迷わないVR空間の作り方 第1回「良いVR空間は、迷わずに最後まで見てもらえるもの」

VR空間は、ユーザーがプラットフォームで出来るアクションを無視すると迷ってしまう。

現在STYLYでは、さまざまなメーカーやクリエイターがVR空間を制作しています。今回は「一定以上の移動を要求するVR空間」で、ユーザーを迷わせず、クリエイターのコンセプトどおりに導く作り方について解説していきます。

 

この連載における「良いVR空間」とは

さて、良いVR空間とはなんでしょうか?目を見張るヴィジュアル?斬新なアイディア?さまざまなクリエイティブがあるため、無限に答えがあるように思えるでしょう。

文章だって「良い文章とは何か?」とよく言われます。一見答えが見えない問いに対し、元ナタリー編集長の唐木元氏は「新しい文章術の教室」にて、「良い文章とは、完読される文章である」と明快に答えて見せます。文章のテンポが悪かったら?間違いだらけだったら?内容と比べて長文すぎたら?そういった問題を挙げ、「おしまいまで読んでもらうことの難しさ」を語っています。

それに倣って、この連載では「良いVR空間とは、クリエイターが観せたいものを、ユーザーを迷わせず、最後まで観てもらえる空間」として進めていきます。VR空間でも、観るのにテンポがあり、クリエイターが見せたい内容に対し、適切な規模の空間があるでしょう。クリエイターの意図を最後までユーザーに伝える難しさがあるのです。

 

VR空間では、意外にユーザーは何をすればいいかわからなくなる

VRは、仮想空間を自由に動き回れるイメージがあります。ですが実際にゴーグルを被り、VR空間を目にしたとき、意外なくらい「何を見ればいいかわからない」、「次にどこへ行けばいいかわからない」ことが起きてはいませんか?

VR空間の一例。一見すると、目立つものがたくさん見えるが……

その一例として、筆者がSTYLYで制作したvaporwave風味のVR空間をご覧ください(リンク先はこちらから)。一見、目を引くオブジェクトとビビットな色使いの空間が出来上がっています。

しかしこの空間は、すぐに「次に何をすればいいかわからない」となるでしょう。ユーザーの「頭を動かして、目で見る」以外の行動を想定していない空間だからです。漠然と広い空間が展開されており、ユーザーはその真ん中へ放置されています。少し歩いても、新味のあるオブジェクトが見つかるわけでもありません。

細かい作りこみも、空間作りを間違えばユーザーに見てもらうのは難しくなる。

でもクリエイター側が、ユーザーにVR空間を歩いてもらい、細かい作りこみも観てもらいたいと考えていたら?さっき筆者が挙げたVR空間でいえば、上の画像の「ここにいるぜブタ」まで観てもらえれば、このコンテンツを100%ユーザーに観ていただけたと言えます。

しかしブタ画像を探すのに空間が広すぎ、さらに長距離を歩くことが要求されます。確実にユーザーのやる気はなくなるでしょう。「歩きながら、空間を観ていく」行動をまったく促されない空間だからです。

 

STYLYのVRから、どんな空間が適切か考える

VR空間で行動するとき、「頭を動かして、目で見る」行動以外は現実世界と違います。モーションコントローラーやプラットフォーム、ソフトごとに設定された行動に限定されています。

そして仮想空間とは、実のところ無限に空間を体験できるわけではなく、プラットフォームやソフトの持っているアクションと呼応しています。ジャンプができれば高さを生かすことができる空間が意味を持ちますし、車や飛行機のように高速で移動できれば広い空間が意味を持ちます。仮想空間は、プラットフォームができる行動と合わさることで、初めて生きてくると言えるでしょう。

ではSTYLYに搭載された行動からは、どんな仮想空間が適切なのでしょうか?現段階のSTYLYは「見る」インタラクションに特化しており、「移動する」行動も可能ながら、基本はポイント移動式であり、長距離の移動はいささか大変です。

そのため、STYLYで出来る行動を考えると「見る行動をメインに、あまり長くない距離を移動させる」空間作りがベースといえるでしょう。

もちろん「頭を動かして、目で見る」行動だけで、クリエイターの意図を100%伝えるVR空間もよいでしょう。ですが「歩く」行動を含めることで、VR空間に、より奥行きや深みを生み出すことができます。

 

美術の企画展をモデルにした「展示型」と「順路型」による空間構成

ではユーザーを「迷わずに移動してもらい、空間を観てもらう」には、どうすればよいでしょうか?

ヒントになるのは、美術館の企画展です。作家の作品が年代やテーマごとに構成され、一つずつ作品を観ながら、順路に合わせて歩いていく。まさに「見る行動をベースに、歩いてゆく」空間の代表例だといえるでしょう。これはSTYLYの機能とも一致していないでしょうか?

そんな美術の企画展を踏まえ、STYLYでVR空間を作るときのガイドラインをざっくりとふたつ考えてみました。「展示型」と「順路型」です。

作例として、昨年のNEWVIEW AWARDS 2018を観てみましょう。賞を受賞した作品は、「展示型」と「順路型」のお手本になっています。

 

『展示型』の空間構成

 

「展示型」とは、個展のように限定した空間の中で、見せたいオブジェクトを見せていくコンセプトの空間作りです。これはSTYLYの機能ともマッチしており、ユーザーが迷うことが少なく、ファッションやアートを利用した空間作りにも向いています。

「IMMERSIVE PHOTO EXHIBITION “美少女は目で殺す”」より。クリエイターが見せたい空間のわかりやすい例。

「展示型」で非常にわかりやすい例は、「IMMERSIVE PHOTO EXHIBITION “美少女は目で殺す”」でしょう。VR空間を一見しただけで、ユーザーは何を観ていけばいいか、どこまで歩けばいいか、すぐにわかるようになっています。

写真や、モデルが着たファッションの展示だけではなく、覗き穴というアイディアで「見る」行動をより楽しませています。このVR作品で「何をすればいいかわからない」ことはまず無く、ユーザーはほぼ100%、クリエイターのコンセプト通りの空間を体験できるでしょう。

『順路型』の空間構成

 

「順路型」はユーザーをどこへ進めばいいか誘導し、歩かせていくことでVR空間を体験させています。こちらは起承転結のある空間作りが可能で、ユーザーに起伏のある体験を作ることが可能です。しかし、迷わせないようにしたり、飽きさせないようにしたりする工夫が必要になります。

「EMMA VR: PAINTING LIFE」より。長い距離を歩かせるが、迷わせず、退屈させないように導く工夫が多い。

こちらの例は「EMMA VR: PAINTING LIFE」と「身体の形状記憶装置 -SHAPE MEMORY OF YOU-」が挙げられます。テキストを読み進めることも体験に含めることで、次にどこへ向かえばよいか誘導しながら、ドラマティックな体験を作り上げています。ユーザーを歩かせながら、どこか物語的な体験を生み出せる特徴があります。

次回からは「展示型」と「順路型」それぞれにどんな利点があり、どう制作していくかを解説していきます。どのようにすれば、ユーザーが「ここにいるぜブタ」までたどり着けるVR空間になるでしょうか?

次回をお楽しみに!