この記事では、台湾のアーティスト「WON HOI IAN (GLORIAWONG)」さんのVR作品「The 23-year-old confession」を紹介します。
The 23-year-old confessionはNEWVIEW AWARDS 2019のファイナリスト作品に残りました。
セクシャルについて取り扱った内容となり、その表象をカオティック・サイケデリックな具象としてVR作品に昇華し、一度体験したら、とても印象強く残る作品です。
アーティストのWONさんを紹介しながら、この作品について読み解いていきたいと思います。
WON HOI IAN (GLORIAWONG)さんについて
WONさんは台湾を拠点に3DCGを中心としたグラフィック・ビデオ作品から、彫刻アプローチの作品を制作するアーティストです。
人間の身体を「メディア」としてとらえ、そこから表象される「セクシャル」や「感性」を、アートとして昇華します。
3DCGのオブジェクトによる具象でありながら、どこか艶やかさや不気味さを感じる造形となっています。
3DCGのみならず、フォトグラフィーの作品も身体や人間を取り扱った作品が多いです。
フォトグラフィーではアパレル・ファッションブランドへの作品提供が多数です。
衣服を身に纏う行為は、身体の拡張であり身体表現の延長に位置します。
アートディレクションを通して、ファッション、身体、そして人間の根源的な表現領域にアプローチしていると、作品から感じられます。
WONさんの表現領域である3DCG・グラフィックを利用し、STYLYで制作したVR作品が「The 23-year-old confession」となります。
VRを通して表現されるWONさんのアート/クリエイションについて読み解いていきます。
“The 23-year-old confession”について
この作品がはじまると、プレイヤーはカオティックな映像とオブジェクトが配置された空間に立たされます。
何かを気にしているかのようにキョロキョロ周りを見渡す目の映像。気が狂ったように舌を出したり、大声を叫んでそうな人の映像。
中央上部には裸の人。
我々を置いてけぼりにするかのように、空間には大量の情報にあふれ、理解を放棄させているかのように我々の前に佇んでいます。
空間を直進すると、サーモグラフィーのカラーリングの人の顔をテクスチャにした、トンネルのような場所に入ります。
トンネルには、男性と女性の性行為のような3DCGが配置されています。
3DCGだけでなく、2Dのグラフィックスも配置されています。
一番最後には、入り口にもいた裸の人のグラフィックが配置されています。この人にはパートナーがいません。
そして、よくみると、この人の身体は少し不自然です。
体つきや骨格は男性のようですが、男性器は備えていません。果たして男性なのでしょうか?女性なのでしょうか?
そして、いったいこの人は誰なんでしょうか。
トンネルを抜けると、やはり外も私たちの理解を超えた空間になっています。
激しく動く飛行機、赤色の海の映像、口を開けた不気味な顔の女性。
全体を通してセクシャリティをテーマにしたオブジェクトをカオティックに配置し、不気味さとサイケデリックが前面に出ながらも、とても繊細な作品になっていると感じました。
作者はこの作品について以下のように説明しています。
「この作品が表現するのは、製作者の性に関する混乱とも言えるイマジネーションです。
それは、セックスに関心がありながら、向き合うのが怖いという矛盾した心であったり、あるいは他の人とデートした後の衝撃と刺激です。
製作者が考えるVRとは、自分自身の永遠を創造するものであり、一定期間の記憶や、特定の瞬間の空間を記録したVRを通して、鑑賞者が過去の時間に戻り、その記憶を思い出すことができるものです。
また、製作者は、観客が(製作者が伝統的な家庭で生まれたため感じている)好奇心や性に関する恐怖といった、心理的感情も共に感じられることを目指しています。この作品を通して、初めて性に直面した記憶、心の混乱と不安を思い出してください。
作品の終わりでは最も単純なシーンに戻りますが、これはこの混沌としたイマジネーションの中における休息のようなものです。」
(NEWVIEW AWARDS 2019 公式ページより引用:https://newview.design/works/the-23-year-old-confession/)
この作品はタイトルにもある通り、作者のWONさんが23歳の時にセクシャルを通して、他者との向き合ったときに感じた困惑をVRを通して追体験する作品となります。
私たちが感じた不気味さや怖さといったマイナスな感情は、そのままWONさんの作品ではないでしょうか。
同時に、不気味さや怖さだけではなく、興味や好奇心といったプラスの表現も描かれているとも読めます。
それはVRのメディア性とも関連付けられます。
もしこの作品が不気味さや恐怖だけであれば、それは受動的で、迫りくるものであると考えられます。
VR空間に入ったとき、その恐怖は迫ってくることで私たちは動くことができず、その場に立ちつくされるような体験になると考えます。ホラー映画はその類でしょう。
しかし、この作品は入口と出口があり、その間にトンネルが用意され、私たちは身体的・能動的に移動することで空間的に作品を体験することになります。作品を鑑賞するには、自分から作品へ没入しなくては鑑賞ができません。
つまり、VRの能動的に鑑賞する行為は「興味」や「好奇心」を表象する行為なのでは、とメディア性を読み取ることができます。
私たちに恐怖を突き付けるのではなく、その先にある興味や好奇心を身体性をもって体験させる作品でしょう。
WONさんが描くアートは、身体をメディアとして私たちの心の部分を表象させる作品が多く存在します。
VRを通して、その心の部分を受動的ではなく能動的に追体験させる構造が、この作品に描かれていると読み取ることができました。
その身体性とセクシャルに関して強く印象に残ったのは出口の部分です。
出口にあたる部分には女性の3DCGが配置され、ちょうど女性器と同じ部分に出口が用意されています。
そして、それに向かって激しく動く飛行機は男性器を見立てているのではないでしょうか。
私たちは出口から外へ出たときに、その巨大な飛行機の動きと違和感に少しおののいてしまうのではないでしょうか。これは空間的を進む(好奇心・興味)といったプラスの感覚に対して、マイナスの感覚を表現しています。
VRの身体性と体験を通して、好奇心・興味といったプラスの感覚と、恐怖や不気味さといったマイナスの感覚を同時に生成しています。
その体験を総合して、「WONさんのセクシャルの追体験と感覚」と読み取ることができます。
シーン
VRのメディア・アプローチでこの作品を鑑賞しました。しかし、この作品にはさまざまな記号が散りばめられています。
どのようにその表現を読み解いていくか、何度も鑑賞することで作品の深度が増していくでしょう。
是非体験してみてください。
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