この記事ではNEWVIEW CYPHER 2020 #Graphic 部門でベストプレイヤー賞を受賞した作品「maintenance」についてレビューします。
作者のAsada Yuzukiさんは3DCGを中心にVR/ARの作品や、メディア・アートを制作しています。
「maintenance」について、Yuzukiさんの過去の作品を参考にしながら読み取ります。
Asada Yuzukiさんについて
Asadaさんは3DCGを使用して、アバター・ファッションを具象とした作品を発表してきました。
#MarvelousDesigner pic.twitter.com/5ntHvQ1h6T
— yuzuki (@uixilo) June 8, 2020
Marvelous Designerを使用したバーチャルファッションの探求をはじめとし、アバター(身体)と衣服(メディア)の関係について表現しています。
オンライン授業楽しい pic.twitter.com/gJhZOjuto4
— yuzuki (@uixilo) June 4, 2020
今回のmaintenanceを読み取るうえでも、アバターと衣服はキーワードとなってきます。
Asadaさんは主に3DCGでモデリングやデザインしたアバター・衣服を取り扱いますが、過去にはPhotogrammetryを使用し、リアルの人間・衣服を3DCGに落とし込み、作品を制作しました。
— yuzuki (@uixilo) November 30, 2020
デザイン性のクオリティを保ちながら、美術としての性質を持ち合わせた素晴らしい作品です。
過去の制作などをもとに、Asadaさんが考えるアバター・衣服について考えながら、その延長線上に存在するVR作品「maintenance」について読み取ります。
maintenanceについて
シーンが始まると、白ホリのスタジオのような壁と、壁にむかって回り続ける人のオブジェクト、そして「maintenance」の文字が表示されています。
常に回転し続けるそのオブジェクトは重力の影響を受けながら、不規則に動き続けます。その動きは異質性を帯び、私たちに不思議な印象を与えます。
重力の動きによって異質性を帯びた人のオブジェクト群は、人の形を保持しながら、人の性質をもたない、別のオブジェクトへと変容させています。
その変容したオブジェクトの性質と、そのバックグラウンドを読み取ることで、このシーンを楽しめるでしょう。
この作品を作者は以下のように説明しています。
VRとリアルの境界線は、非常に曖昧である 自信の身体性を物差しとして扱い、そこに境界線を引くことを試みた 複製・固定化された「まとう」イメージを渦によってなめらかにお手入れする そしてまた複製は繰り返される The Border between Virtual Reality and real world is hard to see clearly. But my physicality is clearly different between there. So, I have drawn a boundary has using my physicality. That image, replicated and fixed, will be smoothed out by the swirl. And it will continue to be replicated again, by someone else.
この作品における身体性は、作品の中の人間のオブジェクトです。文を参照すれば、このオブジェクトはAsada Yuzukiさん自身であると考えられます。
その身体性をもって、VRとリアルの境界線を引く、という行為はこのYuzukiさん自身のオブジェクトを手入れ(maintenance)することに宿っているでしょう。
そもそも、このmaintenanceとはどういった行為と考えられるだろうか。
AsadaさんはInstagramでmaintenanceという言葉と共に、「洗濯機」の動画を公開しています。
この投稿をInstagramで見る
つまり、maintenanceとは、洗濯のように、衣服を手入れする行為なのではないでしょうか。
このVRにおける衣服にあたるものは、Yuzukiさんのオブジェクトになります。このオブジェクトは、人間でありながら、「衣服」の性質を帯びた存在ではないでしょうか。
また、過去にYuzukiさんはアバターと衣服の関係性について以下のように述べました。
— yuzuki (@uixilo) September 21, 2020
つまり、VRにおけるアバターは身体であると同時に、衣服であるとしています。
これはVR空間における特殊性であり、同時に、衣服のメディア性を拡張している考え方ではないでしょうか。
この作品におけるYuzukiさんのオブジェクトは、Yuzukiさん自身であり、アバターであり、衣服です。そのオブジェクトを手入れする行為によって、Yuzukiさんという現実の身体性を使った、バーチャルの存在を明確化していると読み取りました。
VRにおいて、自分という存在を複製したアバターは、自分でありながら、身に纏う概念へと昇華される、そのようなメッセージがこの作品には埋め込まれているのではないでしょうか。
この作品を鑑賞しているとき、現実の私たちの身体も、もしかしたら身に纏う概念なのでは?と、私は考えました。
整形や、メイク、服の選択など、身体と衣服を取り巻く一つ一つの行為は、自分自身の拡張であり、ファッションや身体のメディア性であると考えられます。
外側を観察することによって、私たちの内側はどこにあるのか、そもそも何なのか、そのことについての考えを突き付けられてきます。
リアルの私たち、VRの私たちを比較することで、新しい「私たち」を観測するのではないでしょうか。
シーン
アバターと衣服の観点から、VRとリアルの存在について問いかけ、その問いかけを読み取る行為がこの作品の鑑賞の深度を高めたと私は感じました。
上記以外観点のみならず、じっくりと鑑賞することで、新しい発見があるかもしれません。
- スマートフォンから体験する STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。
作品のダウンロードが完了したら、以下の画像をクリックし、シーンにアクセスします。シーンページのQRコードを読み取ると、作品が鑑賞できます。