HIPHOPから潜るオーディオヴィジュアル表現の在り方─Eguoインタビュー

本記事ではNEWVIEWCYPHERにも参加して頂いたオーディオヴィジュアルアーティストのEguoさんに、どういった考え・文脈をもとにオーディオヴィジュアル作品やXR作品を制作するに至ったのか、Eguoさんのルーツを伺いつつ、インタビューを行いました。

Eguoさんについて

Eguo

東京出身のオーディオビジュアル・アーティスト。これまでに自作の音楽と映像を融合させたビデオ作品を数々発表。2017年、Video Bouillon(ヴィデオブイヨン)名義でオーディオビジュアルパフォーマンスの活動を開始。2021年からはVR/AR作品の制作も行っており、初VR作品『VR CYPHER』がファッション/カルチャー/アート分野のXRコンテンツアワードNEWVIEW AWARDS 2021にてPARCO Prizeを受賞。その他VJやフライヤー/ポスターなどのアートワーク、YouTubeのインタビュー番組ニートtokyoに所属するなど多岐に渡って活動中。

HP:https://www.videobouillon.com
Twitter:https://twitter.com/videobouillon
Instagram:https://www.instagram.com/eguo_videobouillon/

制作活動のルーツ

━Eguoさんの現在の制作活動のルーツについてお聞きしたいです。主に影響を受けた作品などありますか?

Eguo: 小説と映画には強く影響を受けました。ジャンルとしては主にSFとブラックユーモアに影響を受けました。強く影響を受けた小説家は筒井康隆、安倍公房、フィリップ・K・ディック。強く影響を受けた映画監督はデイヴィッド・リンチ監督、スタンリー・キューブリック監督、塚本晋也監督、テリー・ギリアム監督。
VJは宇川直宏さんに影響を受けました。オーディオビジュアル表現では黒川良一さんやSILICOM(青木孝允さんと高木正勝さんのユニット)、Chris Cunninghamなどに影響を受けました。ゲームはほとんどやっていなくて。子供のころはやりましたが。

━えー、それは意外でした(笑)

Eguo: 昨年のNEWVIEWCYPHERでVRを初めて体験して、めちゃくちゃやられちゃって。そこからVRの制作を始めたのをきっかけにゲームも作ってみたいと思うようになってきました。 小説・映画に主に影響を受けてて、有名なゲーム作品でも全然やったことないし興味もなかったんですよ。

━そうなんですか、本当に意外です。

EguoさんがNEWVIEWCYPHERで制作した「VR CYPHER」という作品

Eguo:でも、LSDっていうゲームありますよね。あの作品をYouTubeで見て、めちゃくちゃやられましたね。作者の佐藤理さんのオーディオビジュアルライブも見に行ったんですけど、めちゃくちゃやばかったです。

━LSDもゲームなんだけどちょっと詩的というか。先ほど本や映画に強く影響を受けたっておっしゃられたと思うのですが、やはり物語性のあるものに主に影響を受けられたんですね。

1998年に発売された初代PlayStation用3Dアドベンチャーゲーム「LSD」

オーディオビジュアルを精力的にやる理由

━Eguoさんは多様な活動をやられてると思うんですけど、その中でもオーディオヴィジュアルパフォーマンスを精力的になされていますよね。なぜ多様な表現がある中でオーディオヴィジュアルパフォーマンスを精力的になさっているのでしょうか。

Eguoさん

Eguo:精力的にやれてないんですけど(笑)。というかそれ以外そんなに興味が沸かないんですよね。
元々10代の頃ラップをやっていたんですが、精神を病んでラップが思うように作れなくなり、気休めにビジュアル表現を始めました。
ラップはできなくなったけど何かを作りたいという思いはあって。最初はPhotoshopでフォトコラージュなどの作品を作っていましたが、次第に映像制作に興味を持ち、作り始めました。

