VRのトマソンによって描き出される未来のファサードと都市「Phosphorescent City」:Kazuki Motani

《Phosphorescent City》

《Phosphorescent City》は2021年に発表された、「光」の観点から未来の都市を想像するVR作品です。
本作品はNEWVIEW AWARDS 2021にて、SILVER PrizeとSUPER DOMMUNE Prizeに選出されたダブル受賞作品です。
Phosphorescent」は、燐光を発するという意味で、この作品では太陽光を蓄光し、長時間にわたって発光する物質の特性を示しています。

《Phosphorescent City》


《Phosphorescent City》

作品は以下から体験できます。

VRシーン体験方法(本作品はHMD/VR体験を推奨)

HMDデバイスをお持ちでPCからアクセスしてる方は、以下の「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください
(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。

Steam版STYLYをダウンロードする
https://store.steampowered.com/app/693990/STYLYVR_PLATFORM_FOR_ULTRA_EXPERIENCE/

Oculus Quest版STYLYをダウンロードする
https://www.oculus.com/experiences/quest/3982198145147898/

シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。

作者による作品の説明

2045年、都市部では大量電力消費に対する環境的責任から、ソーラーパネルを登載するビルが一般的になった。そんな中、蓄光の基底状態への電子遷移を任意時間遅延させる技術が開発された。この技術を使用した建築ファサード用蓄光塗料「Phosphorescent Surface」の登場によって、日中の太陽光を吸収したファサードを、夜間に光源として使用することが期待されている。

このような未来においては、電力を光に変換する従来式の街灯やソーラーパネルは、無用の長物となるだろう。「Phosphorescent Surface」が普及する都市に佇む街灯やソーラーパネルは、大変ユニークなトマソンと言える。

本作品では、本技術を実験的に導入した未来の都市「Phosphorescent City」に没入する。街灯やソーラーパネルがトマソンと化し、ファサードが光源と化す、あり得る未来の都市を体験して欲しい。

KAZUKI MOTANI
Speculative Urban Designer |Japan
1995年愛知県生まれ。横浜国立大学 理工学部 数物電子情報系学科 電子情報システムEP卒業。東京大学大学院 学際情報学府 先端表現情報学コース修了。大学在籍時は信号処理を研究しつつ、結婚式場での映像制作、MVの監督・撮影・編集を経験。大学院ではスマートフォンを用いた屋内測位と行動認識を研究しつつ、インスタレーション制作や都市デザインの企画立案を経験。受賞歴にWIKITOPIA INTERNATIONAL COMPETITION 最優秀賞、IEEE GCCE2019 Excellent Paper Award Bronze Prize、SONY U24 CO-CHALLENGE 2020 ファイナリスト。出展歴に東京大学制作展、SICF20。都市と人をつなぐテクノロジーとアートの可能性を追求するために、スペキュラティブ・アーバンデザイナーとして活動。併せて都内の総合ディベロッパーで勤務。

《Phosphorescent City》を構成する要素

《Phosphorescent City》をより理解するために、そのコンセプトに取り入れられている現代アートや建築の概念について考察します。

Keyword①「トマソン」

《Phosphorescent City》は、トマソンという芸術の概念を端緒に構想されています。
トマソンとは、赤瀬川原平という現代芸術家が発見した概念で、都市や不動産などに見られる、機能や直接的な意味を持たないが、美しく保存されている場所のことです。
例えば、地面や次の階に接続していない階段や、何の下も通過するわけではないトンネルなどのことです。

現在、VR上に3DCGで造られる街は、どこか現実の街と違和感を感じさせます。
機能的にというよりは、そこが街であるということを視覚的に示すためだけのビル群や、点灯しない照明、タイヤの回転していない車など。
そうしたVRならではの景色を、現代アートと重ね合わせ着想された作品になっています。

Keyword②「ファサード建築」

ファサードとは「建物の正面」を意味するフランス語由来の建築用語です。これは、英語のfaceと同じ語源から派生した言葉です。
建築物の正面側のデザインを指す言葉で、建築物で最も目立つため都市の形成に大きく関わるため設計において重要視されます。

またファサードは建物自体の意匠を特徴的に示す場合も多く、その建物がどんな思想や文化において、どんな空間を作ることを意図して造られたかを、象徴的に表す場合が多いです。

