この記事では、NEWVIEW AWARDS 2020 ファイナリスト作品「New reality – my studio」を紹介します。
アーティストの中山晃子さんが制作したドローイング作品であり、スタジオ。その作品に描かれるテクスチャとイメージを軸に、鑑賞のポイントを紹介します。
中山晃子 (AKIKO NAKAYAMA) さんに関して
中山晃子|AKIKO NAKAYAMA
画家。液体から固体までさまざまな材料を相互に反応させて絵を描く「Alive Painting」というパフォーマンスを行う。科学的、物理的な法則に基づくあらゆる現象や、現れる色彩を、生物や関係性のメタファーとして作品の中に生き生きと描く。ソロでは音を「透明な絵の具」として扱い、絵を描くことによって空間や感情に触れる。近年では TEDxHaneda、DLECTRICITY ART FESTIVAL 2017 (US Detroit) 、New Ars Electronica opening performance 2019(オーストリア リンツ)、Biennale Nemo 2018 (フランス パリ)、MUTEK モントリオール等 にも出演
【中山晃子 OFFICIAL】
≪Akiko Nakayama Website≫ http://akiko.co.jp
≪Twitter≫ https://twitter.com/akikonkym
≪Instagram≫ https://www.instagram.com/akikonkym/
≪facebook≫ https://www.facebook.com/akikonakayamaweb/
( プロフィール / アーティストフォトはすべて中山晃子さんのHPより引用: http://akiko.co.jp )
中山晃子さんは普段はXRの表現ではなく、現実の物質を使用した作品を制作します。
last night @ArsElectronica pic.twitter.com/gAd2YAIsuH
— Akiko Nakayama 中山晃子 (@akikonkym) May 28, 2019
液体などのシミュレーションによって制作された作品を映像やドローイングとして発表しています。
「New reality – my studio」では、中山さんが制作した、現実のドローイングを3Dモデルのテクスチャとし、VR作品として発表しました。
XRアーティストではない、アーティストが制作するXR作品の拡張と可能性について読み解きます。
New reality – my studio
最小のオブジェクトによるピュアネス
シーンが始まると、空間には3つのオブジェクトが宙を漂っています。
トンネル型の3Dモデル、球体型のテクスチャアニメーション、そしてユキヒョウ。スカイボックスと床には中山さんが制作したドローイングのテクスチャが貼り付けられています。
そして、空間には雨が降っています。
XR作品は空間を構築するうえで、情報量が過多になりがちです。
それは、私たちが普段から「空間」を認識する際に、「現実空間」を参照先として空間を認識しているからです。
しかし、現実空間は情報にあふれてしまっています。
たとえば、以下はUnityアセットストアにてフリーでリリースされている「部屋と家具」のアセットです。
部屋と家具というイメージを構築するためだけにも、ソファがあり、タンスがあり、窓があり、木の目の床、クローゼットがあり、テレビがあり…と多くのオブジェクトが必要になります。
オブジェクトが増えることによって、その空間が「何」であるかを認識しやすくなります。しかし、同時にオブジェクトが増えてしまうことで、そのイメージが強固になり、想像の余白が消されていってしまうのもまた事実です。
New Reality – my studioは最小限のオブジェクトによって構築されることで、想像の余白が十分に用意されています。
作品を鑑賞することで、私たちは中山さんが制作した「余白」を鑑賞することができるのではないでしょうか。
情報量が過多になりがちなXRの表現において、余白を作ることで、中山さん自身の表現であるドローイングをよりピュアに鑑賞することができます。
テクスチャが構築する空間
オブジェクトだけではありません。この空間に没入し、強いイメージを迫ってくるのは、この空間を覆う巨大なドローイングのテクスチャではないでしょうか。
スカイボックスとして、空間全体を赤と白のドローイングによっておおわれています。
その景色はさながら、銀河のようです。
VRは、一般的なモニターから鑑賞するのとは異なり、空間の中に入り込み、その空間自体を楽しむことができます。ドローイングをこの大きさで体感できるのは、VRならではの鑑賞方法となります。
中山さんの空間は、まるで宇宙を観測している、そんな体験を感じてしまいました。
それを踏まえたうえで、この作品は中山さんの「オープンスタジオ」であることにも紐づけられます。
中山さんはこの作品を以下のように紹介しています。
open studio としての3D空間
白紙の空間、新しい心の拠り所としてマインドマップを描くようにオブジェクトを配置していく。心象風景に必要なものはそんなに多くなくて良いらしい。発色の良い天地、動くもの動かないもの。直線とカーブ。回転、サイズ、位置、を変化させられる自由。シンプルな形状は名詞に囚われず意味が可変、貼り付けられたイメージと形は根拠のないままに同体である。不気味な楽しさ!そぐわなさゆえに感じられる奇妙な詩情も面白い。
With コロナによってアトリエに行くことを制限されたこの春、玄関の扉を開くよりもSTYLYで空間を作る方が簡単に息が吸えるように感じられた。
せっかく気軽に公開できる機会、新しいドローイングとして、心理的なオープンスタジオとして応募しました。
( NEWVIEW AWARDS 2020 HP より引用:https://newview.design/works/new-reality-my-studio/ )
この作品は、宇宙のような空間作品を楽しむと同時に、作者のスタジオに入り込む体験となっています。
中山さんの心理的なオープンスタジオ、つまり、それは中山さんの心のイメージの中に入り込む体験となります。観測できないものを、観測しようとする試みとも受け取ることができます。
この作品に没入する行為は、中山さんと対峙する行為であり、それは言い換えるならば、小宇宙と対峙する行為ではないでしょうか。
この地球の外側の宇宙を「大宇宙」としたとき、我々人類そのものを「小宇宙」とし、そして美の世界、理念の世界を形成しているそのもの自体が「小宇宙」となります。
私たちは、VRというメディアによって没入する行為は、「中山晃子 AKIKO NAKAYAMA」という人物の世界=小宇宙に没入する、という行為となるのではないでしょうか。
私はこの作品と対峙したとき、そのように感じました。
最後に
この作品を鑑賞する際に、同時に、この作品の紹介動画である「my studio」も合わせて鑑賞することを推奨します。
中山晃子さんがどのようにこの作品に向かっているのか、すこしわかるかもしれません。
シーン
この作品はウェブブラウザ・モバイルからも体験することができますが、HMDを持っている場合はぜひVRで体験していただきたいです。
空間に没入する、という行為がもつ強い身体性をもって、この小宇宙を体験してみましょう。
- スマートフォンから体験する STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。
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