この記事ではNEWVIEW CYPHER 2021に参加したアーティストの「TOMORO KINOSHITA」さんの作品「Shrink」についてレビューをします。
NEWVIEW CYPHERはXR活動以外の場で活躍するアーティスト・クリエイターがSTYLYを使ってXRを制作するプロジェクトです。
12名のアーティスト・クリエイターが参加し、そのシーンのレビューをPick Up Sceneで取り上げていきます。
今回はイラストレーター/アーティストの「TOMORO KINOSHITA」さんの作品です。
TOMORO KINOSHITAさんについて
3DCGとイラストを融合させた映像やアートワークを制作している。
作品はポップでサイケデリックな色彩と奇妙な見た目をした生物で構成され、視聴者の目を引き止める表現を持ち味としている。
もともとイラストから始めた制作活動であったが、この世界観により没入感覚を取り入れたいと考えXRを使用した表現をはじめた。
雑音を排除した思い描いた空間の表現方法を探っていきたい。
Twitter : https://twitter.com/ROWROW_tt
Instagram : https://www.instagram.com/rowrow_t/
TOMOROさんはサイケデリックな世界観をベースに、さまざまなキャラクターや空間を構築してきました。以下の記事で過去の作品についてのレポートがまとまっています。
過去の作品を踏まえて、より高い次元から作品を紹介したいと思います。
“Shrink”について
ヘッドマウントディスプレイを装着しシーンを起動すると、ドームのような空間が広がっています。
その世界は少し狭い場所です。
あたりを見回すと、TOMOROさんの特徴が現れたカラーリングのキャラクターたちがいます。
黄色と緑が基調の世界を鑑賞します。
鑑賞するには首を前後左右に動かし、あたりを見回す必要があります。
作品の空間自体がとても狭い空間であるため、移動を必要としません。
空間内の穴を覗き込むと、下から私たちを観ているモンスターの顔が見えます。
そしてドーム内には一人だけ、ドームの外側を観ようとしている人がいます。
ドームの外側に無理矢理出てみると、そこには巨人がドームを囲んでいます。
覗き込むモンスター、外を観る人、巨人たち。
これらの空間に配置された記号を基に、自分は「Shrink」をVRのメタ的な構造を示唆している作品なのではと考えました。
そもそも、VRは視覚情報を基軸とした空間作品を体験する鑑賞装置・システムです。それにより、鑑賞者自身が固定で決められた「画」を鑑賞するのではなく、意思を持って自分の観たい「画」を探す体験をします。またSTYLYのようなゲームエンジンベースのVRは移動やインタラクションが組み込まれ、主体性が強化されます。
仮想世界上においては、主体性を持ちながら鑑賞者のゴーグルを装着した姿は、その奇抜性から周りの人(他者)はその可笑しさを鑑賞したり、SNSにアップロードしたりする様子が見られます。作者自身も過去に展示をしたときに、インスタグラムのストーリーなどでVRの鑑賞者をシェアする人たちが多く見られました。
この2つのレイヤーを俯瞰すると、「鑑賞者は仮想世界(VR上)では主体でありながら、現実世界では客体と化している構造」となっています。
そして、TOMOROさんの作品は、その構造をメタ的に構築しているのではないでしょうか。
鑑賞者はドームの中に配置されているモンスターやオブジェクトの一つとして登場します。
そして、ドームの外部には巨人や覗き込むモンスターが存在します。
仮想世界にアクセスした鑑賞者は主体でありながら、ドームの外から鑑賞されている客体の存在です。
その巨人は、現実世界における他者と重ね合わせることができます。
この構造こそが、VRによる主体と客体の重ね合わせではないでしょうか。
VRはコンテンツを鑑賞するメディアデバイスであり、TOMOROさんの過去の作品の多くも、作家の世界観を空間的に創造し、その空間を鑑賞するのが主要な体験でした。
しかし、メディア論的に考えるとVRというデバイスが持つ身体性や、そのシステムを客観視することで、鑑賞装置の域を超えた文脈が芽生えます。
鑑賞者の状態が変容し、その状態が仮想空間と現実空間の境界を浮遊している状態のように考えられます。
VRデバイスの脆弱性により仮想空間での不自由性を感じ、現実空間では視覚が奪われて身体性が奪われる。
それらの負の面を表象するかのようなサイケデリクスなTOMOROさんのカラーリングが目の前に広がっています。
Shrinkは、TOMOROさんの世界観と、VRのメディア性や身体性をサイケデリクスに表象しながらメタ的に捉えたVRを再構築した作品ではないでしょうか。
それはTOMOROさんのイラストレーター・アーティストの側面を補完しながら、VRデバイスへの向き合い方を体験する作品と言えるでしょう。
シーン
TOMOROさんの作品をメディア論的に捉えることによって、彼の持つ世界観を多角的に捉えられるのではないでしょうか。
上記以外の観点のみならず、じっくりと鑑賞することで新しい発見があるかもしれません。
- スマートフォンから体験する STYLY Mobileをダウンロードし、シーンを立ち上げましょう。ダウンロードの方法は以下の記事を参考にしましょう。
作品のダウンロードが完了したら、以下の画像をクリックし、シーンにアクセスします。シーンページのQRコードを読み取ると、作品が鑑賞できます。
- PC / VRからシーンを体験する
以下の画像をクリックするとSTYLY GALLERYのシーンのページへアクセスします。機器を選択し、体験しましょう。