現実空間と仮想空間による重ね合わせのICC展示作品「それらしい場所」:藤倉麻子

この記事では2021年1月16日から3月31日まで、ICCにて開催している(リアル展示のみ3月14日まで)特別展「多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ」(以下、ハイパーICC)の藤倉麻子さんの作品「それらしい場所」を紹介します。

今回は、通常のARシーンではなく、現実空間と重ね合わせた作品となります。インスタレーションとして現実空間と、ARの仮想空間の2つが重ね合わせられています。

現地の写真と共に、ARとアートの可能性について読み取ります。

作品

「多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ」について

ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)は、日本の電話事業100周年(1990年)の記念事業として、1997年4月19日、東京/西新宿・東京オペラシティタワーにオープンした、NTT東日本が運営する文化施設です。主に、メディアアートなどを中心にデジタルアートなどを取り扱った作品を展示しています。

今回のハイパーICCでは、NEWVIEW SCHOOLの講師でもある谷口暁彦さんがキュレーターとして参加しています。

谷口暁彦さん

  • 出品作家 / スタッフ

アグネス吉井
尾焼津早織
谷口暁彦
原田郁
藤倉麻子
山内祥太
山本悠と時里充

共同キュレーション:谷口暁彦,時里充
ヴァーチュアル初台,ハイパーICC 監修:豊田啓介(noiz)
ヴァーチュアル初台,ハイパーICC 制作:中村将達,noiz(豊田啓介,蔡佳萱,酒井康介,閔庚錫,マリーナ・ラザレヴァ,呂亞輝,ウルシュラ・クチューマ,平井雅史,イネス・アミーネ,近藤有希子)
3Dデータ計測,制作:gluon
ウェブサイト制作:ユニバ株式会社(UNIBA INC.)
ARプラットフォーム提供,制作協力:STYLY(株式会社Psychic VR Lab)

 

  • 概要

実空間と情報空間の層(レイヤー)の中に建つ、仮想空間の中のもうひとつのICC

近年「ミラーワールド」「デジタルツイン」「コモングラウンド」などの概念がさまざまなシーンで取り上げられるようになっています.これらの言葉はどれも,通信やコンピュータ処理の高速化などを背景に,実空間と対応関係をもつ,高精度なシミュレーションなどにも活用可能なデジタル情報空間が実現化しつつあることを象徴しています.さらに2020年に起こった新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は,物理的移動に大きな制限をかけました.その結果,デジタル情報空間への注目度があらためて高まっているといえるでしょう.この新型コロナウイルス禍において,多くの美術館が展覧会を中止または予定を延期しました.そして,中止になってしまった展覧会や,始まったものの観客を迎えることができない展覧会を,オンライン上で公開する試みが始まりました.さらに,アーティストによるオンラインでの展示がさまざまに試行されました.そうした社会変動を経験した私たちには,これまでとは異なる新しい展覧会の活動モデルを想定していくことが必要とされているのではないでしょうか.今回ICCでは,メディア・テクノロジーを駆使し,これまでもネットワーク上での作品公開などを展開してきたメディア・アートの手法によって,新しい展覧会のあり方を示唆するヴィジョンとその可能性を探る試みを行ないます.

(公式ホームページより引用:https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2021/the-museum-in-the-multi-layered-world/

ゲーム・アートから、ARを使ったアート作品などさまざまなメディアを取り扱った作品が展示されています。

展示

現実の空間での展示のみならず、バーチャル空間を使った展示も同時開催しています。

詳細に関しては以下の公式ホームページに記載されています。

https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2021/the-museum-in-the-multi-layered-world/

藤倉麻子さんについて

1992年生まれ.2016年東京外国語大学ペルシア語専攻を卒業した後2018年東京藝術大学大学院メディア映像専攻修了.現代の都市に存在する原始的な呪術性を見出すことをテーマに,人工的なテクスチャと触覚性に注目したイメージを強調した3DCGアニメーションの手法で都市の風景を制作.人間によって生産された工業製品が,人間の制御や本来の機能から逸脱し,都市の様々なインフラストラクチャーや工業製品が無制御に自走する映像を中心としたインスタレーションを展開している.
個展に,エマージェンシーズ!035 《群生地放送》(ICC,2018).グループ展に,「Close to Nature, Next to Humanity」(台東美術館,台東,台湾,2020),PHENOMENON: RGB(ラフォーレミュージアム原宿,東京,2019),など.LUMINE meets ART AWARD2020グランプリ受賞.

(ICC公式ページより引用:https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/fujikura-asako/

Asako Fujikura HP : http://www.asakofujikura.com/
Instagram : https://www.instagram.com/asakurage/

主に3DCGを使った彩度の高いカラーリングの抽象的なアート作品を制作しています。独特なオブジェクトの造形と、カラーリングは鑑賞者に強い印象を与えます。

作品「How to Enjoy Mornings」より

3DCGの発表方法として、ビデオ・グラフィックといったデジタルのみならず、インスタレーションとして現実空間と組み合わせた発表も行ってきました。

2019年2月から3月に、ラフォーレ原宿で開催された「PHENOMENON:RGB」では6メートルスクリーンを5つ使用したビデオインスタレーションを行いました。

 
 
 
 
 
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3DCGと藤倉さんの景色をさまざまなメディアを通して表現しています。

そして、今回ハイパーICCでは、藤倉さんはARとインスタレーションを使用した作品を発表しました。

タイトルは《それらしい場所》です。

「それらしい場所」について

作品の展示会場につくと、会場の隅に3つのオブジェクトが掲示されています。

そして、その前にはiPadでARが表示されています。

展示

禁止マークの標識、床にのめりこんだような球体、壁に掛けられた絵画。

その空間上に、STYLYのARを重ねて作品を鑑賞します。

怪獣?

