VRで神話を立ち上げることを目論む時、彼女は何を見たか?「Myth Building」

《Myth Building》を紹介します。

《Myth Building》は、カナダのCGアーティストによって制作されたVR作品です。神話的なモチーフを多く取り込みながら、彫刻のような3DCGのみで世界観を構成しています。VR作品やゲームを制作していると、インタラクションやオブジェクトの動かし方に目が行きがちですが、インタラクションを用いない作品でも十分に鑑賞者を包み込み強度ある体験が作れることを気づかせてくれる作品です。本作はNEWVIEW AWARD 2018Finalistにノミネートされました。

 

《Myth Building》

 

《Myth Building》


《Myth Building》

《Myth Building》


《Myth Building》

作品のステートメント

「Myth Building」はオカルトや神秘学の深淵さを推し量りつつ、我々の集合的無意識に埋め込まれた象徴の探究を行う。この世のものとは思えない領域に存在し、深い信念に吊り下げられ、新しくも古い心的イメージ、物語、そしてその普遍性をこの作品は表現している。ポンペイのように、世界は凍りつき停止/杜絶している。傷心の時の流れに囚われた意味の探求はついに、単なる荒廃を超えて芸術的、瞑想的そして精神的な活動から浮かび上がる文化基盤に新たな意味を発見する。時代を超越した物語や豊かな賞賛が魂を寿ぐだろう。

STYLYのバーチャル空間に囲まれた「Myth Building」という作品は自身の経験としての旅程を視覚的に表現したものだ。STYLYはギャラリーの代わり映えしないホワイトキューブとは異なった形で彫刻像の容器としての機能を果たす。それは仮想の彫刻の庭において完全な没入を可能にし、アバターへの密接な探索を実現する。

TRU_ ERIN ELMORE

TRU_ ERIN ELMORE
TRUは、人間とテクノロジーの交差点を研究するニューメディア・アーティストである。NFT、アニメーション、インスタレーション、印刷物をベースに、死生観、テクノロジーの進化、そしてほとんど電子画面によって媒介される私たちの新しい見方についての問題を探求している。 

「サイボーグやA.Iのような典型的な人物の出現により、私たちは自然とテクノロジーの間の古くからの存在論的なギャップに疑問を投げかけられ、私はこの精神的な交差を最も魅力的だと感じています。」-TRU
https://www.truart.me/aboutより

コンピューターグラフィックスによる神話

《Myth Building》は作品を開いてすぐに、ある神話の一場面を凍らせたようなCGたちが鑑賞者を包み込みます。

《Myth Building》

人物のモチーフは女性が中心です。蛇や雌ライオンと戯れるもの、雄ライオンに後頭部から噛みつかれるもの、くつろいだ姿勢でノートパソコンを扱うものや、神のように天を仰ぐものなどがいます。

これは作者がステートメントで述べたように、作者自身の瞑想や芸術の活動を通した精神的な活動のなかで現れた作者自身の自己像でしょう。

《Myth Building》

神話をモチーフにした教会や建築、例えばパルテノン神殿などでは、神話におけるさまざまな登場人物のモチーフが扱われ、それぞれ状況により衣類や道具を持っていることが多いです。

本作においてはまさに赤裸々な作者や、Tシャツなど日常的なシーンの作者が神話に登場しているような格好になっています。

《Myth Building》

本作のCGにおいて、オブジェは造形的なクオリティの高さにより、存在感を高く持っています。

これは作者が本作を彫刻をVR空間に展示するという観点で制作していることからも意識的な工夫として行われていることがわかります。

《Myth Building》

近代彫刻の父と呼ばれるロダンは「彫刻は自然光の元で展示するのがもっとも良い」と言いました(引用元:「肉体の迷宮」谷川渥,2013)。
作者はホワイトキューブとの比較で、CG空間内においてオブジェクトがいかに光を浴びているのが良いのか考察し、VR空間だからこその光や空の色の設定を行っているように見受けられます。

VRにおけるインタラクションや動くオブジェクト

《Myth Building》はオブジェクトが空間内に乱立しているだけで成り立っています。

《Myth Building》

VR作品はUnityなどゲームエンジンを用いて制作されることから、直感的にゲームのように作ることや、映像のようにイメージを提示することから作品作りを考える場面が多いように思われます。

こうした体験作りは時に鑑賞者のVR作品内での体験を方向づけすぎたり制限を生むことにもなりえます。
例えば、鑑賞者が自分のペースでVR空間を回遊できない不自由さや、せわしなさを産んでしまうことがあります。

この《Myth Building》では、動きやインタラクションを持っていません。
それゆえに、鑑賞者は特定のインタラクションに鑑賞の歩調を合わせなくても、自分のリズムや視点を保ちながら作品を鑑賞することができます。

《Myth Building》

これにより、《Myth Building》は美術館で絵画や彫刻、インスタレーションなどを鑑賞する感覚に、鑑賞者を巻き込むことに成功しています。

十分な物量のCGと、それらが含む物語を喚起させる力を加味した時、むしろオブジェクトに動きを与えない表現によって、オブジェクトの力強さに余裕のある印象を付加させています。

オートフィクションとしてのVR

この作品は、作者が自身の言葉において説明するように、無意識的な観念や神話において扱われるモチーフを扱い、神殿的な空間を作り出しています。

《Myth Building》

VR作品を作り出す時、初めは世界には何も存在しません。地面や空といった環境も、登場させる人や物も、作者自身が作り出す必要があります。
それゆえ、作者が何をベースに世界を捉えているか、どんな感情で、どんなモチーフを扱うかによって、VR作品は変化します。

これはある文章を読んだ時に「ある男」という言葉から連想するのが、老人か青年なのか、欧米人か日本人かそれ以外の国の人物なのかといったイメージの違いのようなものです。そうしたイメージの違いが、例えば空や土の色、人間の体格や仕草、時間の進み方や、VRという言葉の意味まで、それぞれに反映されるのがVR作品の面白さの一つでしょう。
宮沢賢治はこうした観点で自身の詩文を書く営みを「心象スケッチ」と呼びました。仏教では自らの認識によって構成する世界を唯識という概念で説明します。

こうした表現は、小説のジャンルでは「オートフィクション」と呼ばれることもあります。
オートフィクションは、一般に作者自身の人生の現実の物語と、作者が思うフィクショナルな物語を重ね、自身の特徴について言及しながら編まれた文章です。
VR作品を作るときや、自ら3DCGを創って空間を作るときに、作者の持っているさまざまな概念がそこに反映されます。

こうした自身の神話や無意識へのイメージを世界として立ち上げることを目指す一つの形が《Myth Building》でしょう。

《Myth Building》

みなさんは、神話や無意識といった言葉に形や色を与えてイメージにするなら、どのような光景が思い浮かぶでしょうか?そして、もしそれをVR作品として空間に展開し、イメージを人に見えるようにするなら、どのような形になるでしょうか?

《Myth Building》

そうしたあなたの世界観と照らし合わせながら《Myth Building》のディテールと、あなたの世界のディテールを見比べてみてください。

《Myth Building》

 

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Edited by SASAnishiki