今回はARアート作品「Space Ship」を紹介します。
この作品は美術家・彫刻家である「平田尚也」さんが制作した作品となります。
平田尚也さんはSpace Shipを元々、写真作品として発表していました。それを経て、ARとして3次元のメディアによって新たに再構築され、新しいイメージを表出させています。
ARのメディア性に着目しながら、作品を解説します。
平田尚也さんについて
平田尚也さんは東京の美術家・彫刻家です。3DCGを使用し、仮想空間上に作品を制作します。
平田は1991年長野県生まれ。2014年武蔵野美術大学彫刻学科卒業。在学時より、インターネット上で無限に収集することができるフリーの3Dデータや画像データなどを素材に作品を制作し始めた。
重力などの数値を自身で定義したコンピュータの仮想空間内で、収集したデータをもとに作品を制作。平田はそれらを「仮想空間内の彫刻」ととらえている。
(「仮想空間の中の彫刻たち。平田尚也がガーディアン・ガーデンで見せる「不完全な監獄」とは」 美術手帖, 2018.12.25 より引用
https://bijutsutecho.com/magazine/news/promotion/18956 )
インターネット上に散らばる3Dモデルデータ、画像データなどの、いわゆる「素材」を収集し、アッサンブラージュの手法によって制作します。
フォトリアルにレンダリングされた3DCGの写真作品は本物かと見違えてしまうほどです。
過去には、第18回グラフィック「1_WALL」のグランプリを受賞し、2019年に東京・銀座のガーディアン・ガーデンにて個展「不完全な監獄」を開催しました。
普段はプリレンダリングした3DCGの写真作品がメインな平田さんですが、Space ShipはリアルタイムレンダリングのAR作品として公開しました。
Space Shipについて
この作品のシーンを立ち上げると、その名の通り「宇宙船」のようなオブジェクトが鎮座し、背景にはさまざまな画像や動画が再生されています。
宇宙船をよく観察すると、それは宇宙船ではなく、さまざまな3DCGのオブジェクトによって構成されたものだとわかります。
ジュークボックス、テニスラケット、ドラムセット、シャンデリア、靴…。平田さんが収集してきた、さまざまな3Dモデルによって構築されています。
カオスな彫刻でありながら、シンメトリーに配置されたオブジェクトや、白を基調としたカラーリングが作品としての美術性を高め、一つのアートとして確立しています。
ARとして現実に“存在させる”
この作品はもともと、プリレンダリングされた写真作品として発表された作品でした。
しかし、STYLYのARはプリレンダリングではなく、リアルタイムレンダリングによって現実に配置することになります。
そこで多くの人が上記の写真作品と比べたときに「あれ?思ったよりリアルな質感になってない」と思うのではないでしょうか。
リアルタイムレンダリングはその質感/ライティングが、プリレンダリングと比べて劣ってしまっています。これは作者の技術の高さではなく、レンダリングのシステムの違いによって生じてしまう差です。
リアルタイムレンダリングの質を少しでも向上させて現実の質感に近づけようとする、それが通常の考え方だと思います。しかし自分は、平田さんが制作してきた作品や彫刻に向き合う姿勢を踏まえると、この「質感が劣ってしまっている状況」が一つの鑑賞ポイントだと考えられます。その点について触れて解説します。
平田さんは「仮想空間」上で彫刻を制作します。では、この仮想空間とはどこを指すのでしょうか。
自分が考えるに、制作する3DCGのソフトウェア、もっと詳細に述べると「平田さんが所有しているPCの3DCGソフトウェア」と仮定します。
平田さんが制作する3DCGソフトウェアという仮想空間上に配置され、そこで撮影された写真作品が平田さんが発表してきた作品となります。
ARを使って現実に配置することは、ある意味「その仮想空間から逸脱させ、別の空間に“存在させようとする”行為」になるのではないのでしょうか。
つまり、ARというメディアを使って鑑賞する行動は、本来あるべき場所(仮想空間)から無理やり別の空間、つまり「拡張現実」に配置させる行為になるのでは、と読み解きました。
平田さんはPCについて過去にこのように言及しました。
俺の作品を一番よく理解し、正しく鑑賞できてるのはPCだと思ってる
— 平田尚也 Naoya Hirata (@_naoya___H__) October 10, 2020
平田さんの作品はレンダリングによって形・色・物理表現が形成され、表出します。
つまり平田さんのPCから抜け出し、拡張現実空間に「存在させる」ことは、「正しく鑑賞されていない」という状況になるのでしょうか。
3DCGを構築している要素を分解していくことで、果たして作品とはどこに「存在している」のかが曖昧になっているように感じます。
メディア・テクノロジーが進化していくことで、作品の所在や存在について、平田さんの作品は問いかけてくるようです。
この作品は、3DCGによって構築されているだけではなく、メディアによってその鑑賞方法や存在を問いかけてくる彫刻作品です。
それは現実の物質では表現できない、一つのメディア・アートでもあるのではないのでしょうか。
シーン
今回はメディアの比較から作品を鑑賞し、解説しました。
しかし、平田さん自身の作品はそれだけではありません。作品を構築する3DCGがどのような意味を持つのか、壁面の画像や映像がもつ意味は、そしてこの作品がなぜ「Space Ship」なのか。さまざまな観点から作品を鑑賞し、自分なりの鑑賞ポイントを見つけてみましょう。
- スマートフォンから体験する STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。
作品のダウンロードが完了したら、以下の画像をクリックし、シーンにアクセスします。シーンページのQRコードを読み取ると、作品が鑑賞できます。
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