時間と存在を、VRとして問い直す「short moment of dream awake」:WANG, BO-YANG

この記事では3Dアーティストの「WANG, BO-YANG」さんの作品「Short moment of dream awake」について紹介します。

Taiwanから参加したWANG, BO-YANGさんの紹介から、作品について「存在」と「時間」をキーワードにして読み解きます。

 

WANG, BO-YANGさんについて

WANG, BO-YANG

2006年美術学科卒業。彫刻家、自動車モデラーを手伝った後、現在、AR / VR会社で3Dアーティストとして働いています。

(NEWVIEW 公式サイトより引用 https://newview.design/works/short-moment-of-dream-awake/ )

キャリアとしての3D、VR/ARとは別に、個人での「VR/AR」を使ったアート作品の表現として、今回の作品が発表されました。

アーティストとして、VR/ARをどのように解釈し、「時間」や「存在」をテーマに作品を展開しています。

作品を読み解き、より深く鑑賞できるようになりましょう。

Short moment of dream awakeについて

時の現れ

作品を起動すると、無機質な空間が眼前に広がります。

抽象的な空間には、記号となるであろうオブジェクトが存在します。そのオブジェクトを観察することがこの作品の鑑賞体験となります。

無機質

記号となるオブジェクトは複数あります。

一つは白いキューブ群。ある一定の時間が経過すると、キューブが落ちる仕組みとなっています。

キューブ

そしてもう一つは特殊形状のオブジェクト。等速で回転し、影によって光の当たり方が変化します。

特殊形状

この二つは何を意味する記号でしょうか?

読み解くアイテムは、作者のステートメントと、空間内に配置されているテキストです。

作者はこの作品のステートメントを以下のように記しています。

この作品は、この不安な時代に触発され、時間と人生についての多くの比喩を使用しています。
重力と無重力の間で、静かで同時に世界に注意を向ける、孤独とゆっくりとした雰囲気を作りましょう。
存在の意味を考えてください。

(NEWVIEW AWARDS 2021 公式ホームページより引用 https://newview.design/works/short-moment-of-dream-awake/ )

この作品自体は、時間や存在などをテーマに「XR」として捉え直し、鑑賞者に問いかける作品となっています。

そして、もう一つが空間内のテキストです。カーブ上のオブジェクトの下に映像としてテキストが流れています。

テキスト

テキストは以下のように書かれています。

does it exist ? 

“Time”

What will it looks like
if time is visually

 

image it like these curves
sometimes it looks clear
sometimes it looks blur
morphing ,and cycling

when everything changes
that’s the shape of time

日本語訳

“時間” は存在しているのだろうか?

時間が視覚化されるのであれば、それはどんな見え方なのだろうか

(テキストの上を回転する)この曲線上のオブジェクトをイメージしてみてください
鮮明に見えるときもあれば、ぼやけているときもある
変形したり、回転することも

万物が変化するとき、それは時間の現れだ

(VRシーンのテキストより引用 https://gallery.styly.cc/scene/00d4add7-a40f-4519-ac40-90f9b17a0240 )

作者はオブジェクトの影の当たり方を「万物の変化」に喩えています。

ここで想起されるのが「日時計」です。

日時計(イメージ画像)

日時計は、太陽の日周運動を利用して、影の位置を図り時間を測る時計です。

日時計は人類最古の時計とも言われています。時間を可視化する行為として最も原始的な方法となります。

作者は曲線上のオブジェクトを日時計に見立てて「時間の可視化」について捉えています。

そして、キューブのオブジェクトは落下することによって時間を可視化させています。これは「砂時計」を彷彿させるものです。

砂時計(イメージ画像)

時間が存在するとはどういったことなのだろうか、という問いに対して、その方法の一つである「可視化」を例に挙げています。

加えて作者は「when everything changes that’s the shape of time」と綴っています。つまり、万物の変化こそが「時の現れ」とも称しています。

時間

私たちが思い描く時間は「時計」が多いでしょう。

時計(イメージ画像)

