VRに生まれる民間信仰と伝承される思い出「バーチャル供養堂」:Seira Uchida

《バーチャル供養堂》というVR作品を紹介します。

自らをポストインターネット時代の「ベンダー(製造元・販売元の意)」と名乗る内田聖良によって、VR作品《バーチャル供養堂》は制作されました。本作は現代において急激に変化するデジタル上のレディメイドをモチーフに、現代人の文化や記憶を頼りにしながら新たなコミュニケーションを模索します。VR上で土着の信仰を、まるでもともとそこにに根付いていたかのように語られる物語と、そのお堂で培われてきた民間伝承を味わえる本作を解き明かしていきます。

《バーチャル供養堂》紹介動画

作品キャプチャ

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》


《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

 

《バーチャル供養堂》

作家による作品のステートメント

ここはバーチャル供養堂。記憶や感情のこもった、捨てられないモノが保存(奉納)されている。バーチャル供養堂は、様々な記憶や感情が炎上の危機にさらされ、他人と会うことが禁忌となった時代の、あたらしい民間信仰のための、お堂である。

現代は、フィルターバブルや、エコーチェンバーなどが生まれ、人々は考え方の異なる他人と関わり記憶や感情を打ち明けることを避け、さらにコロナウイルス感染症の影響により、そもそも他人に会うこと自体が禁忌となった。また、日本社会では家父長的な考えや戸籍制度など「家制度」の名残が根強く残っており、弱みは人に見せず身内でケアすべきという風潮が強い。こうした現状に古くからある地蔵信仰を現代的に展開する新しい民間信仰団体「バーチャル供養講」をつくり、他人と記憶や感情がこもった物に出会い、知らない人をケアしたり、共存したりする、新しい「身内」、「家」のかたちを模索する。

この活動は、新しい民間信仰であるため、展覧会等で作品として発表するだけではなく、社会的に機能するものとして発展していく。バーチャル供養講の供養受付システムや活動に関する情報は https://sesseee.se/VMA/ にて随時紹介される。

内田聖良

内田聖良
作家、ベンダー(Bender) |Japan

内田聖良はコンセプチュアルパフォーマンス・アーティスト、リサーチャーであり、ポスト・インターネット時代のサーキット・ベンダーと名乗る。AmazonやYouTubeなど既存のシステムを用いながら、それら回路の秩序を変容させてしまうようなアプローチを行い、日常生活に浸透する価値観や与えられた使用法に問いを投げかけている。

東北に移り住んだことにより、人の欲求と文化の結びつきに興味を持ち、その現代的なあり方について研究・制作している。現代の民話のあり方を探る《バーチャル浜》、書き込み等がついた古書を、読者が製作した「一点物の価値ある本」と再定義し流通させる《余白書店》運営。主な展覧会やプロジェクトに、2020年〜「TRANS BOOKS DOWNLOADs」(オンライン)、2019年「SICF19 Winners Exhibition」(スパイラルホール、東京)など。

VRによって息を吹き返す、モノにまつわるドキュメンタリー

《バーチャル供養堂》は「記憶や感情のこもった、捨てられないモノが保存(奉納)」されています。これらの供養されたモノにまつわる記憶やエピソードが供養者によって残され、そのテキストと音声がバーチャル供養堂のVR空間にこだましています。

フォトグラメトリという、物体や地形を3DCGで保存できる技術によってバーチャルな存在になった供養物は、お堂の中の空間に浮かんでいます。

《バーチャル供養堂》

バーチャル供養堂は、直接的に誰かを描写するドキュメンタリーではありません。しかし、ある供養物にまつわる物語が、その供養物を扱ってきた人物や家族を想像させ、現代の日本をモノにまつわる物語として切り取り保存しています。

《バーチャル供養堂》

供養されるものに見出される幽霊のような存在感

供養されているモノには、どこか魂が宿っていたり、持ち主の体温の情調がまだ残っているような雰囲気を受けます。

《バーチャル供養堂》

それはフォトグラメトリによって撮影された際に生まれた撮影場所の光や撮影者の手グセなどオブジェクトの温かみ、また供養物が直接語りかけてくるような空間設計によって成り立っています。

日本のモノに霊性を見出す百鬼夜行の価値観を現代的に生み出しているようにも感じられます。

青森の民間信仰のリサーチに基づいた作品

こうした《バーチャル供養堂》の視点や感性が生まれている一つの理由は、この作品が日本の民間信仰へのリサーチを元に着想された作品だからでしょう。青森県の川倉地蔵尊という地蔵寺の、人形堂の人形供養を作品のモチーフとして本作は制作されています。

川倉賽の河原地蔵は五所川原市のHPにて以下のように紹介されています。

川倉賽の河原地蔵は、芦野公園北東部の小高い丘にあり風光明媚な景勝地にあり、下北半島の恐山と同様にイタコの霊媒が有名で、地蔵堂内とそのまわりには大小約2,000体のお地蔵様がまつられています。

