この記事では、アーティストの藤倉麻子さんにより制作されたAR作品「休暇スクワット個体」をご紹介します。作品の鑑賞方法については、記事の最後に記載しています。
都市に埋没した空き地
「休暇スクワット個体」は、NEWVIEWが主催する「同時代のリアルな感覚を共有できるアーティストとともに創造する新たなカルチャー体、FEATURING」でアーティストの藤倉麻子さんにより制作されたAR作品です。
タイトルの「休暇スクワット個体」には、都市に無数に存在し、また日々発生しては消滅する存在である「空き地」にARをかざして、気まぐれにスクワットする個体(オブジェクト)を出現させる、という意味が込められているそうです。
本人のコメントより:
空き地に出現する個体。土地の裏で起きている出来事。 街に空き地がある。売り地、建設予定地、ただずっと空いていてむき出しの土台と雑草だけがある土地。あなたは好きな土地に空間を占拠する個体を呼び出すチケットを持っています。見つけた空き地の真ん前に立ってAR個体を出してください。空き地は明確に「空いている」期間が宣言されたりされなかったりしながら、そこを所有し目的地としない者にとって都市に埋没した存在である。堅固な建物と建物の間にただ空いている空間には、通常私達が認識しない層が存在し、事が起こっているかもしれない。人間中心の時間、空間認識から解放された空間の広がりへコンタクトする。細かく区分された都市に生活する人間。建物や空き地にも所有者がいて、人間の身体は立ち入ることができないが、仮想空間はまだ誰の物でもない。
(NEWVIEW公式ページより)
(NEWVIEW公式ページより)
空き地に出現する標識、看板、遊具、フィットネス器具
このAR作品は、「空き地、売地、建設予定地の前で使用してください」というアナウンスから始まります。
空き地を求めて街を歩き回ると、思わぬところに出没する工事現場や草の茂った空き地。いつもなら無意識に通り過ぎていた道の傍らや、騒音だけがどこからか聞こえていた場所など、都市に埋没した空白は至る所に存在しています。
この作品は、空き地を探すというプロセスを通して、普段意識しない都市空間の一角と私たちを密かな対話へと導いてくれるでしょう。
ちょうどいい空き地を見つけたら、地面にARをかざしましょう。画面に「OBJECT」という文字が出るので、カーソルをつまんでドラッグし、土地の大きさに合わせてサイズ、位置、向きを調整します。大きさが定まったら「BUTTON」ボタンを押してオブジェクトを出現させます。
まず最初に現れたのは、文字が書かれた標識、看板とベンチ。「600年後の土壁プール」「通路リムーバー」「土壁」「にぎる鉄」「販売機タンク」等が書かれた電光看板が輝いています。詩的な言葉の組み合わせは、閑散とした空き地に全く別の情景を生み出します。
出現するオブジェクトは、土地の広さによって変わります。先ほどの看板よりも大きな場所では、タンクの自動販売機が現れました。数個のタンクが前後にゆっくりと揺れています。後方に書かれている「遊具」という言葉をそのまま受け取るなら、この販売機は鉄棒として逆上がりすることができるかもしれません。もしくはリンボーダンスのように、下から潜るのも面白そうですね。
さらに土地の大きさを大きく設定すると、さまざまな標識が現れました。現実に存在する標識とARで出現する標識が混ざり合って、どれが現実の標識でどれが3Dなのかわからなくなります。ただし、ARで出現した標識たちは支柱を奇妙に動かしているので、それがバーチャル上のオブジェクトであることにすぐ気付くでしょう。
その他の大きさのオブジェクトはこちらの動画からご覧いただけます。
アーティスト紹介
藤倉麻子
アーティスト |日本現代都市の基盤や工業製品が自律を獲得し、物が物として立ち現れる現場を表現する。都市に潜在する原始的な感性を呼び起こすリアリティに注目した映像作品やインスタレーションを展開。国内外で作品を発表している。
https://linktr.ee/asakofujikura
(NEWVIEW公式ページより)
仮想空間を占拠するのは
パリの伝説のアトリエ「59 RIVOLI」をご存じでしょうか。1990年代の後半ごろ、パリの中心地にありながらも長い間空き家になっていたビルをアーティスト集団が不法占拠したことから始まったアトリエです。今もなお多くのアーティストがこのアトリエに憧れて世界中から集まり、創作活動の傍らで展示会やパーティー、パフォーマンス等のイベントを定期的に行なっています。
都市の中で偶発的に生まれた隙間にアートが介入するという現象は、このように今までも発生していました。所有者はいるけれども、誰も使っていない不思議な空間。ひっきりなしに人が集まる都市の中に潜むその異質な雰囲気には、アーティストの創造力を掻き立てる何かがあるのでしょう。
今回ご紹介した「休暇スクワット個体」は、パリのアトリエ59 RIVOLIとはまた違った視点から、都市に埋もれた余白を占拠しようと試みています。
物理的なアプローチに代わり、デジタルを使用した仮想空間からの新たなアプローチ。複製可能で、無限に広げることのできるこの仮想空間は一体誰のものでしょうか。そして、これから先の未来で仮想空間はどのように現実と契約を交わしていくのでしょうか。
現実に仮想が混ざり始めて間もないこの時代。まだ整備されていない、いわばモラトリアムな仮想空間の時期は今だけなのかもしれません。そこに生じる緩やかな隙間は、芸術的自由が介入することになんの抵抗もありません。もしかすると将来「ああ、あの頃の仮想は自由だったなあ」と今の時代を懐かしむ日が来るのではないでしょうか。
何の制限もなく伸び伸びと空き地で気まぐれにスクワットするオブジェクトをぜひ体験してみてください。
ARシーン体験方法
スマートフォンからアクセスしてる方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。
クリック後、以下の画面が表示されます。
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シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。
Edited by SASAnishiki