時計は「時間」を「計る」機械です。

つまり、時間そのものではありません。時間という概念を可視化させる方法の一つです。

「時の現れ」は時計だけではない、と作者は伝えています。万物の変化、つまり、あらゆる森羅万象の現象こそが「時の現れ」と捉えられるのではないでしょうか。

私たちは老化し、いつか死を迎える。植物や動物もまた同じように。森羅万象、あらゆるモノや現象は変化をしている。

EVERYTHING(イメージ画像)

WANG, BO-YANGさんは、VRのシーンを使い、ナラティブとオブジェクトの構成によって、「時の現れ」を新しいメディアとして探求する試みを行っているのではないでしょうか。

シンプルなオブジェクトで構成されたシーンは、情報量も洗練されており、自己内省的な空間にもなり得ます。

ハイデガー「存在と時間」

シーン内に配置されている「遺体」について記述します。

シーンの中央に「遺体」が配置されています。これは時間や存在とどういった関係があるのでしょうか。

遺体

この記号を理解するには、20世紀の哲学者「ハイデガー」の著書「存在と時間」について触れる必要があります。

しかし、「存在と時間」自体はとても難解な内容です。その一部を解説した記事等を引用して、シーン内の「遺体」について説明します。

ハイデッガーの「存在と時間」には、「死への先駆」という概念があります。

もし自分の存在の可能性を本気で気づかうならば、現存在は、ひとつのことを見すえざるをえなくなる。己の死である。いずれ確実に自分の存在そのものが不可能になる。死を運命として自覚的に受け入れることを「死への先駆」と呼ぶ。実際に死が訪れる前に、死の方へ先走っていき、そこから自分の人生をとらえ返すからだ。

好書好日 大澤真幸 :「死」から人生をとらえ返す ハイデガー「存在と時間」( https://book.asahi.com/article/11581488 )

また、「死への存在」という概念もあります。

ハイデガーの初期実存哲学の主要概念。ハイデガーはキルケゴールの『死にいたる病』 (1849) に説かれた無の不安の分析をうけて,それを実存論的に解釈し,無が人間存在においては具体的様態として現れることを説いた (『存在と時間』 1927) 。すなわち死は生物に本質的に属するものであり,世界内存在である人間存在の根拠である無の現象である。人間がこの死を気づかずにいるとき,彼は非本来的自己,無人称的人間とされ,これを運命的覚悟性として引受けるとき本来的自己となり,人間的自由,人間的責任を覚知する存在になるという。

コトバンク:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「死への存在」の解説 ( https://x.gd/Pax6W ) 

我々の社会は近代化によって、多忙により本来の自己と向き合う時間を失い、死を自覚しない存在となってしまいました。

Short moment of dream awakeに配置された「遺体」は、「死」の記号と解釈できるのではないでしょうか。

その「死」を自覚することによって、可視化された「時間」に没入し、究極的に自分という「存在」に問いかけてきます。

VRは現実に対してオルタナティブな空間を提供することができます。

このシーンは、情報量が少なく、全体的にシンプルで洗練された空間です。対して、私たちが生きる社会は情報量にあふれています。

その情報量の多さによって、私たちは「死」に向き合う機会を失ってしまいました。

Short moment of dream awakeは「死」と「時間」そして「存在」を体験する空間として、現実の対比として位置付けられます。

改めて作者のステートメントを読んでみましょう。

この作品は、この不安な時代に触発され、時間と人生についての多くの比喩を使用しています。
重力と無重力の間で、静かで同時に世界に注意を向ける、孤独とゆっくりとした雰囲気を作りましょう。
存在の意味を考えてください。

(NEWVIEW AWARDS 2021 公式ホームページより引用 https://newview.design/works/short-moment-of-dream-awake/ )

情報量が少ないことこそが、この作品の強いメッセージとなっています。

この解説記事を読んだうえで、是非シーンを体験してみてください。

 

VRシーン体験方法(本作品はHMD/VR体験を推奨)

HMDデバイスをお持ちでPCからアクセスしてる方は、以下の「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください(※初めての方は以下の説明もご参照ください)。

PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。

スマートフォンからアクセスしてる方は、上記の「シーンを体験する」ボタンをクリックしてください。
*スマートフォンでは作者の意図した体験を再現できない場合があります。

クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。

そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。

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シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。