《Strabismus AR》と《Strabismus VR/web》の2作品を紹介します。
本作品は、デザイナー/映像作家である半澤智朗さんによって制作され、NEWVIEW FEST 2021にて展示されました。
本イベントは、リアル空間である渋谷PARCOとVIRTUAL PARCO 2021にまたがって開催されました。
VRやARなど先端的なメディアの特徴や機能と現代の状況を観察し、作品を制作する半澤智朗さんによってARとVRの2つの方法でリアルとバーチャルを行き来する作品を紹介します。
半澤智朗さんについて
東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科卒業。
普段はグラフィックデザイナーとして活動しており、音楽ジャケットやロゴデザイン、美術展のフライヤーの他、自身のバンド活動に関係したデザインなども手がける。
近年では実写映像と3DCGを併用した映像制作や、VR美術展の制作、エクストリームインプロヴィゼーション団体、“跡地”(バンド)と幅広く活動している。
Twitter:https://twitter.com/self395
Instagram:http://instagram.com/tomoro_hanzawa/
バーチャル美術展 大破壊元年
https://cluster.mu/w/eaeba523-2c42-46a6-b791-64c61b4b8fea
PICNICYOU/ REAL GOLDSPIRITAS
https://youtu.be/s8Ex0sV0AFo
《Strabismus AR》
《Strabismus AR》はロケーションARという、特定の場所で体験できるAR作品です。
NAKASHIBU Streetで体験できる作品として制作されました(こちらの作品は期間限定で体験可能でした)。
本作品を開くと、前方にスマートフォンが重なって表示されます。
一見、合わせ鏡のように像が繰り返されているように見えます。
しかし、画面を通り過ぎる人々などをよく見ると、違和感に気づくことができます。
この画面には、スマートフォンに表示される風景はリアルの映像と、複製されたフォトグラメトリの映像が交互に表示されていました。
《Strabismus VR/Web》
《Strabismus VR/Web》は、VIRTUAL PARCO 2021上で体験できるVR作品です。
こちらはVRでの体験を想定して作られましたが、Web上から体験することもできます(VRでのVIRTUAL PARCOの体験の仕方はこちらからご確認ください)。
本作品はAR作品と対になる形で、VIRTUAL PARCOのNAKASHIBU StreetをVRで体験できる作品です。
《Strabismus VR/Web》を開くと無数のスマートフォンが空間に広がり旋回しています。
それぞれのスマートフォンの奥には、画面の奥にリアル空間を複製した像を見つけられます。
メディアは我々の目の前で振動していた
VIRTUAL PARCOでの作品解説では、本作を以下のように作者は説明しています。
フランスの思想家ポール・ヴィリリオは、様々な“視覚機械”により取得されたイメージがリアルタイムに共有され、物理的な現実より第一義的な知覚体験として君臨する未来を予言した。
そしてスマートフォンを通して表示されるARコンテンツは、鑑賞者の視界のごく一部を占めるディスプレイを視覚体験における最上位レイヤーとして規定している。
本作品はヴィリリオの指摘を足掛かりに、モバイルAR特有の局所的視覚体験をより強調し、逆説的に物理現実と仮想現実の内外を行き来するような体験を目指し構成されている。
AR、VRの作品は対照的かつ相互補完的な構成となっており、それぞれのデバイス特有の性質を利用した。
(NEWVIEW公式ページより引用)
本作品は《DisplayXR》をはじめとし、メディア装置の特性とそれを取り巻く知覚の変化を観察し作品を制作してきた半澤氏ならではの観点で制作されています。
上記の作品説明のように、ロケーションARの特性や、ロケーションを主題にしたVRの特性を明示的に作中で扱っています。キャプションとも合わせて本作を見ると、ヴィリリオの予見が現在どう解釈可能かの一つの回答のように見えます。
言い換えると、ARとVRどちらも、人間の視覚にとって一番目の前のレイヤーに存在し、デジタル空間を現実に重ね合わせ表示するメディアです。それを象徴的に表現する作品となっています。
現実とARやVRの間で眼球は空間を泳ぐ
ARバージョン
ARでは、現実と複製された風景が正面方向に連続することで、一つ外側の風景が周りの風景の額縁のようになっています。
合わせ鏡と違って、光が拡散し減衰しないため、交互に繰り返される現実と拡張現実は無限に続くように見えます。本作ではこのオブジェクトが有限個なのか、無限個のシミュレーションが行われているか、一見、見分けはつきません。
しかし、仮に無限の繰り返しを目指したとしても、コンピューターの演算能力とディスプレイの解像度、そして人間の視覚の限界によって反復は有限に収束するでしょう。
人間と機械が有限な力を持つ現状を突きつけつつも、それはかえって、有限なこの場所から無限に前進できるような錯覚を起こしているとも言えます。これは、肉体的にも、技術的にも、物理現実とその拡張をメディアによって夢想する私たちの比喩とも取れます。
VRバージョン
VRでは、コンピューターの演算子や、インターネットを思わせる情報によってシミュレーションされた空間のなかに、複製された風景を映すスマートフォンが広がります。
鑑賞者は、初めはスマートフォンの奥に何が映っているか分かりません。
複数の場所や時間を表示する演算がそれぞれのスマートフォンで行われているように見えるかもしれません。
VIRTUAL PARCOのNAKASHIBU streetを進みスマートフォンたちに近づくと、それぞれのスマートフォンは、同一の複製された現実空間を表示していることがわかります。
バーチャルリアリティの空間の中で、バーチャルリアリティの空間が広がる画面が表示されているスマートフォンを表示させ、さらにそのスマートフォンの奥に複製された現実が広がるという構成になっています。
これらのスマートフォンは、常に鑑賞者に対して正面を取りながら空間を旋回しています。
バーチャルリアリティの様々な空間を覗き込む我々が、ある現実の上に存在し、そしてその現実から見返されているような印象を受けるような作品です。
「Strabismus」
このように、Strabismusの両作は、ARやVRらしい風景を背景に表示しながらも、そこにデバイスを通して再度複製された現実空間が現れている構成をとり、2作が相補的に理解できるものとなっています。
ARは空間が現前しそれが繰り返されること。VRは様々な空間が展開され、それぞれが無数に繋がりながら連動し集合となり一つの宇宙のような空間を構成すること。
そして、それらは同時に複製を前提とした技術であり、土台にある現実はいつもこちらに顔を向けていること。そうした作者のメディアと空間への思索を比較しながら味わえる作品です。
最後に、タイトルの「Strabismus」は「斜視」という意味です。
斜視は、片方もしくは両方の眼球の照準がずれていることを表します。
現実とARやVRを行き来する我々の目が、それらを観察する中で乱れた振動を繰り返す様はどのようなものでしょうか。
シーン体験方法
こちらのシーンは「VIRTUAL PARCO 2021」内の1作品として体験できます。
シーンが表示されたらVRモードに切り替え、シーン内のパンフレットからStrabismusをタップしてください。
クリック後、以下の画面が表示されます。
スマートフォン版STYLYをすでにダウンロードしている場合「Continue on Browser」を選択してください。
そして「Play on Mobile App」を選択するとシーンを体験できます。
HMDデバイスをお持ちの方は、PC(Webブラウザ)から「シーンを体験する」ボタンをクリック後、シーンページのVRアイコンをクリックしてください。
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https://store.steampowered.com/app/693990/STYLYVR_PLATFORM_FOR_ULTRA_EXPERIENCE/
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https://www.oculus.com/experiences/quest/3982198145147898/
シーン体験方法の詳細を知りたい方
VRシーン体験方法については、以下の記事をご参照ください。
Edited by SASAnishiki