ある程度思うように作れるようになってくると、映像に音楽をつけたくなりました。
でも自分が求める音楽を作る人が周りにいなかったため、Ableton Liveを買って自分で音楽を作り始めました。元々やりたかったことがラップだったこともあり、音楽制作にのめり込んでいきました。
気づくと「映像に音楽をつけたい」から「音楽に映像をつけたい」に考えが変わっていました。今は「音楽を演奏しながら映像も演奏したい」という気持ちになっています。この気持ちがオーディオビジュアルパフォーマンスを精力的にやろうとしている最大の理由です。

━なるほど。お話を聞いていて、音楽がやはり基盤にあるなと感じました。元々ヒップホップが音楽のルーツにあると思うんですが、現在のEguoさんの制作されている楽曲を聞いてると、エレクトロニック等の電子音楽をメインで制作されている印象を受けます。ヒップホップがルーツにある中でなぜ、現在電子音楽を制作されているかという「変遷」をお聞きしたいです。

Eguo:それは、自分がラップを出来なくなっちゃって。そうすると聞く音楽もインストゥルメンタルが主体になったんです。
それで、最初はヒップホップでインストを主体としてやっていたDJ Krush、DJ Shadowとかその辺のアブストラクトヒップホップって言われてた人たちの音楽を聴きだして。

それでその周辺の音楽を聴き漁っていたらある時Autechreに出会って。Warp Recordsの影響を強く受けたんですよね。インストだけで言葉がなくてもこれだけ凄い音楽があるんだって。気づいたらヒップホップをほとんど聞かなくなってしまったんです。
でも、これは後にオーディオビジュアルライブをした時に、昔から知ってる知り合いの人がライブを見に来てくれたんですけど、「ラップと変わんないよね。トラックにラップを乗せるようにトラックに映像を乗せてるじゃん」って言われて、まさにそうだと思って。ラップが映像に置き換わったんだなと感じましたね。

━「トラックに映像をのせる」という表現は新鮮でした。ありがとうございます。根幹にはやはりヒップホップの精神があるんですね。そこに関連してお聞きしたいのですが、YouTubeチャンネル、「ニートtokyo」という番組に携わっていらっしゃると思うのですが、そのことについてお聞きしたいです。

Eguo:主宰のSEEDAと中学校のときの同級生で、俺が最初にラップはまったんですよね、SEEDAはバンドやってて。すごいパワーっていうか怒りがあったんですよね。それで仲良くなってラップやろうよって誘ったら、当時周りに音楽やってる人がいなかったのもあるかもしれないですけど興味を持ってくれて。

当時中学校の2、3年生とかだったんですけどクラブとか遊びに行ってて(笑)。IDチェックとかなかったんですよね。それでどんどんはまっていった感じで、グループ組んで活動したりしてたんです。その周りの友達とかも今もラップやDJを続けてて。自分がラップ辞めた後もまあゆるく繋がってる感じでそのまま時が経って。

それでSEEDAがニートtokyoを始めるという話も聞いたりはしてたんですが、ある時インタビュアーやらないかってメールが来て。自分の性格的にそういうのがめちゃくちゃ向いてないのも分かってたけど、逆にそれが面白く作用するかもしれないと思ってやってみることにしました。でもやっぱりインタビュアーは向いていなくて今は他の業務で携わっています。

━中学校からの音楽仲間だったんですね、中々このようなお話しは聞けないので嬉しいです。ありがとうございます。では今はニートtokyoでの活動や映像制作の活動をメインとしているんですね。他にお仕事などはされているんですか?

Eguo:今は、ニートtokyoや映像制作の他は全く関係ない仕事をしているんですよね。オーディオビジュアル表現がもっとできるんだったらそれをやりたいと思ってるんですけど。

━そうなんですね。意外でした。

Eguo: ニートtokyoでも自分が質問を作ってインタビューして編集もしていた時期があって。でもそうするとオーディオビジュアルなどの自分の作品が作れなくなっちゃって。

━なるほど。そのようなバランスも重要なんですね。僕は学生なので勉強になります。

では次にEguoさんの表現の部分を掘り下げたいなと思います。Eguoさんの作品を通じて、土偶を動かしたり宇宙人にヘッドマウントディスプレイを被せたりなど神秘的な要素を含んだ表現をなさっていると思うのですがこのような表現の部分、ヴィジュアルの面で影響を受けたものは何なのでしょうか?

