《TRIGGER POINT》というVR作品を紹介します。
TRRIGER POINTは日本語で「つぼ」を表す英語です。
感染症拡大状況下の身体とメディア、そしてそこから生まれる集合的無意識について、妖精として具体物に漂着させた空間を展開する作品です。
クロアチアのメディアアーティスト、Pirate Sheep氏によって制作されました。
「ツボを押すこと」から「身体の中での小さな生死」や「死生観すら変えていく今日のメディアの状況」へと続く「快楽が生まれ、身体の調子が変わること」といったイメージを《TRIGGER POINT》はキャラクター化し、空間に広げます。
作者による作品の説明
Trigger Point(つぼ)は、これまで取り上げられなかったマッサージニーズの集合的無意識に着想を得た歪んだスタジオ空間です。
マッサージの妖精が集まる技術の練習場所です。〈伝承〉
最初の身体的不調の暗示があり、ニーズが生まれました。
このニーズは取り上げられたことがなかったのです。
ニーズはとても説得力があるようになり、マッサージの妖精という姿で、この問題を解決するようになりました。
マッサージの妖精の数は増えました。
この埋め込まれた探求の中で妖精たちはさらに生まれ、お互いからさらに学びました。
さまざまなアート形式が、やがてトリガーポイント治療に発展しました。
Pirate Sheep
multimedia artist |Croatiaクロアチア在住のマルチメディアアーティスト。
最新作は、デジタル化された自然治癒と治療ベースのアーキタイプという世界滅亡後のビジョンの着想を得ている。
複数の感覚機能を同時に使ったアートの新しい形式に焦点を当てた VR studio PatchXRのテクニカルアーティストとしても働く。
ARデジタルファッションへの道を開いたYCYにも所属。
デジタル作品は、SuperRareおよびMakersPlaceでキュレートされた複数のデジタル展示会に出品。
以前には、SonicActs (アムステルダム、2020年)とExtravagant Body、Extravagant Love フェスティバル (ザグレブ、2019年)でパフォーマンスを行う。
アニメーションは、Animafest、 Superchief Gallery、Gossamer Fog Galleryにも出品。
ショートフィルム「Trigger Point INKlings」は、2020年末にFACTMAGでプレミア上映。
メディアによって変化する身体感覚と集合的無意識
作者の記述では、以下の要素が作品を構成しています。
- 身体の不調に対しての集合的無意識のイメージ
- マッサージのニーズが妖精の形でバーチャルなイメージとして具現化すること
この2点について、メディアによって変化してきた身体感覚の議論をもとにこの記事では考察をしていきます。
メッセージとマッサージ
マッサージと聞いてメディア論のなかで最初に思い出されるのは、マーシャル・マクルーハンによる「メディアはマッサージである」という言葉ではないでしょうか。
メディアの多様化それ自体が、コンテンツやそこに含まれる物語や文脈以上に人々の知覚を拡張、変容をもたらす状況を、マクルーハンは「メディアはメッセージである / メディアはマッサージである」という言葉で表しました。
マクルーハンは以下のように著書を発表し、そのメディア論を展開してきました。
1951年『The Mechanical Bride: Folklore of Industrial Man (邦題:機械の花嫁)』
1962年『The Gutenberg Galaxy: the Making of Typographic Man (邦題:グーテンベルクの銀河系)』
1964年『Understanding Media: the Extensions of Man(邦題:メディア論−人間拡張の諸相)』
機械の花嫁では、未来の人類や社会に対し、メディアやロボットの発展を予見的に論じながら、市場とテクノロジーによって拡張するセックス・ジェンダーと、それにまつわる死生観をSF的に論じました。
グーテンベルクの銀河系では、人類の音声コミュニケーションが文字と記号に移行していく過程をなぞりながら、反復可能な情報により身体の技術的延長が起き、時間感覚が映画的、連鎖的、絵画的になった様を、人々は「夢遊病に陥った」と表現します。
こうして内的なイメージの宇宙が広がった人々が住む場所を、「グーテンベルクの銀河系」と記しました。
固定された視点とそのパラダイムは終わり、メディアの再編成へとつながっていくと示しています。
そして、メディア論において、インターネットが広がった未来を「グローバル・ビレッジ」と名付けながら、「メディアはメッセージである」「ホットメディアとクールメディア」「利用者がコンテンツになる」「大きな発見は大衆の不信感に守られる」「個々のテクノロジーによって変化するのは額縁の中の絵の方ではなく、額縁の方だった」など、予見的で象徴的な言葉を残します。
この〈グローバル・ビレッジ〉という概念は、現在話題になっている「メタバース」や「Web3.0」といったビジョンの予見であったとも言えるでしょう。
そして、1967年にグラフィックデザイナーのクエンティン フィオーレと共に『he Medium is the Massage: An Inventory of Effects (邦題:メディアはマッサージである)』を発表しました。
「メディアはマッサージである」は、これまで彼が論じてきたメディア論を、イメージと詩的なテキストにおいてコラージュし、ビジュアルブックのような形でまとめた本です。
この詩文とビジュアルによって、メディアが人々に起こすマッサージを本という媒体で直接表現しようとした試みでした。
2021年におけるマッサージの具現化
では、こうした議論を経て現在、メディアを取り巻く状況と、メディアが行う「マッサージ」を再度具体的なイメージに落とし込んだ作品《TRRIGER POINT》はどのようなものになっているでしょうか。
感染症拡大状況下において、私たちの身体感覚は、よりメディア・テクノロジーに影響を受け、拡張の方向性を決定づけられたり、逆に不調をきたしながらなんとか生活を保とうともがいてています。
作者は、こうした状況で生まれるニーズが具現化し、「治療=マッサージ」に発展したスタジオを表したものが《TRIGGER POINT》だと述べます。
そうしたマッサージへの集合的無意識に対しさまざまなアート形式が妖精になり、人々を癒やすのがこの作品です。
この作品中には、サイクロプス(単眼)の妖精、蛾の羽を持った筋肉のような妖精、たくさんの指が集まったマグマの妖精、ビーっと泣き叫ぶモコモコした球体の妖精などが登場し、鑑賞者をもてなします。
手前の地面には、マッサージのツボ押しを暗喩するような模様と、空間や妖精を反射する鏡のような床が続き、奥方向にいくにつれて床は幾何学的な帯に変化していきます。
これは、マッサージの指圧のリズムを象徴しているようにも見えます。
VR空間に入って左上のモニターでは、人間のトルソ(胴体)がスキャンされていき、筋肉の妖精が死体をマッサージする映像が流れます。
VRでの体験はこちらから
こちらから《TRIGGER POINT》を体験することができます。
スマートフォンからアクセスしてる方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。
クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。
そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。
HMDデバイスをお持ちの方は、PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。
PC(Webブラウザ)からアクセスしてる方は、「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのMobileアイコンを選択し、QRコードを読み取るとシーンを体験できます。
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シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。
ARシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。