん新しい作品を出したいです。またSTYLYを使うなら今度Unityのプラグインをちゃんと利用してみたいと思います。
ちなみに、3DCGのメリットは一回モデルを作ったら、永遠に使えるという点なので、あのサラリーマンは別のプロジェクトでまた出勤するかもしれないです。とりあえず、アーティストとしてワンパターンになりたくないので、次はもっとインタラクティブな作品制作に挑戦します!
ひときわ異色を放っていたVR空間「サラリーランド」。元々、ウェブ用に制作されていた3DモデルをVR向けに最適化し、新たな表現として再構築された作品だった。
NEWVIEW AWARDSには、実はこのような手法で制作されたVRコンテンツの応募が多かった。
既に2Dで実現していた世界観とデータを活かし、3次元空間として再構築する。 VRと言えばゼロから3Dモデルを作るなど制作ハードルが高いイメージがあるが、実際には今あるデータを組み合わせるだけで、新たな表現として生まれ変わることが可能なメディアなのだ。
ぜひ、本事例を元により多くのアーティストの皆さんにVRへ入って来ていただき、今はないVR空間のデザインへチャンレンジして欲しいと思っている。