Eguo:そんなにビジュアル的にこう誰かに影響受けたっていうのはあまりないんですよね。無意識ではめちゃくちゃ影響出てると思うんですけど。例えば先ほど挙げた映画監督の作品からはビジュアルで影響を受けたというのはあまりないと思います。

土偶に関しては岡本太郎の影響がもしかしたらあるかもしれないです。岡本太郎って、俺の小学校の大先輩なんですよね。子供の頃から「あの岡本太郎、先輩なんだ」みたいな感じに身近に感じて育ったので。
それと、青山にあったこどもの城。今は閉館してしまったんですが、子供の頃めっちゃ通っていて。そこに岡本太郎の「こどもの樹」というオブジェがあって、そういうのがすごい焼き付いてますね。
後は、小さい頃に宇宙人の番組とかめちゃくちゃテレビでやってたんですよ、子供を怖がらせるような(笑)、それはかなり強く鮮烈な印象が残ってます。

XRの魅力

━NEWVIEWCYPHERを通して感じたXRの印象や魅力についてお聞きしたいです。

Eguo: そうですね。VRの話になっちゃうんですけど、例えば夢の中のような荒唐無稽な表現も、360度視点による圧倒的な没入感やインタラクションによって説得力を生み、違和感なく体感・体験できるところが魅力だと思います。その利点を生かして、VRでは非現実的で超ぶっ飛んだ表現もしていきたいと思っています。あと自分がやっているオーディオビジュアル表現に限っていえば、ゲームも同じですが、VRは、作者や演奏者ではなく鑑賞者が視点のコントロールを行える点、鑑賞者自身がアクションを起こすことによって音と映像が一体化したオーディオビジュアル体験ができる点、ライブパフォーマンスやビデオ作品のように時間軸に沿ったリニアな体験ではない、ノンリニアな体験が可能である点が魅力だと思います。

確かにオーディオビジュアルなどもVRだと、鑑賞者自身がアクションを起こせるノンリニアな体験が拡張される印象を受けます。

Eguo: そうですね、鑑賞者側でそれができるのが魅力的ですね。一方的に作り手が出していたものが、鑑賞者が別にそれを見たくなかったら別の方向に進んじゃえばいいっていうのが面白いです。

「VR CYPHER」制作背景

━では次にEguoさんのVR作品「VR CYPHER」 についての制作背景についてお聞きしたいです。

Eguo: 「NEWVIEW CYPHER」というテーマを元に作ったのですが、やはり戦いで誰が一位を決めるかということだったので普段作ってるものよりはエンターテインメント性の高い作品になりました。

「CYPHER」は、自分が10代の頃に熱中していたHIP HOPカルチャーから派生したもので、輪になってラップやダンスをし、それぞれのスキルやスタイルを競い合う集まりです。自分は現在もHIP HOPコミュニティを主軸にしたニートtokyoのスタッフとしてHIP HOPカルチャーに携わっていることもあり、「CYPHER」自体を作品のテーマにしようと決めました。そこに自分がこれまでに得た音楽体験、ラップやクラブミュージックの魅力、ミックス表現、ダンス表現、いま自分がやっているオーディオビジュアルアートの表現を落とし込み、VR作品にしました。

この作品の一番の肝は、得体の知れない未知なる者たちの輪に飛び入り参加し、自ら立ち位置を決めてアクションを起こし、楽しむことです。まさに「CYPHER」ですね。

VR CYPHER

━では、やはり「CYPHER」が題材であることはeguoさんにとって必然だったんですね。
XR、オーディオヴィジュアルでのミックス表現とはどのようなものなのでしょうか。

Eguo: ミックスするっていうのは音作り、トラックを作る時のことを表現しています。XRの空間でも自分のタイミングで外して次はメロディのせて、みたいな。やはり音楽というものが背景にありますね。