蛍光塗料と蓄電により、街灯とソーラーパネルが不要になった先に、建築の形がどのように変わるのかを、表面的にだけでなく、生活全体と建物全体が変わるだろうことを《Phosphorescent City》は示しています。

Keyword③「VRならではの詩的な表現」

《Phosphorescent City》は太陽光を受け、その光を夜まで紡ぐ都市です。

作品内の都市の建築はさまざまな色の蓄光塗料で塗られ、カラフルに輝いています。

この都市では、かえって影がもつ存在感が力を増しています。
日中に壁に当たるはずだった光を遮ったものの輪郭を蛍光塗料が記憶している様が、そこに日中にいたであろう何者かの不在を強調します。

また、街の中の街灯は直接的に描写されていません。
それどころか、伝統的な照明の姿をしたランプは、巨大な姿で上空に浮き回転しています。
見る必要がなくなったトマソンとしての街灯は、もはや人々の意識下になくなり、見つけ出せなくなっていることを示しているかのようです。
その都市の上で、過去の残骸の象徴は空転を続けています。

《Phosphorescent City》

都市の未来を想い描く

「無用の長物」と化していく街や機能

《Phosphorescent City》で行われている、都市の未来を思い描くとはどういうことでしょうか。
ポストモダン文学に大きな影響を与えた、ホルヘ・ルイス・ボルヘスは、以下のようなテキストを残しています。
この文章の「無用の長物」という箇所は、《Phosphorescent City》の作者による解説と重なります(スアレス・ミランダはボルヘスが想像した架空の著者)。

⋯⋯あの王国では、地図学は完璧の極に達していて、一つの州の地図はある都市 全体の、また王国の地図はある州全体の広さを占めていた。時代を経るにつれて、それらの大地図も人びとを満足させることができなくなり、地理学者の団体 は集まって、王国に等しい広さを持ち、寸分違わぬ一枚の王国図を作製した。地図学に熱心な者は別にして後代の人びとは、この広大な地図を無用の長物と判断し、やや無慈悲の感があるが、火輪と厳寒の手にゆだねた。西方の砂漠のあち こちには、裂けた地図の残骸が今も残っているが、そこに住むのは獣と乞食たち、国じゅうを探っても在るのは地図学の遺物だけだという。

―スアレス・ミランダ『賢人の旅』(レイダ、一六五八年刊)の第四部、四十五章より。
『創造者』(J・L・ボルヘス作/鼓直訳)岩波文庫所収

現在の我々が欲望して作り上げる都市は、技術革新とともにその欲望が形を変えるたびに、スクラップアンドビルドで作り替えられています。
10年後、30年後、100年後、あるいはもっとその先、都市はどんな姿を見せているでしょうか。
未来の都市の姿をVR空間で見られる風景から想像するきっかけを《Phosphorescent City》は与えてくれます。

SFプロトタイピング

逆に、近年「SFプロトタイピング」と呼ばれる、新たな都市や社会の未来を描き実装する思考法も注目を浴びています。
SFプロトタイピングは、SF作品で描かれるような機械や社会システムの想像力を、実際の製品の企画に活かして構想する手法です。
例えば、携帯電話や自動運転、3Dプリンターなど、SF作品によって描かれた製品が現在、作り出されています。

《Phosphorescent City》はこうしたSFプロトタイピングとしての作品として、都市の照明や太陽光発電と建築や生活の可能性に示唆を与えてくれます。

《Phosphorescent City》は照明と発電の観点から、未来の都市を構想し直すのにあたり、さまざまな観点を与えてくれるVR作品です。

VRシーン体験方法(本作品はHMD/VR体験を推奨)

HMDデバイスをお持ちでPCからアクセスしてる方は、以下の「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。

スマートフォンからアクセスしてる方は、上記の「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください。
*スマートフォンでは作者の意図した体験を再現できない場合があります。

クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。

そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

Steam版STYLYをダウンロードする
https://store.steampowered.com/app/693990/STYLYVR_PLATFORM_FOR_ULTRA_EXPERIENCE/

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https://www.oculus.com/experiences/quest/3982198145147898/

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シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。