ARで世界に色は取り戻せるのか、あるいは新しい絵の具の発明について「World’s Palette」:Shinya Hasebe

《 World’s Palette 》という作品を紹介します。

《 World’s Palette 》

《 World’s Palette 》は、カメラ越しに世界の空間の色や模様をキャッチし、キャッチした色や模様を絵の具にして空間に線を描ける作品です。

《 World’s Palette 》キャプチャ


《 World’s Palette 》キャプチャ

本作品はNEWVIEW AWARD 2021にてSILVER PRIZEを獲得しています。

作品の体験方法

この作品はSTYLY Mobileアプリを用いて簡単に体験できます。
アプリを起動し以下のQRコードを読み込んでみてください。
床やテーブル、地面など平らな面を選択してスタートします。

作品QRコード

スマートフォンからアクセスしている方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。

そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

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シーン体験方法の詳細を知りたい方

ARシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。

作者による《 World’s Palette 》の説明

スマホが筆で、世界がカラーパレットになり、空間にドローイングができる作品です。
画面をタッチしている間、スマホを動かすと、画面の中心に映っている色で軌跡を自由に描くことができます。
周りにある様々なモノがまるでカラーパレットのように見えてきて、色を探しに外に行きたくなります。

この頃は世界中の人が外出が困難な状況が続いていましたが、この作品を通じて顔を上げて周囲の色に意識を向け、気分も晴れやかになってほしいと願いを込めて作りました。
ドローイングには音が付いていて、スマホに触れると再生されます。
絵を描くことはもちろん、スマホを持ちながらダンスすることで描いた線で音を鳴らすことができます。

この作品はARを使っていますが、ただ見るだけのデジタル的な実態が初めから用意されているわけではありません。
それぞれの人が自由に”空の器”を使って、自身の心の揺らめきをすくい上げてほしいです。
引用元:https://newview.design/works/worlds-palette/

Shinya Hasebe
プロダクトデザイナー |Japan
1979 大阪生まれ
2004 立命館大学卒業
2019 NEWVIEW AWARD ファイナリスト
現在、株式会社 島津製作所所属 (プロダクトデザイナー)

絵の具をメディア化する歴史として、石井裕氏の《 I/O Brush》との比較

《I/O Brush》とは

MITメディアラボの元所長で、コンピューター研究者・メディアアーティストである石井裕氏のチームの初期の作品に、《 I/O Brush 》があります。
これは筆型のデバイスで触れた映像を取得し、その映像をディスプレイに描くことができる現実のカラースポイトのようなものです。

この《 I/O Brush 》は、「環境を取得し、その色を捉え、そして再度世界を色によって構築する」という絵を描く行為を滑らかに体験できるようにしたものです。
石井氏はそれによって人間の世界への接し方がカラフルになることを目指していました。

I/O Brushを経験すると、知らないうちに“新しい眼鏡”をかけている。その眼鏡を通して世界を見ると、世界の見え方が一変し、世界は美しいパターンやテクスチャーに満ちあふれていることに気がつきます。このブラシを使い、どのような芸術表現をしようかと考えると、どきどきしてくる。世界に対する認識を変え、クリエーションのスイッチをオンにする。それが私たちの目指すインタラクション・デザインです。」
―石井裕
引用元:
https://www.academyhills.com/note/opinion/14010805mitishii.html

この《 I/O Brush 》が、ディスプレイに定着していた世界を、ARという技術によって、空間に定着できるように進展させたメディアが《 World’s Palette 》だと見ることもできます。

《 I/O Brush》以後の発展

この作品の後に石井裕氏は、「タンジブル・ビット」そして「ラディカル・アトムズ」といった概念を生み出し、研究・制作を発展させていきます。

ごく簡単にこの2つの概念を紹介します。

「タンジブル・ビット」は、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を発展させた概念で、ディスプレイやキーボードを介さず、情報をフィジカルな存在として直接操作できるようにするというビジョンです。
例えば建築のシミュレーションをする際に建物や車両などを直接操作しながら街の環境や交通情報、人々の生活などをシミュレーションするようなイメージです。
「ラディカル・アトムズ」は、デジタル情報がリアルタイムで実体になり、直接操作可能で、瞬時にピクセルにも反映されるというインターフェースのヴィジョンです。

こうした石井裕氏が構想したメディアやインターフェースの未来を踏まえ、《 World’s Palette 》を捉えた時、今後ARやそれを含んだXRは、どのようなデバイスとして、どのような経験を創ることができるかという問いは、とても興味深いものになると考えます。

メディアを創造すること、ipadとアラン・ケイ

また《 World’s Palette 》はインターフェースとしてどのように表現を拡張させていくことがあり得るのかも考えてみます。
インターフェースの発明により、アートフォームが立ち上がってきた歴史があります。
例えば、近代絵画は油絵具の発明により発展しました。
油絵具が持ち運び可能になり加工が容易になったことで、キャンバスと画材を屋外に持ち出すことができたため、油絵が発達しました。

ipadは新たな絵の具の発明を目指して作られました。
その大元となるビジョンは、アラン・ケイによるダイナブック構想から始まっています。
実は、石井氏をMITメディアラボに誘ったのもアラン・ケイです。

こうしたインターフェース・マルチデバイスの発明の歴史における、現代の事例にこの《 World’s Palette 》は位置付けられるかもしれません。

そしてその線は、世界を写し、輝いていた

アラン・ケイの源流をさらに辿ると、彼の師匠であるアイバン・サザランドにたどり着きます。
アイバン・サザランドは、世界で初めてヘッドマウントディスプレイ(HMD)を発明した人物でもあります。
この時のHMDは、VRというよりはARに近く、CGの直線をメガネ越しに見られるものでした。
アイバン・サザランドは、「究極のメディアは部屋(空間)になる」という言葉を残しました。
その空間内では、デバイスでイメージした存在が実体になり、直接人間に作用してくるというビジョンでした。

この《 World’s Palette 》は、部屋の色・光をメディアとして取り出し、そしてそれを再度空間化するメディアです。
こうしたメディアは、アイバン・サザランドが構想したメディアが空間と一体になる未来に向かうその過程にある作品とも言えるかもしれません。

作者は、「俯く人たちの目線を上げ、心のゆらめきを取り戻したい」と語ります。
この作品によって、鑑賞者は自身の周りの空間を着色し、光を灯し、輝きを見つけることができます。

ぜひ体験してみてください!

この作品はSTYLY Moblieアプリを用いて簡単に体験できます。
アプリを起動し以下のQRコードを選択してみてください。
ぜひ皆さんの周りの空間でこの作品を体験してみてください。

作品QRコード

スマートフォンからアクセスしている方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。

そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

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シーン体験方法の詳細を知りたい方

ARシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。