言い伝えでは、数千年前、この地方の天空に不思議な御燈明が飛来した時、その光に照らされた場所から発見された地蔵尊を安置したのが始まりといわれています。

旧暦6月22日から24日までの例大祭には県内外から多くの参詣客で賑わい、哀調を帯びたイタコの“口寄せ”に聞き入り涙を流す人々の光景が見受けられます。

お地蔵様(地蔵菩薩)は、日本において胎児や水子などの供養のために墓地に置かれていたり、道祖神と似た役割で街の周辺にある道などで厄除けの願いを込めて配置されています。

日本における信仰として、親より早く亡くなってしまった子供は三途の川の賽の河原で石を積み続けなければいけないとされています。そうした苦しみを抱えた子供たちを救った存在としてお地蔵様が日本では信仰されています。

さらに津軽半島には特有の信仰があります。子供や若者が亡くなったあと、結婚適齢期になった時に結婚相手を与え「冥婚」をさせる風習です。

これは、正常な生を全うしていない存在として祟りを成す魂にならないよう始まったという説や、自分たちの子供たちを失った悲しみや子供への思いを形にするために始まったという説があります。

こうして祀られた人形たちや道具たち、そしてそこに込められた供養の願いを着想の起点に《バーチャル供養堂》は制作されています。

《バーチャル供養堂》

《バーチャル供養堂》のユニークさ

《バーチャル供養堂》は、特にコロナ禍において身体的接触やコミュニケーションが希薄になった状況でのケアを模索します。

モノが持っていた記憶をバーチャルリアリティ上で蘇らせることにより、そのモノに囲まれる空間に入ると、複数の思い出に誘引されます。自分自身がさまざまな思い出が積み重ねられた場所や、エピソードを旅しているような気分になることができます。

東北で、倉庫や納屋、小物入れや箪笥を開けて、思い出を伴った民芸品と出会った時に感じるような生活の痕跡を感じさせます。

現在のソーシャルネットワーク上では生まれない身体感覚を伴ったコミュニケーションが、ここではないどこかへ鑑賞者を連れて行ってくれる点で、VRならではの作品に《バーチャル供養堂》はなっています。

これは柳田國男が指摘した民族資料の「心意現象」としての機能をまさに果たすものでしょう。

ところで、〈民俗学〉と〈アート〉について考えるにあたり、〈民俗学〉が対象とする〈民俗〉とはいったい何かについて、あらかじめ説明しておいたほうがいいだろう。

柳田国男の『民間伝承論』『郷土生活の研究法』をもとにした『民俗学辞典』(民俗学研究所編、1951)の分類案では、民俗資料を3つに分類し、第一部「有形文化」、第二部「言語芸術」、第三部「心意現象」とする。

このうち「有形文化」とは、住居、衣服、漁業、林業、農業、交通、家族、婚姻、誕生、葬制、年中行事、神祭など、「言語芸術」は命名、言葉、諺・謎、民謡、語り物、昔話、伝説、「心意現象」は妖怪・幽霊、兆・占・禁・呪、民間療法などである。

(引用:https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/Folklorestudies_and_art)

 

《バーチャル供養堂》

作者の《バーチャル供養堂》の展開

《バーチャル供養堂》を発表後、本作を用いたパフォーマンスや、より土地に紐づいた奉納の方法を作者は発展させています。

「バーチャル供養講」お堂開きパフォーマンス

青森のレジデンスのプログラムの発表として、VRゴーグルを着用しながらバーチャル供養堂をお開きする舞のパフォーマンスを行っています。

VR舞:内田聖良

音楽:北條知子(縄文琴、笛)、村上綾(打楽器、笛)

撮影:渡邊拓也

編集:内田聖良

会場:国際芸術センター青森 展示棟ギャラリーB

青森公立大学 国際芸術センター青森[ ACAC]

アーティスト・イン・レジデンスプログラム2021

バーチャル奉納ツアー〜精神の脱皮編〜

富士山信仰における胎内めぐりという山岳信仰をモチーフに、富士山に思い出の品を奉納する作品を発表しました。

こちらの作品は現在もSTYLYにて公開されています。

富士山信仰を現代版にアップデートする、体験型アート作品

 

450年以上前から富士山は神の住む山として畏れられ、富士山を御神体として崇める山岳信仰「富士山信仰」が生まれました。富士山信仰に入信しているグループ「富士講」は、登頂達成の記念やお礼に様々なものを奉納したという歴史があります。今回のツアーでは、その富士山信仰にまつわる歴史をベースに、アーティスト内田聖良と富士山信仰に携わる御師のゲストハウスがつむぎだす、新たな物語の世界へみなさんをいざないます。

イベント詳細ページ(イベントは終了)

ぜひ《バーチャル供養堂》のVRならではの体験を堪能してみてください。

VRシーン体験方法

スマートフォンからアクセスしてる方は、そのまま「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。
シーンを体験する

クリック後、以下の画面が表示されます。
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そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

HMDデバイスをお持ちの方は、PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。

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シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。