STYLYにはさまざまな機能があるが、それらをどのように使い、自分の作品として表現するかは作り手の醍醐味でもあるだろう。
作り手分だけの発想と使い方で同じアセットでもまったく異なる作品が生まれる。
そんな中、今回STYLYを使って”MV”を撮影した作品が発表された。それがこちらのクリープハイプ「愛す」トリビュートアニメだ。
ブスって言われた人も愛すって言えなかった人もこれ見て最速で立ち直って欲しい!
クリープハイプ「愛す」のトリビュートアニメです。#クリープハイプみが深い#バレンタイン pic.twitter.com/UcR8mnE1Cm— ぬQ (@nuQ_artworks) February 11, 2020
アニメーションの舞台をSTYLY上で組み立てて映像に落とし込んだという。
今回はこちらの作者であるぬQ氏に本作の制作について、また、前作「SWEETS_EMPIRE」から約1年たった今、あらためてSTYLYでの制作についての考えを伺ってきた。
プロフィール
ぬQ(@nuQ_artworks)
アニメーション作家|日本
修了制作のアニメーション作品“ ニュ~東京音頭 ”が第18回学生CGコンテスト最優秀賞を受賞、第16回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出されるなど、国内外で多数上映される。
pixiv Zingaro や TETOKA等のギャラリーで個展を開催する他、CM、MV、イラスト等クライアントワークも数多く手掛けている。
バーチャル空間で撮影舞台をつくる
— 今回、クリープハイプ「愛す」トリビュートアニメをつくったきっかけを教えていただけますか?
ぬQ:現メンバー10周年の記念のプロモーションとして、楽曲『愛す』を独自に解釈し、アニメーションで自由に表現して欲しいというご依頼がありました。
丁度大尊敬しているAC部が「愛す」のMV制作を担当されていて楽しんで見ていたのでクリープハイプさんとAC部をダブルでトリビュートできて個人的にとても嬉しいお声がけでした!
発表時期がバレンタインに近く、「チョコレート」と「愛す」で、「チョコレートアイス」をテーマに構想していました。でも、実は「愛す」をブスと読ませることを教えていただき仰天したのですが、チョコレートタウンの構想が頭から離れずそのまま制作にすることになりました笑。
— MV(映像)を「VRでつくろう」と思われた発想のきっかけはありましたか?
ぬQ:現在、十和田市現代美術館で開催中の「かいふくのいずみ展」のメイン映像をSTYLYで作ったのがきっかけです。
最後の手段、ひらのりょう、ぬQの三作家の2D素材をSTYLY上で組み立てて撮影した約5分の映像です。
展示する作品を撮影し、一週間程度で作ることができました。
「今」を代表するインディペンデント・アニメーション作家ひらのりょう、ぬQ、最後の手段たちが集結。
十和田市現代美術館で開催の「冬眠映像祭 Vol.1 かいふくのいずみ」会場の様子の映像が届きました👀
映像インスタレーションにSTYLYが使用されています✨https://t.co/nZ8QmirQKb#STYLY pic.twitter.com/RqHs4gDCXZ— STYLY (@STYLY_VR) February 12, 2020
—こちらの映像は1週間で制作されていたのですね…!
ぬQ:アニメーションは制作に非常に時間がかかるので、即興性に欠け、合作を作ることがとても難し表現だと思っていたので、このスピード感に自分でもとても驚きました!
私の今までの作風では、一枚一枚動きを手書きで描いていたので、数十秒の映像を作るのに一月以上かかっていたんです。
それまで「尺が長いとできない」「納期が短いとできない」と、やりたくても作風から現実的に思えなかったものがSTYLYを応用すればできるかも知れない!と考え始めてとても嬉しくなりました。
— そのほか、制作中に気が付いたことなどはありましたか?
ぬQ:組み立てた世界の中をマニュアルモードのカメラであちこち見渡すと、想定外の面白い画面が撮影できたことも大きいです。
アニメーションでは、絵や動きを監督が決められるので、画面内の殆どコントロールできるのですが、別角度から撮影すると、誰も通れない路地裏みたいな場所ができていて、自分で作ったのにそうではない不思議な感覚がありました。この制作を機に、急に頭の中が16:9の映像のサイズから、360度に広がってアイディアを考えられるようになりました。
十和田からの帰りの新幹線では、映像化をほぼ諦めていた脚本も、こんな風に撮影したらできるかも?と空想が止まりませんでした。
まるで、積み木遊び
— 本作のおおまかな制作過程を教えていただけますか?
ぬQ:空間を構成するパーツを私が描き、アシスタントが組み立て、マニュアルモードで撮影し、プレミアでキャラクターのアニメーションをを合成しています。
エレベーターの中もちゃんと空間がありますよ。
泣いている一郎と、涙の水溜りはgifアニメでSTYLY上に配置してあります。動く道路はSTYLYの素材「動く球体」を使い、逆再生しています。
— 制作にあたって苦労した点、よかった点はありましたか?
ぬQ:苦労した点は、大好きなモチーフをたくさん描いていたので特にありません笑
よかった点は、作画(私)と撮影や配置(アシスタント)に分業できたので効率が上がりました。
私は多くの素材を描くことに集中できたので、画面の濃度が上がったと思います。解像度が高く大きな画面の鑑賞に耐えられるのもとても良かったです。今回はTwitterの企画としてスマートフォンで鑑賞されることを前提にしましたが、映画祭向けの作品も作れると思います。
— STYLYで作成された前作「SWEETS_EMPIRE」の制作時と比べて変わった点はありましたか?
実は前回マウスなしで制作したのですが、マウスがあると本当に楽ですね!
映像制作を見越して空間作ると、何をどこにおけばいいのかだんだんわかるようになってきました。
— STYLYを継続して利用してくださっている大きな理由はなんでしょうか?
ぬQ:空間そのものを構築できることが大きいです。
他のソフトで映像のカットのために3Dレイヤーを使うこととは違い、箱庭のワールドを作れます。積み木遊びをしているような感じで楽しく作れました。
STYLY=VRという前提さえももっと取っ払った使い方ができるって早く気づけばよかったです。
— さいごに、これからの展望について教えていただけますか?
まだ三作目なので、もっといろいろ試してみたいです!先ほど言ったように、長くてちょっと諦めていた面白い脚本がたくさん頭の中にあります。これをstylyで舞台セットを作って撮影したら、かなり効率よく映像化できるのではと思っています。
今まではちょっと難しかったフルサイズでのMVの仕事なども積極的に受けられると思いますので、新しいぬQ映像をお楽しみにしていてください〜!
独自のSTYLYの使い方を見出し、イメージを自由に創造し発表する。そんなアーティストがどんどん増え、これからも様々な作品がでてくることを期待している。
まだSTYLYを触ってみたことがないという方は、まずは「好きな画像1枚だけ」を準備していただければ、きっと十分におもしろい空間がつくれるだろう。
そこから今回偶然生まれた「路地裏」のような、自分の作品であってそうでないような出会いもあるかもしれない。