すると空間上に、オブジェクトが表示されます。

禁止マークに描かれていた怪物のようなオブジェクトが現れます。

床面には球体や、絵画のオブジェクトが現実に表出されます。

奇妙な光景

空間に突然現れた、さまざまなオブジェクトは自律的に動き、同時に現実空間の影響を受けない状態で存在します。

私たちが視ている現実空間のオブジェクトと、仮想空間に存在するオブジェクトの2つのレイヤーが重なることによってはじめてこの作品が存在します。

藤倉さんは、この作品を以下のように解説しています。

乾燥した平らな土地の上に現われる,人工的かつ有機的な質感をもった極彩色の都市風景.藤倉がコンピュータ・グラフィックスで描き出す風景は,加速する現代社会の行き着く果てのようなディストピア,あるいは境界をなくした人工物と自然物が並び立つ楽園のような都市像です.今回の展示では,AR技術を使って,展示空間に作られた作品に,CGのイメージを重ね合わせて鑑賞することができます.また,家でも,あるいは屋外でスマートフォンをかざすことでも,ARによる都市像を重ね合わせることができます.

この作品は一つの都市像として存在しています。そして、その都市は一つのディストピアとして表出されています。

しかし、この作品ではオブジェクトに近づくと、ディストピアとは似つかない少し前の商業施設で流れているような、長調な軽快なメロディーの音楽が流れます。アーティストのermhoiによって制作された楽曲です。

一見、その楽曲のイメージと彩度の高いオブジェクトが織りなすイメージを「ディストピア」として表象するのは少し困惑してしまいました。

体験していて、むしろ楽しくなってくるような気分です。それは果たしてディストピアなのか。

ermhoi

この作品を読み取るために、展示空間の周辺をウロウロし、重ね合わさった2つの空間を凝視しました。

その中で私は少し考え、ある考えが浮かび上がりました。

藤倉さんが作る世界(都市)において「人間」の居場所はどこにあるのだろうか、と。

そのことを考え、自分なりに作品を読み取りました。

まず、現実世界のレイヤーは、私たち(人間)が存在する世界であり、そこには人間に向けられた記号としてのオブジェクトが配置されています。

たとえば標識は危険信号を示すオブジェクトです。怪物がいることへの危険を私たちに示しているのではないでしょうか。

しかし、ARによって展示空間に重ね合わせて作品を鑑賞すると、標識の周りにはその標識を嘲笑うかのように怪物が浮遊しています。

この嘲笑うかのような行動は、(怪物たちが)自由になった世界を示しているのではないでしょうか。怪物たちが自由になることは、人間たちがいなくなり、遮るものがいなくなった世界。私はそのように読み取れました。

これこそが人間にとってのディストピアであり、怪物やオブジェクトにとってはユートピアなのではないでしょうか。

また、この作品の解説の中には「加速する現代社会」がディストピアへ行き着く要因として挙げられています。

ARはその記号なのではないでしょうか?

ARを加速する現代社会と見たて、記号性を孕んだデバイスとして私たちはディストピアを覗いている、という構図が浮かび上がってきます。

ARは加速する現代社会?

自由に動き出す球体、絵画から飛び出したオブジェクト…これらのオブジェクトも彼ら(彼女ら?)にとってのユートピアの存在をARを通して私たちは鑑賞しているかもしれません。

私が読み取った作品の解釈の一つですが、もしかしたら違う読み取り方ができるかもしれません。

インスタレーションをARと重ね合わせることで、作品に時間軸・空間軸が拡張し、私たちの鑑賞の幅を拡げています。

その体験こそが、この展示における「多層世界」なのではないでしょうか。

シーン

ハイパーICCのリアル展示は2021年3月14日で終了してしまいますが、3月31日まではオンライン展示も開催しています。興味がある方はぜひ体験してみてください。

https://hyper.ntticc.or.jp/access.html

また、「それらしい場所」のARシーン自体は公開はされていませんが、展示に関連した作品として「電灯の成長」が公開されています。

そちらも体験してみてはいかがでしょうか。

 

  • スマートフォンから体験する

    STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。

画像をクリックするとシーンが開きます。

電灯の成長

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本記事で紹介したようなシーンを作れるようになります。

 

  • プログラミングコードをかかず、VR/ARコンテンツを制作可能
  • 公式監修によるUnity講座を用意
  • フォトグラメトリ制作方法、コンテンツ軽量化などの追加要素あり
  • VR/ARコンテンツを作るための考え方を学習できる