「穴」に集まる人間から見るVRの日常性とアトラクション「THE PIT」: Dave Maggio

本記事では、NEWVIEW AWARD 2019のファイナリストで3DアーティストのDave Maggio氏の作品「THE PIT」(底なし穴)を紹介いたします。

バーチャル空間のアトラクション

the_pit_001

 
ゴツゴツとした岩に囲まれた謎の入り口。岩肌から垂れ下がっているTHE PIT(底なし穴)と書かれた看板。
その横に置かれたモニターの前でしばらく立っていると、紳士が話し始めました。

the_pit_003

THE PITへようこそ! ここには家族みんなが楽しめるプレミアムなアトラクションがあります。
おいしい飲み物やお土産、限定品のTシャツもありますよ。底なし穴のマスター、“Bloopie”は写真が大好き。ハッシュタグ#pitbloopie2019をつけてどんどん写真を撮ってね!

the_pit_004

入り口の近くでは、クールなキャップを被り、“Bloopie”のTシャツを着た人たちがたむろしています。それを横目に、いよいよ岩壁の向こう側へ入っていきます。

the_pit_005

広場の中央から頭を覗かせる、ピンクの丸い突起物。とても巨大で、なんだか不思議な動きをしています。その周囲にはたくさんの人だかり。一体あれは何なのか。人混みをかき分けて、どんどん近付いていきます。

the_pit_006

穴から出たり入ったりしていたピンクの丸い突起は、“Bloopie”の頭でした。
耳のない犬のような、なんとも不思議な顔をしていますが、笑顔で訪れた人たちを迎えてくれます。周囲の人間の身長と比べると、顔だけでも4倍はあろうかというガタイの良さ。

the_pit_007

下から見上げるとものすごい迫力。40階建てのビルくらいの高さのBloopieが、笑顔を振りまきながら俊敏に頭を振り回し上下運動を繰り返します。その穏やかな表情とは対照的な力強い動きは、独特なエネルギーと魅力を醸し出します。

the_pit_016

バーチャル空間でしか訪れることのできない謎のアトラクション、THE PIT(底なし穴)。車や電車などの交通機関は必要ありません。スマホ、PCもしくはVRヘッドセットさえあれば、今この瞬間に行けます。ぜひ一度訪れてみませんか。

VRシーン体験方法

スマートフォンからアクセスしてる方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。

そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

HMDデバイスをお持ちの方は、PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。

スマートフォン版STYLYをダウンロードする

 

 

Steam版STYLYをダウンロードする
https://store.steampowered.com/app/693990/STYLYVR_PLATFORM_FOR_ULTRA_EXPERIENCE/

Oculus Quest版STYLYをダウンロードする
https://www.oculus.com/experiences/quest/3982198145147898/

シーン体験方法の詳細を知りたい方
 VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。

アーティストについて

Dave Maggio / マッジオ デイブ(Instagram @davemaggio
3DCGアーティスト|日本
ホームページ:https://davemaggio.com/

ニューヨーク出身、東京在住の3DCGアーティストでNEWVIEW AWARDS 2019ファイナリスト。

非日常性の消失

本人コメントより:

バーチャルリアリティを利用して、新たな世界に突入できます。 しかし、VRが現代に浸透し始めている中で、結局我々はどういう世界を創り出すのでしょうか? 「THE PIT」(底なし穴)の世界は日常的でありエキゾチックでもある、 地球の果てにある謎のアトラクションです。

バーチャルリアリティの世界では、作者の思いのままにあらゆる世界を創造することができます。その世界が、例えば絵画や彫刻、漫画や映画などから創造されるものと明らかに違うのは、それを自分の身体を使って体験できることによる没入感です。

作者のデイヴは問いかけます。“”VRが現代に浸透し始めている中で、結局我々はどういう世界を創り出すのでしょうか?
それに応えるように、彼は地球の果てにある謎のアトラクションTHE PIT (底なし穴)、日常的でエキゾチックな世界を創造しました。

これはかつてVRメディアが出始めた頃の、もの珍しさからくる実験的なアプローチや、新規性を追求するアプローチのような非日常的な視点とはまた違い、彼は日常的な視点からこの世界に歩み寄り、VRメディア自体の非日常性の消失を問いかけます。

VRデバイスが、スマートフォンのように日常生活に浸透し始めたらどうなるでしょうか。例えば、休日の過ごし方はどのように変わるでしょうか。現実世界でしか体験できなかったことが、バーチャル世界で代替可能になったら、その選択肢は格段に増え、地球の果てにある謎のアトラクションTHE PIT(底なし穴)は、リアルとバーチャルを超えた日常の中に確かに存在するでしょう。

VRで独自の日常を創り出す

the_pit_009

ふと道端に目を向けると、タピオカドリンクが。誰かの飲みかけでしょうか。ちょうどメインのBloopieも見た後で、何となく喉が渇いてきたような気分も手伝い、ものすごく美味しそうに見えます。
このように、現実世界でよく目にするものがバーチャルの世界にあることで世界に対する親和性が生まれ、さらなる没入感を引き出します。こういった細部にも作者の日常的な視点からのアプローチが垣間見えます。

the_pit_010

タピオカのお店の前には長蛇の列が。自販機は見当たらないので、ここが唯一の水分補給の場所かもしれません。半袖ということは、きっとここは温暖な地域なのでしょう。
シンボリックなオブジェクトを置き、情報をミニマルにすることで、訪問者の想像力を掻き立てます。

the_pit_011

値段も強気の850円。リアルに観光地やテーマパークにありそうな価格設定です。

the_pit_015

この景色やBloopieの動きは、現実世界に存在する温泉地の間欠泉を思い出させます。※間欠泉とは、規則的または不規則的に熱水や水蒸気を噴き上げる温泉のことで、火山地域に多く見られます。
群衆や自然のモチーフが現実世界の原風景から離れすぎていないところが、アトラクションというテーマへの没入感をより強くさせます。

穴、というモチーフ

the_pit_008

この世界の中央にある巨大な穴。Bloopieが現れては消えていく不思議な穴。穴がそこにあると、覗いてみたくなるのはバーチャルでも現実世界でも同じでしょう。穴は、それ自体に何とも独特な魅力があります。穴の先には何があるのか、穴に落ちてしまったらどうしよう。穴に対する好奇心とスリルは、自然と人の心拍数を上げます。それは、このアトラクション自身の魅力と密接に関わっているのではないでしょうか。

穴をモチーフにした作品で有名なのは、『マルコヴィッチの穴』(1999、スパイクジョーンズ)。変わった職場に転職した夫がオフィスで見つけた穴が、俳優のジョン・ホレイショ・マルコヴィッチ(実在する俳優)の頭の中と繋がっているというストーリーなのですが、穴というモチーフがとてもミステリアスに、そして奇想天外に描かれています。また、穴それ自身について学問する本『失われたドーナツの穴を求めて』(2017、芝垣亮介、奥田太郎)ではドーナツの穴に関して歴史学、経済学、工学、哲学等様々な学問の観点から穴を考察しています。

人の想像力を無限に掻き乱す、何とも厄介で魅力的なモチーフである穴。Bloopieと穴の関係性や行動は、訪問者の好奇心をくすぐり、不思議な気持ちにさせ、それはまさに最高のアトラクションです。

お土産が欲しくなる

この世界を一通り巡ると、お土産のTシャツが欲しくなるほどの没入感に気付きます。本当にそこに行ったようなリアルさは、バーチャル空間が日常へ拡張されつつある現在の進化の時代を反映していると言えるでしょう。そんな中で私たちはどのように新しい日常を捉えていくのか、それについて考えさせられる作品です。