━XRも音楽も似ているんですね。
昨年渋谷PARCOでオンライン/オフライン同時開催されたNEWVIEWFEST2021でのEguoさんのオーディオヴィジュアルライブについて技術的な側面も交えながらお聞きしたいと思います。

Eguo:渋谷PARCOで行ったXR LIVEは、リアルタイムレンダリングで生成される3D空間内にもうひとつのライブ会場を作り、そのライブ会場に設置したスクリーンに実際のライブ会場のAR映像やVJ映像などをリアルタイムで映し出しスイッチングさせるという、入れ子構造のライブ内容になっています。
音楽は全てオリジナルトラックで、Ableton Liveを使用し、NovationのLaunch ControlとLaunchpadでコントロールしています。3D空間はNotch VFXを使用して構築しました。
3D空間内のライブ会場に設置した3面マルチスクリーンに映し出される実際のライブ会場のAR映像はSTYLYを使用し、VJ映像はResolumeを使用しています。
オーディオビジュアルは、音と映像を同時にフィジカルにいじれるっていうところが魅力だと思っています。

━フィジカルの部分で感じたのですが、極論先にプログラムしておけば自動で制御する方がやりやすいんじゃないかと思ったのですが、リアルタイムでいじっていく、みたいな部分にどういう魅力を感じてるのかお聞きしたいです。

Eguo:やはり音楽がルーツにありますね。音楽ってやっぱり自分でこうノブとかいじる時が一番楽しいっていうか。映像も同じようにできれば気持ちいい。ただそれだけですね。
でもそこって結構難しくて。例えば映像のCDJみたいなのってあるじゃないですか。あれも音と同時に映像もスクラッチできるっていうのが売りだったと思うんですけど。

例えばミュージックビデオとかスクラッチしても音は気持ちよくスクラッチできてるんですけど、映像はそんなに動いてないみたいなのが結構あって、それじゃつまんないなと思って。やっぱそこは仕込んで音をスクラッチするのと同じように、映像も気持ちよくスクラッチしたり、エフェクトがかかるっていう設定は最初にしておきたいんですよね。
多分、自分で音楽ができてたら映像を自分でやってなかったんじゃないかと思いますね。やっぱり音楽がめちゃくちゃやりたい。さっきも言ったと思うんですけどラップができなくなって何かできるかな?と思って映像を始めたので。

Eguoさん

━やはり色々とお聞きしていく中で音楽がルーツにあることを強く感じます。音楽やXR表現も含めて今後やっていきたいことなどはありますか

Eguo:今はVRのゲームを作りたいです。後はVRで複数人同時接続をしてパーティーを開催したり、VRでオーディオビジュアルライブをやったり、VRで物理的な制約から解き放たれた、見たこともないようなバーチャル楽器を作ってマシンライブをやったりしたいと思っています。
以前、DJがかける音楽にリアルタイムで音反応して風景が変わる「Virtual Resort」というクラブ仕様のVR作品を作りました。
試作でリアル空間の音に反応して3DモデルがダンスするARも作りました。クラブ仕様のVR作品に関しては今後シーンを増やして、鑑賞者が操作するボタンや音反応などで切り替えられるようにしたり、現場を映すカメラ映像の入力やVR映像をプロジェクターでミラーリング表示したりして、現場の空間とさらに交わらせたいと思っています。VR空間からお酒を注文出来るようにもしたいですね(笑)

リアルでは、オーディオビジュアルライブや音楽制作、パーティーをもっとやっていきたいと思っています。観客やクラブに遊びに行ったお客さん自体がDJやVJになってしまうみたいなパーティーを目指してて。そういうことをXRを使ってお客さん自身でもっと楽しんでもらうことができると思ってるので今後もそのような活動をしていきたいと思ってます。

━全体のお話を通してEguoさんのヒップホップの精神が垣間見え、一貫した哲学が見えてきて非常に面白かったです。本日はありがとうございました。

Eguo: ありがとうございました。

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Photo by RIN
Edited by SASAnishiki